悠介君の片想い

むふ

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本編

2.傘を貸す

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今日は朝からあまり天気が良くなかった。
ただ、厚い雲に覆われている空の色は白く、まだグレーでも真っ黒でもないからギリギリ天気は保つかななんて考えていた。
歩きで駅まで行く為、傘という荷物がどれだけ邪魔か。濡れた傘を持つのも嫌だし、濡れなくても持っているだけで邪魔だ。小雨くらいなら走れば大丈夫だから、今降っていなければいける。最悪帰り降っても学校の外にはコンビニがあるから買えば良い。それに念のため天気予報を確認したら、降水確率は40%。


ーーうん。俺は持って行かない。


翔太傘を持たず登校。







ーー僕は千載一遇のチャンスを目の前にしているのでばないだろうか。


悠介は朝、教室へ入ろうと扉を開けた。すると、目の前に悠介が愛してやまない彼が、今まさに教室のから出ようとしていたらしく、ばったり会ってしまったのだ。


「あっ!……っごめん」
「ぁ、ごめん。おはよー」
「……おはよ」


ーー挨拶できたーー!
  何日ぶりだろ。しかも、目の前でばったりなんて入学してから初めてだ。
今日はラッキーな日だ。

でも、出来ればあのままぶつかって、さりげないボディタッチまでいきたいところだったな。いや、贅沢は言ってられないし、まずそこまで勢いもよくなかったから、今度はもう少し元気よく教室に入る必要がある。




なんて、朝から翔太と言葉を交わせた、というか挨拶が出来た悠介はラッキーだと一日ルンルンで過ごしていた訳で、その後は一言も彼と話すことも無く小さな嬉しさを心に帰宅の途に着くべく下駄箱へやってきた。


そこで千載一遇のチャンスに出会う。

目の前には1人佇む翔太の姿が。

降水確率40%は思いっきり下校時間にあたり、校舎外にあるコンビニに行くにも、雨の降り方が激しく、コンビニに着くどころか外に出て3歩でびしょ濡れになるだろう。
朝傘を持たずに家を出た翔太は雨に打たれて帰るか、もう少し雨が弱くなるのを待つか考えてあぐねいていた。


ーー橘君の手には傘がない。
きっと傘を忘れてどうしようか悩んでいるに違いない。
そして僕はなんと、学校に忘れていたビニール傘が一本!念のため今日持ってきた折りたたみ傘が一本!
これは!きた!


悠介の中でイメージを膨らませる。

パターン1、ビニール傘を渡し次会った時でいいから、返してねと言って次回もお話をするチャンスを残しておく。

パターン2、ビニール傘しか無いフリをして、相合い傘をして、コンビニか駅まで一緒に行くよう誘う。ただこれは断られる可能性が高い。

パターン3、ビニール傘を学校に置いて行き、自分も濡れるから、一緒に走ってコンビニまで行こうと誘う。


さぁ、どのパターンが1番良いか。
2、3のパターンは断られる可能性が高い。
それなら、やはり、パターン1!明日返してね!!!よし!!!




「たっ、橘くんっ」

最初のた、が蚊の鳴くような声でしかも噛んでしまった。
でもめげない。


「ん?菅田?」
立ち尽くしていた彼は、僕の呼びかけに気がついてくれて振り返ってくれた。

よし!いけ!!!


「っこれ。傘無いんでしょ?僕、折りたたみ持ってるから。ビニール傘うちいっぱいあるから、捨てて大丈夫だから、じゃあ、気をつけて帰ってね」


橘君のうん、とかいや、とかビニール傘を借りるのに遠慮して来れたのか、よくわからないけど半ば無理矢理押し付けるようにして、捲し立てて話してしまった。
ありがとなんてお礼の言葉が聞こえるか聞こえないかくらいに、脱兎の如くその場を後にした。




ーー何やってんだ僕は!
パターン1、傘を貸して、返してね!次回を残すプランが!
何が、捨てていいから、僕の家ビニール傘いっぱいあるって何!?あの1本だけだよ、うちにあるの!
しかもコミュ症じゃないか、あれでは!
一方的に話して、傘押し付けちゃったよ。
そして逃げてきちゃったよ!


でも、菅田って名前呼ばれた。


今日はラッキーな日には変わりないや。








次の日。


天気、晴れ。


いつも通り登校して、昨日のようにラッキーは続くはずもなく、教室の扉を開けたらまた翔太君が目の前に!なんて都合の良か行かない訳です。
念のため、翔太君が扉の前にいる可能性も考慮して、昨日より少し勢い良く入ってみたけど、まぁ、不発どころかまだ翔太君は登校してなかった。


ーー席に行くまでの通り道にいたら、挨拶できたのにな。


翔太君以外のクラスメイトにおはようと声をかけながら、席に着いて。朝礼までまだ30分もあるな、なんて時計を見ていた。


「おはよ」
「……ん?おはよ?」


時計を見ていたら、目の前に誰かが立った。
つつつつ、と視線を上げると、愛する愛する翔太君。


ーーラッキーが2日連続。
あぁ、僕は今日死ぬのかな……。


「昨日は傘、ありがとう。これ、返す」


そんな翔太の手には、ビニール傘が握られていた。


ーーわざわざ傘を持ってきてくれたの?!翔太君!なんて優しい、律儀!
昨日テンパリ過ぎて、捨てて良いと言ったにも関わらず!?


内心ドキドキ。
ただ、平常心を装って、膝の上で強く拳を握る。


「わざわざ、ありがとう。捨てても良かったんだよ?」


翔太から渡された傘はしっかり乾いており、綺麗に畳まれていた。


「ビニール傘でも、お金を出して買った物だと思うし、あと、借りた物はちゃんと返す主義」


返してもらったビニール傘を抱いて、ありがとなんて言ってる間に彼は自分の席に着いていた。

少し距離の離れた彼の机には、仲良くしてるクラスメイトがすぐ近寄って、昨日の雨酷かったなんて聞こえた。
人の話を盗み聞きなんて良くないから、早々に廊下にある自分のロッカーにビニール傘を入れに行こうと席を立った。


「菅田に傘借りれて、昨日は凄い助かったんだよね。靴はいっちゃったから、今日はスニーカーできたけどさ。降水確率は時間別のやつを確認しようと思った」


ーー今日もラッキーな日。傘は絶対予備を持ってくるべし!


にやける顔を我慢して、ロッカーに向かった。
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