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第一章 『少年の革新》
第一章5 『至高の剣戟』
しおりを挟む――此処に来てからコウは、数え切れないほどの年月を過ごしていた。
数々の成長が見られたコウだが、始めの頃は上手くいかなかった。
剣術を極めると言っても、何から始めれば良いのか分からなかったコウは、剣を振るところから始めた。
技を覚えるなどという事は一切せず、剣を振ることだけに時間を費やした。
ただ剣を振るだけではなく、より良い剣の振り方を模索する日々。
妥協は一切せず、コウが本当に納得のいくまで、何年も何年もそれを続けた。
――そして、その次に俺は、剣気の取得に取り掛かった。
* *
――『剣気』
人々の間で「剣術」が浸透するこの世界には、『剣気』というものが存在する。
これを纏うということは、なかなか一朝一夕で身につくことではない。
しかし、次第に剣術を修練していくことで、やっと身につけることが出来るのだ。
この『剣気』を体や剣に纏わせる事で、攻撃力や攻撃の幅を飛躍的に上げたり、広げたりすることが出来る。
使い方によって、『剣気』が発する効果は異なり、『剣気』をいかに扱うかで、火や水、風など、様々なものの再現が可能となるのだ。
例えば有名なものだと、剣に炎を纏わせて技を繰り出すというものがある。
他にも、水のような剣戟を繰り出すものがあったり、剣の重みを増すものがあったりなど、剣気がもたらす効果は千差万別。
想像力次第で、多種多様かつ強力な技を生み出せるのだ。
しかし、『剣気』は一人前の剣士にしか扱うことが出来ない。誰もが『剣気』を使えるような世界にはなり得ないのだ。
だが、これだけは確かに言える。
――『剣気』は、極限の剣術への鍵となる。
そして、その極限の剣術へと辿り着いたその先には、まだ見ぬ世界が待っている。
* *
剣気の取得はコウにとって必要不可欠だった。
一人前の剣士なら誰もが扱えるものだが、必ずしも全員が取得できるわけでもない。
それこそ、ユウキもハヤトも取得出来ていなかったのだ。才能というものが無いコウにとって、これを取得することが困難だったことも察しがつくだろう。
――しかし、それを取得してから、コウの修練は大幅に変化した。
実践を意識した練習や、剣技の開発、色んな自然環境での動き方の演習など。
時間があっという間に過ぎてしまうほどに、充実していた修練の日々。
思いつくことは何でもしてきた。
それに、コウが望んだものを、この空間が創り出してくれた事もあった。
だから今、強くなったコウは――、
「――俺は、家族を守る」
家族を守る為に、魔物と対面していたあの瞬間に回帰する。
「ありがとう。そして、さようなら」
コウは、此処での時間の、原点ともいえる場所に立っていた。
あの、緑に生い茂る草原。
コウが始まった時点。
カチ、カチ、カチ、と音が聞こえる。
コウは、深い思い入れのあるこの景色を眺めながら、回帰する瞬間を待つ。
ここから見える景色は、夕暮れの赤い光で染まっていた。
そして今、ガチャーン、という音が鳴り響くと同時に、俺は現実世界へとやって来た――。
*
まずコウは、状況を再確認する。
コウは、魔物の太刀を押し返そうとしていた。
……ああ、久しぶりだな……‼︎
目の前の魔物に向けて、コウは不敵な笑みを浮かべる。コウは、魔物が押し込んでくる太刀を、剣で捌きながら跳ね返した。
その一連の流れを、呼吸するように行ったコウは、立ち上がりながら、剣を鞘に納める。
そして、両足の間隔を広げるようにして腰を下げ、技の名前を口にするのと同時に、抜刀した。
「――〝雲外蒼天〟」
瞬間――辺りは神々しい空気へと変わる。
そして今、一つの剣戟が放たれ、目の前の魔物を浄化するように屠った。
日が沈みきった世界には、一瞬だけ蒼空が広がり、明るく輝いている光が差し込んでいる。
さっきまでの全てのことが、まるで嘘のように感じるまでの剣技。
――雲外に蒼天あり。
努力して苦しみを乗り越えた先には、素晴らしい剣戟が作り上げられる。
それは、コウがこの世界で初めて解き放った、至高の剣戟だった――
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