官能小説家の執筆旅行

市樺チカ

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まずは半纏、その後ぱさりと浴衣が下に落ちる。

ごつごつとした筋肉が全身を包んで、その上を鮮やかな刺青が流れている。

全身を左右に分けて異なる絵柄が描かれているらしい。
左肩には鮮やかな色彩の鯉が下を目指して泳ぎ、やがて美しい青龍が脚に巻き付いている。
反対の右脚には青く輝く鯉がいて、上へと登って極彩色の龍が右胸で吠えていた。

「あぁ、あぁ―いいですね、素晴らしい」

鼻息荒く熊井に這い寄って、ガリガリと原稿用紙を埋めていく。
狂気じみた勢いで文字を書く真田に、思わず半身引く。

するとぴたりと真田の動きが止まった。

「熊井。動くなよ。よく見えないだろ」

空気が張り詰める。
真田がゆっくりと立ち上がって、髭に囲まれた顎を掴んだ。
顔を囲むように生えた髭を優しい手つきで一周なぞる。

「うん、美しいね」

酒のせいで赤く充血し、蕩けた瞳が熊井を見つめる。
不意に掛けられた優しい言葉に、胸が大きく鳴るのを感じた。


「後ろを向いてくれるかな」

言われるままに向きを変える。
背中にもまた、大きく美しい龍が描かれていた。

「ここが頭だね。それがこうして―」

龍のくねる体をぬるい指が撫でていく。
背骨を行ったり来たりしながら、肩甲骨、脇腹、腰へと下りていき、尻へと繋がるところで止まった。

「っ―先生、それ以上は…っ」
「これ、邪魔だから取るよ」

熊井の言葉は最早届いていないのだろう。
下着に手をかけて一気にずり降ろした。

「なるほど…ここまでなんだ」

なぞる指が尾てい骨の上で止まった。
熊井がほっと胸を撫で下ろす。

「ふむ…、次、前。」

一瞬弛んだ表情が、今度は一気に赤く染まる。
心なしか刺青の彩度が上がっているようにも見えた。

「っ、先生―」
「早く前を向きなさい」

真田の手が括れた腰を掴み、一気に手前に引く。
不意を突かれた体は簡単に向きを変えた。

「…おや、これは…?」

真田の視線の先、熊井の股ぐらには、硬く怒張した肉棒が腹にぶつからんばかりに上を向き、ぱくりと開いた先端から露を垂らしている。

「み、見ないで…ください…」

顔を背けて泣きそうな声で呟く。
やくざものの風格など最早欠片もない。

「ほう、これは中々…」

官能小説家としての性なのか単なる好奇心なのか、真田はペンを置いて熱く猛るそれに手を伸ばした。

「う、っふ―ッ」

弄る、というよりも向きを変えて眺めるという方が相応しいかも知れない。
根本部分に指を添え、少し余った皮を下へずり下ろす。

「―ぁっ」

半分覆われていた先端の膨らみが完全に露出し、外気に触れてふるりと震えた。

「ふむ…随分と綺麗な色だね。そちらの方々は女好きが多いと聞いていたけれど」

膨らみの境目に指を引っかけて摘まむような形で左右に軽く動かす。
その様子を一瞬たりとも逃すまいと、真田は真剣な眼差しを向けていた。

「じ、自分は…っ、あまり女には、興味がなく…ッ、ぅ―」

顔を真っ赤に上気した熊井。
上から見ると、自らの股に真田が跪いているように見えてしまい、実に淫猥な光景だ。

「そうなんだ。それじゃあ、君…童貞かい?」
「―っ」

小さく体を震わせて俯く熊井の様子を見て、嬉しそうに笑った。

「あぁ、すまない。他意はないんだ。ただ、うぶだという可愛らしさがある事で、更に筆が進みそうでね」
「―縁がなく…、その…」

大きなてのひらをきつく握りしめ、目を瞑って答える。

「そう、教えてくれてありがとう」

真田が立ち上がり、股ぐらから顔が離れる。

熊井の両腰骨を左右の手で掴み、そのままくびれを通って脇腹、胸、脇までをくすぐるように触れる。
そして首まで上がってくると、今度は顔を傾けて近付け、鼻と鼻とを触れ合わせた。
じっと見つめれば、照れて視線を泳がせる。

「ねぇ、熊井君…」
「な、何―んぐっ―ッ」

口を開いた瞬間に、先ほどまで肉棒を弄り回していた指先を熊井の唇へ捩じ込んだ。
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