10 / 23
2.異世界
2.異世界2/2
しおりを挟む日が登ってくるとその穴を拠点にして食べ物を探し始めた。都合よく見つからない。残りの飴をいつ舐めようかと考えていると胸の張りに気がついた。
赤ちゃんが亡くなってからも体は母親としての役割を果たそうとしている。おっぱいのでは良かったから完全母乳で育てられると思っていた。
――おっぱい……用無しになっちゃったな……。
あーつらい…………。
胸が痛いが、絞るのも何だか勿体無くて痛みを我慢してあふれる母乳が服に染みを作るのを他人事のように眺めた。
何の神様のいたずらか、赤ちゃんの鳴き声に似た声を聞いてしまう。空腹で幻聴が聞こえているのか、こちらの世界の獣の鳴き声かわからない。
獣であったらどうしようと思いながらも人がいる可能性にかけて声のする方向に足を向けた。
――嘘でしょ……。
目にしたのは木の幹に無造作に置かれたお包みに包まれた2人の赤ちゃん。
何かの罠なのか、普通に散歩に来て日向ぼっこしている所なのかわからない。
赤ちゃんがいるということは親や大人が居るはず。
茂みや木の影に隠れながら赤ちゃんを支点に人を探した。
1時間もかからずぐるりと回ったが人の気配がない。
相変わらず赤ちゃんは泣いている。
まだ産まれて1ヶ月くらいじゃないのか、適当に着せられた服とはだけだお包みにとても異様な光景に映る。
「いやいやいや、こんなに放置っておかしく無い?親何してるのよ……。近くに行ったら罠仕掛けられてるとか?え?どうしよ……」
産院で赤ちゃんにおっぱいをあげるのは5時間以上開けないようにと習っている。低血糖になる可能性があるから。ここにいる赤ちゃんが何時間おっぱいを飲んでいないか定かでは無いが、周りに大人がいないのが異様過ぎる。
時計も持っていないので何時間経ったかもわからない。迎えに来るのかわからない状況で、下手に手を出して良いのか困惑した。
――声を出して見るか……。先に赤ちゃんの周りに罠が無いか確認してからか……。
声を出して一気に人がきて捕らえられても困る。
石を集めて赤ちゃんの周りにとりあえず投げてみる。
長い木の枝を見つけて歩く先の地面を確かめながら進んだ。
赤ちゃんの目の前にくると、その赤ちゃんは人間では無かった。
小さな角が額の量端に生えている。
お包みも汚れていてとてもじゃ無いが日向ぼっこには思えなかった。
1人は元気に泣いているが、もう1人はとてもじゃ無いが元気には見えない。身体も小さく、オムツはうんちとおしっこで溢れていた。
――これは……。放置……。
途端に胸が張り裂けそうになった。
赤ちゃんの身なりは最低限の服と布が腰に申し訳程度に巻かれている。服をはだけさせると胸に何か茶色の泥が固まっような汚れがある。よく見ると何か三角か、人為的に何か描いたような三角形の模様にも見える。2人とも描かれていて、何かの儀式なのか、術なのか、意味がある物なのだろう。
この状態でどれくらいの放置されているのか想像もつかない。きっと周りに人はいない。
それでも声を出すしか選択肢はなかった。
「誰か!誰かいませんか!赤ちゃん放置って……。何か理由があるとは思うけど………………。っ、誰かいたら来てください!誰か!」
声を出したら、涙が溢れた。
泣きながら必死に声を出して人を探した。
何か事情があるかも知れないけど、赤ちゃんを放置って他に何かできることがあったはずだと、悔し涙か悲しいのか感情が溢れてしまった。
自分の赤ちゃんは亡くなり、情緒が不安定であったところどこかもわからないところに来てしまい生きることだけに必死になっていた。そんな中で赤ちゃんを見てしまったら心が穏やかでいられるはずもなく、溢れる涙と震える声で必死に人を呼んだ。
――誰も居ない……。
「………………どうして…………」
赤ちゃんの元へ戻ってきて、自分が大きな声を出した事でびっくりしたのか弱々しく泣いていた赤ちゃんも先ほどより大きく鳴き声をあげた。
――お腹が空いているのかな……。
捨てられた可能性がとても高いが、他人の子に世話を焼いて良いのか葛藤したがこの状況を放置しておくことはできなかった。
うんちとおしっこで汚れた布をそのままに、溢れてシミを作った服をたくしあげておっぱいを吸わせた。
弱っていた方の赤ちゃんから先におっぱいを飲ませる。空いた手でもう1人の赤ちゃんの頭を撫でた。
赤と青の対比の髪の色。
弱っていた赤ちゃんは綺麗な青色の髪。
何とかおっぱいには吸い付けるくらいの元気はあって良かったが、勢いよく出たおっぱいにむせてしまった。
3分くらいで一度外して、赤い髪の赤ちゃんに反対のおっぱいを咥えさせる。
上手に飲んでいる。胸を離さんばかりに手を一生懸命伸ばして肌を触ってくる。
2人が満足するまで交互に抱いて授乳をした。
――………………どうして……。
今は亡き赤ちゃんを思い出して2人に重ねる。
赤ちゃんの親へのどうしようもない憤りと、虚しさと、悲しさとぐちゃぐちゃにになった感情が堰を切って押し寄せてくる。
自然と流れる涙が枯れることはないのかも知れない。
授乳後、赤ちゃんが寝た。
もう一度周りを見に行ったがやはり誰もいない。
腰に巻かれた布が汚れていたので小川で洗った。
自分の服を一枚脱いで、半分に割いて申し訳程度に巻いてあげる。
自分も2日ほぼ何も食べていない。
母乳に栄養があるかもわからないが、水だけで何とか凌ぐしか無い。
残りの飴を舐めて、食料が尽きる。
一枚脱いだことで肌寒くもなったが、赤ちゃんを守るためなら苦じゃ無かった。
一晩赤ちゃんが置かれたところで過ごしたが、やはり誰もこない。
空腹で余計に体が重いが、赤ちゃん2人を抱いて穴に戻った。
おっぱいは相変わらずよく出る。布を交換するがおしっこが間に合わない。
穴の中がアンモニアの臭いが漂うが仕方がない。
残りの体力をどうにか使って、草を集めて地面を柔らかくする。
2日しか授乳していないが、赤ちゃんの顔色が心無しか良くなっている気がする。
反射なのはわかっているが、たまに見える笑った顔が救いだった。
人というのは食事を取らないとすぐ動けなくなってしまう。
赤ちゃんに授乳しながら、外から獣に襲われないか気を張っていることもあり更に寝られない。
産後寝不足になるのは世の常であるが、更に過酷であった。その上食事も無い。
人が弱るのは必然である。
赤ちゃんを拾って4日目で立てなくなってしまった。
傍ではお腹が空いたのか、オムツが汚れたのか、寒いのか暑いのかわからないが泣く赤ちゃん。
泣かれると自分を責められているような錯覚を起こしてしまう。
――ごめんね……。ママ、また子育てうまくできなかった…………。
執拗に自分を責めてしまう。自身の子どもが病気だった事も自分が悪いと何度責めたか。それでも赤ちゃんが泣き止むように流れる涙も拭わず、抱き抱えて授乳をする。
動けなくなるのも時間の問題だった。
ごめんね、ごめんねと遠くに聞こえる泣き声に謝罪しか出来ない。薄れる意識の中、体を覆う暖かさに意識を手放した。
――ママ、産んでくれてありがとう。
自分の都合が良い夢を見ている。
暖かく包まれた体が心地いい。
産んだ赤ちゃんなのか、喋れるわけも無いのに聞こえた声に今度こそ自分もそっちに行くから待っててねと笑った。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる