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3.お婆ちゃん
3.お婆ちゃん2/2
しおりを挟むノックの音で起きるとお婆ちゃんが授乳の時間だと言って赤ちゃんを連れて来た。
「そう言えば、あんたの名前を聞いてなかったね。あたしはオルニカだよ。オル婆とでもお呼び」
「あ、はい。私は平松綾香と言います」
「ふーん。……で、何て呼べば良いんだい?」
「えっと……、綾香でお願いします」
あいよと返事を短くしたら、聞いて来たのに大して興味がなさそうであった。
青い髪の赤ちゃんに授乳をしながらお話をする。
「ご飯も食べられるようになって来たから、少しずつ体を動かせるようにしていかないとね。後で復薬持って来てやるからお飲みよ。その後は補助魔法かけてやるからベッドから降りてみな」
少々つっけんどんな言い方であることもあって、なんだか早く回復して出ていけと言われているような気がした。
――確かにここにはお婆ちゃんだけみたいだから、よそ者は迷惑以外の何者でもないし……。でも、何だかんだ優しそうだし……。いや、別の世界から来たとか正体不明過ぎるから実際怖いのかも知れないし。…………でも赤ちゃんに授乳できるの私だけみたいだから……。いや、赤ちゃん共々元気になったから出てけとか言われるかも……。
でも、いや、と頭の中でお婆ちゃんがきっと優しくしてくれると言う甘えと、厳しい現実を受け入れなければならないと煩悶した。
ぐるぐると答えなんて出ないことを考えているとお婆ちゃんがまた部屋に戻ってきた。
「ほれ、お飲み」
「ありがとうございます」
黄緑色の一見お茶に見える物が入ったコップを手渡された。
匂いは特になく、先程言っていた回復薬だろう。
回復薬なんていう名前なのだから、日本にあったエナジードリンクなんて目じゃないのかも知れない。
――待って……これはとても貴重な物なのでは?
コップの中身をマジマジと見ていると訝しげにお婆ちゃん覗き込んできた。
「おっ!?」
「早くお飲み。毒なんか入ってないよ」
「あ、いえ、とても貴重な物なのではないかと……。ご飯をいただいているので、飲まなくても回復するかな……って」
がはははと笑い始めたお婆ちゃん。
「なんだい。遠慮して口つけなかったのかい。高価でもなんでもないよ。その辺に薬草は生えてるし、それは私が作ったもんだからいつでも作れる。それにね、それ飲んだのと何も飲まないとでは回復する時間が大きく違う。明日に生活できるくらいになるよ」
「……わかりました。ありがたくいただきます」
その辺に生えてた薬草っていう何とも雑な言い方に、適当に雑草積んできてそれっぽく煎じたくらいの感覚になる。
しかし、飲まないと始まらない。
ここで駄々を捏ねて言う事聞かなければすぐ追い出される可能性もある。
――え、回復して動けるようになったら出てけってのもあり得るのでは?!
飲むまで出て行かないのだろう。
ベッドの横で腕組みをしてずっと見ている。
意を決して一気に流し込んだ。
――む、無味無臭ー!
「ありがとう、ございました」
「そんな一気に飲まなくても良かったのに」
またガハハと笑ってコップを受け取ると、空いた手をくるっと回した。
すると私の体が淡く光り包まれた。
「補助魔法だよ。あ、あと薬の効果は30分もすれば何となく体がポカポカしてくるから、そしたら効いてきたってことだからね。あったかくなってきたらベッドから出てみな」
「はい」
その後は何も言わずに部屋を出て行った。
階段を降りる足音が聞こえる。
見た目はお婆ちゃんだが、足腰はしっかりしているみたいだった。
また部屋に1人になった。
1人になってまた先ほどの考えても答えが出ない自問自答の繰り返し。
――また1人になっちゃうのかな……。
いや、赤ちゃん達だけでもお婆ちゃんにお願い出来ないかな……。授乳どうしよう。
赤ちゃんも一緒に出て行って、ご飯だけでもここにもらいに来れないか……、いや、出て行った所にご飯もらいになんて来れないよね……。
不安ばかり襲って来て、泣きそうになってしまった。
そのうちに体が暖かくなってきた。
回復薬が効いて来たのだろう。
ゆっくり体を起こそうと力を入れると、少しぎこちないながらも体を起こすことができた。
「体が軽い気がする……」
ベッドからゆっくり降りて立ってみると、どこかに掴まっていれば歩けた。
人はこんなにすぐ体が弱ってしまうのか。
お婆ちゃんよりも足腰は弱っていて部屋で1人小刻みに震える姿は側から見たらとても滑稽であった。
何度か往復しているうちに掴まらなくても歩けるようになってきた。
転ばないように集中していたが、余裕が出てくるとまた余計なことを考え始めた。
――また森で1人は怖い……。
何度も込み上げる涙を我慢して、このまま考えていても埒が開かないのでゆっくりした足取りで部屋を出た。
階段を降りるとリビングがあって、6人は席に着けそうな机があった。
その一つにお婆ちゃんが腰掛けており、傍のベビーベッドに寝かせられた2人の赤ちゃんが宙に浮くおもちゃをじっと見ていた。
部屋を出た音に私が出て来たとわかったのか、階段の上からでも視線が合った。
本を読んでいた顔を上げて、おやおやと言っている。
「何だい。トイレかい?シーツに魔法陣仕掛けてあるからベッドでしたって良かったんだよ」
――え、それは知らない。…………って、私が気を失ってる間ベッドに垂れ流してたのか……。
「いえ、お話したい事がありまして……」
「そうかい。呼んでくれれば部屋まで行ったのに。……降りてこれるかい?」
「はい」
ギチギチと鳴る階段を手すりに掴まりながら降りる。
補助魔法を使ってもらわなければ座って降りる所だった。
古いお家の割には綺麗だと思った。
魔法があるのだから、掃除とかも楽なのかも知れない。
おもちゃが家にあるという事は、以前も赤ちゃんがいたのか……。
お婆ちゃんが座っている横の席に座る。
緊張しすぎて、体を窄めてしまっている。
方やお婆ちゃんは私が話し出すのをじっと待っていてくれていた。
――ここに置いてくださいってお願いするんだ……!
「あの……お願いが、ありまして……」
どんどん尻ボミになる声。
断られてしまった時に現実を受け入れられるか考えられない。
何としてでもここに置いてもらう為に、自身をアピールしなければならないと、心を決めて大きく息を吸った。
「あの!こきょに、置いていただけないでしょうか!」
力みすぎて噛んだのはご愛嬌として受け取って欲しい。
お婆ちゃんが豆鉄砲をくらったように目を見開いて口を開こうとしている所を遮ってアピールタイム。
拒否の言葉を出させてはいけない。
「赤ちゃんのお世話は私がします!部屋を1つお借りできれば……料理も出来ます!掃除は……必要無いかも知れませんが……できます!雑用でも、畑仕事でも何でも!………………あ、痛いのと苦しいのは出来ませんが……か、必ず!お役に立ってみせます!!!」
「ちょ……ちょっと、ほれ、落ち着きな……」
息継ぎもままならないスピードで捲し立てる。
呆れてあわれみなのか、溜息をつかれて膝に付いていた私の手を取ってくれた。
「元気になったら……」
ごくり。
喉が鳴るのと握られている手に汗が滲んでくる。
お婆ちゃんがもったいぶっているのではないのに、とてもとても声が遠い。
「ほれ、ほーれ、聞いていたかい?」
「……は、?!へ?」
「元気になったら、働いてもらうよって」
「え、……え、出て行かなくて……」
「誰が出ていけなんて言うかね……。こんな森の中に1人ほっぽり投げないわ。赤子らもいるんだ。人手は多いにこしたことないよ。ただ、やることはやってもらうよ」
「は!はい!!!がんばります!お世話になります!」
体が本調子でもないのに、椅子から勢いよく立ち上がって90度にお礼をしたら足が踏ん張れなくてそのまま前に倒れた。
倒れた音に驚いた赤ちゃん達が泣き出して、やれやれと呆れながらも半笑いのお婆ちゃんに手を貸してもらった。
――良かった。本当に、良かった。
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