官能小説家の執筆旅行

市樺チカ

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酔い

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「あぁ、さっぱりした」

濡れた髪を拭いながら再び居間の座布団に座り込む。
寝巻の前を緩めながら、猪口に酒を注いでいく。

「先生、それでは風邪を引きます。半纏か上着があれば取ってきますが」
「あぁ、ありがとう。書斎に有ったと思うけれど…」
「―これですね、どうぞ」

丁寧に広げて背中に掛ける。
まだ飲むつもりでいるらしい真田に、ため息を吐きながら向かいに座った。

「君も風呂に入ってくるといい。書斎にもう一つ半纏があったでしょう?それを着てね。浴衣と下着は浴室に置いてあるからね」

酒に酔いながらも細かい所まで気を使う様子に、熊井は目を瞬かせた。

「あ、ありがとうございます…」
「どういたしまして。さ、ごゆっくり」

ひらひらと手を降りながら、再び袋に手を入れてつまみを取り出す。
今度は干鱈のようだ。



「風呂、ありがとうございました。水は抜きますか?」
「うん、そうだね。もう洗濯なんかもしないし、お願いするよ」

風呂から上がると、先程までの真田とは全く様子が違ってしまっていた。
言葉は実に明瞭だが、まるで溶けてしまったかのようにテーブルに突っ伏している。

「流石に飲み過ぎでは…」
「うん、そうだねぇ。そろそろ寝ないとね…」

言いながらも動き出す様子がない。
仕方なく側に寄り、片腕を自分の首に掛けて担いだ。

「あらあら、ありがとうね。寝室はあっちだよ。君の部屋が向かいにあるからね」

ふわふわと上下する指が指す方向を目指して歩を進める。
寝室の戸を引き、敷かれた布団へゆっくりと横たえた。
なるべく静かに部屋を出ようとすると。

「おや、おやおや?熊井君、ちょっと」

がばりと体を起こして手招きをしている。
近くに寄ると、熊井の足元をじっと見つめていた。

「君の刺青は足首まで入っているの?」
「はい…。どうかしましたか?」

ぼんやりとしていた筈の真田が勢いよく後ろを向き、枕元の原稿用紙とペンを引っ掴んで畳に座り込んだ。

「ちょっと!悪いけど、良い物が書けそうなんだ!脱いで貰えるかな?」

言いながらぐいぐいと浴衣を引っ張る。

「せ、先生…!何を―っ!」
「頼む!お願いだよ!直ぐに終わるから―」

拝むように手を合わせて頭を下げる真田に、嘆息して浴衣を肌蹴た。
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