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旅支度
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林田との打ち合わせの翌日。
昨日は殆どの時間を旅行先の選定と下準備に使ってしまった。
その中で真っ先に考え付いたのは、一人で旅をするのはかなり困難だということだった。
日頃から家に籠ってばかりいるため体力がなく、重い荷物を持って歩く事が出来ないし、人との交渉にもかなり不安がある。
そこで、身の回りの世話をする手伝いを雇う事にした。
「こちらの文面でお願いします」
古い紙とインクの匂いが染み付いた受付机に、一枚の用紙を置く。
―当方作家。取材の為、各所随行の上荷物持ち等身の回りの世話を行う手伝いを求む。募集人数一名、男性優遇。委細面談にて。連絡先は―
分厚い縁眼鏡の男が紙面に指を走らせながら文面のチェックを行う。
「はい、こちらで結構です。新聞への掲載は明日になりますので、宜しくお願いします」
こちらこそ宜しく、と丁寧に頭を下げて新聞社を後にした。
こういったことは初めてだが、本当に応募は来るだろうか。一抹の不安を胸に、鞄屋へと足を向けた。
「お客様、どのような物をお探しで?」
ずらりと様々な革製品に囲まれた店内へ入ると、品のよい、いかにも老紳士といった風体の男性が寄ってくる。
「暫くの間旅をすることになって、長期用の旅行鞄を探しに来たんです。出来るだけ丈夫な物を」
老紳士は切り揃えられた口髭を触りながら、店の端々からいくつか鞄を持って来て真田の前に並べた。
「このあたりがお勧めですな。革貼りに表面加工をしておりますから、多少の濡れも耐えます。それにトランクですから、雑に扱っても破れる心配がありませんよ」
右から大中小の大きさのトランクを順に開けていく。
外の色合いはどれも同じだが、内貼りの布地がそれぞれ違うようだ。
「では、この紫の内貼りの、真ん中のものを」
「はい、毎度ありがとうございます」
にっこりと笑って支払いを済ませる。
中々に値が張ったが、真田の表情は晴れやかだ。
買い物に出ることが滅多にないため、新しい物を手にした日にはいつも大人げなく胸を踊らせてしまう。
「さあ、後は帰って荷造りだね」
ふふふ、と笑いながら家路についた。
昨日は殆どの時間を旅行先の選定と下準備に使ってしまった。
その中で真っ先に考え付いたのは、一人で旅をするのはかなり困難だということだった。
日頃から家に籠ってばかりいるため体力がなく、重い荷物を持って歩く事が出来ないし、人との交渉にもかなり不安がある。
そこで、身の回りの世話をする手伝いを雇う事にした。
「こちらの文面でお願いします」
古い紙とインクの匂いが染み付いた受付机に、一枚の用紙を置く。
―当方作家。取材の為、各所随行の上荷物持ち等身の回りの世話を行う手伝いを求む。募集人数一名、男性優遇。委細面談にて。連絡先は―
分厚い縁眼鏡の男が紙面に指を走らせながら文面のチェックを行う。
「はい、こちらで結構です。新聞への掲載は明日になりますので、宜しくお願いします」
こちらこそ宜しく、と丁寧に頭を下げて新聞社を後にした。
こういったことは初めてだが、本当に応募は来るだろうか。一抹の不安を胸に、鞄屋へと足を向けた。
「お客様、どのような物をお探しで?」
ずらりと様々な革製品に囲まれた店内へ入ると、品のよい、いかにも老紳士といった風体の男性が寄ってくる。
「暫くの間旅をすることになって、長期用の旅行鞄を探しに来たんです。出来るだけ丈夫な物を」
老紳士は切り揃えられた口髭を触りながら、店の端々からいくつか鞄を持って来て真田の前に並べた。
「このあたりがお勧めですな。革貼りに表面加工をしておりますから、多少の濡れも耐えます。それにトランクですから、雑に扱っても破れる心配がありませんよ」
右から大中小の大きさのトランクを順に開けていく。
外の色合いはどれも同じだが、内貼りの布地がそれぞれ違うようだ。
「では、この紫の内貼りの、真ん中のものを」
「はい、毎度ありがとうございます」
にっこりと笑って支払いを済ませる。
中々に値が張ったが、真田の表情は晴れやかだ。
買い物に出ることが滅多にないため、新しい物を手にした日にはいつも大人げなく胸を踊らせてしまう。
「さあ、後は帰って荷造りだね」
ふふふ、と笑いながら家路についた。
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