官能小説家の執筆旅行

市樺チカ

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夕食

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夕日が殆ど沈んだ頃、幾人かの小僧が夕食の膳を運んできた。
支度を進める小僧に酒を一瓶頼み、真田の部屋の前で声を掛ける。

「先生」

反応が無いので一声掛けて襖を引くと、文机で頭を抱える姿があった。

「先生、夕食の支度が出来ています」
「あぁ、ごめんね。今行くよ」

頭をがさがさ掻きながら立ち上がる。
居間には豪華な膳が用意され、焼けた川魚の香りが鼻を擽った。

「凄いね、美味しそうだ」
「大きな山女魚ですね。珍しい」

隅々まで膳を眺め、どれから箸を付けたものかと品定めをする真田に猪口を差し出す。

「酒もありますが、どうされますか?」
「勿論飲むとも。熊井君は気が利くね」

満面の笑みで猪口を受け取り、注がれる酒を受け止めた。



「そういえば、風呂はどうだったんだい?広かった?」
「良かったです。一人で使うには勿体ない広さですよ」
「そうなんだ、それは楽しみだね」

綺麗に身を無くした山女魚の骨をつつき、真田が静かに箸を置く。
手を合わせて御馳走様、と呟いた。

「そうだ、熊井君。背中を流して貰えないかな」
「背中、ですか…」
「そうそう。温泉で湯女に背を洗われているうちに―、という場面の参考にね」
「…自分で宜しければ」

何とも複雑な顔の熊井を横目に、へらりと笑って腰を上げた。
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