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酒場

酒場2/3

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「リオルド殿、いやリオルド。口を挟まず聞くんだな」
「ぬ?」


 笑顔で今まで聞いていたが、表情がすっと真面目になり少し前屈みになる。肩肘を机について顎に手をやった。目の前に座っているリオルドに少し睨みを聞かせると、吠えていた口を閉じてつられて静かに聴く姿勢をとった。


「まず、2人きりの依頼はこの前君が見たパン屋が初めてだ」
「そら!俺の方が仲がいいではないか!」
「そうはやるな」


 ルーカスが答えると同時に食い気味で被せてくる。手で制して黙るように促すと酒を手にしてまたチビチビ飲み出した。


「手作りハーブティーはない」
「そっ」
「話を遮るな」
「む……」


 少しでも自分が上回っているとわかるないなや、煽らないと気が済まないようで口を開くがその度に制される。酔っていても言うことは聞くリオルド。


 ――ちゃんと待てが出来て偉いな……。


 犬を前にしている気分に度々なるが、年長者や相手を尊重できることはとても素晴らしい事でなんやかんや気難しそうなイリアが完全に拒絶しないのはこの素直さがあるからなのかもと思う。
 しかし酔っているせいか、何度も手で待ての合図をしないと隙あらば喋ろうと前屈みになってくる。


「家の場所も、もちろん入ったこともないし会った回数で言えばリオルドの方が仲が良いと言っていいのかも知れないな」
「……そうにゃろう!そうらろうっ!」


 ルーカスが喋り終わっても手で制されなかったので、やっと口を開ける。背筋を伸ばして鼻高々。
 少ししか減っていない酒を調子に乗って数口一気に飲んでむせている姿を見て少し拍子抜けするが、これからが反撃である。


「ただし、3年前に出会ったとのことだが、俺は5年前だ」
「ん?」


 酒でむせて、テーブルの上の別のコップを探す。別のさけに手をかけて、炙ったベーコンとフルーツを一緒に口にいれてモゴモゴしている。美味い美味いと言っている姿に少し顔を綻ばせてしまいそうになる。
 先ほどから時折肩透かしというか、なんで競ってるのかわからないくらい相手がマイペースであるため調子が狂ってしまう。しかしそこは気を引き締めて仕留めにいく。

 
 まさか自分より前に出会っているなんて思っていなかったルーカスはきの抜けた返事をしてしまう。
 そこからは酒とフォークを手にしてワナワナと震えるばかり。


 5年前の出会いを語り出したルーカス。
 自分の人生を変えてくれた大恩人。
 ビンタをされたことがある。
 2人きりで一晩明かした。
 お姫様抱っこして一緒に過ごした。
 最近王城で再開してハンカチを貸した。
 そのお礼で今度コンダルン湿地へ2人で行くことを取り付けてある。
 パン屋の依頼の日、髪の毛を触られた。(髪をイリアが飲んだ事は言わず)
 パン屋の依頼は偶然だが、こんなに頻繁に出会えるのはもはや運命である。


 ルーカスがエピソードを言うたびに、2人きりで!?お姫様だっこ?!イリアが使用したハンカチを持っているだと!?デートの約束まで?!髪をさわられ
……、運命…。
 狼狽えて最後の方は静かになり、下を向いてしまった。
 

「…………どーだ?」
「…………ぐぬぬ」
「そして俺はイリアとこれから更に仲を深めていきたいと思っている(不能脱却の為に)」


 狼狽えている。奥歯を噛み締めて恨めしそうにしている。


「……それれも、それでも俺の気持ちは負けないっ」
「…………」


 真剣な眼差しに少しだじろいでしまった。
 半べそをかきだしているが、力強くこちらを威嚇している。


「イリアは幸せにならないと……。俺が幸せにする……」


 威嚇していた眼差しが急に寂しいものへ変わった。
 一生懸命酒を煽っているが、勢いよく飲めているのは別の酒と思っている水で時々本当の酒を口にするが眉を顰めて静かに水の方に手を伸ばしている。
 ゆっくりとした口調でリオルドが知っているイリアの話をする。


 とてもツンツンして冷たい人だと思われているが、とても人情味があって自分が嫌な目にあっても手を差し伸べる人であると。
 街中で迷子の子どもが居れば親を一緒に探すし、親に連れ去りだと言われても親に労いの言葉と見離さないようにとお願いをして返した事もある。
 怪我した老婆の手当てをしてあげたら、お礼にと家に招かれて睡眠薬入りのお茶を飲ませられた事もある。
 孤児にパンを分けたりする事もある。
 頼まれ事は嫌々でも何だかんだで引き受けてあげたり、礼を尽くせば礼を尽くしてくれる。


 エピソードの8割は本人から聞いた事ではなく、日々のス……。見回りで見聞きした事であった。



 


「イリアの過去は知ららい……聞いても色々あったとしか言わないから。女難の相があるらしいとは言っていたが……。人を遠ざけるように生活しているのも何か過去にあったからだと思っている……………………」
「そうか。そんな事があったのか……」


 先ほどまであれだけ酔って息巻いていたのに、イリアがどれだけ幸せにならないといけないとエピソードを連ねた。
 

「……………………不器用な所が可愛い……」
「………………ぅ、うん」


 ――確かに女性絡みでの運はないのかも知れないと思ってはいたが……。前の王城で会った時も受付嬢が報告期日を誤って伝えていたとか。


 真面目な人柄なのは会う回数が少なくても容易にわかった。ハンカチ1つで何か返さないとと言われ、髪の毛の対価も何も求めていなかったのに自分から出してきた。
 素直で真面目で不器用で、目の前で船を漕ぎ出したリオルドとどこか似ている気がした。




「そうだな。とても可愛らしい人だな」


 ルーカスは素直に心から思った。
 お互い険しかった空気も和んできて、目の前のリオルドは半分虚になってきた。脈絡もなく話が飛び出してきたのでそろそろお開きとするかと会計を呼んだ。




「………………可愛い…」
「ん?」
「お会計ですねー!」


 お会計を伝えにきた店員に俯いたままリオルドが俯いたまま声をかける。


「おかわり」
「………………」
 
 店員とルーカスはお互いを見合ってお会計を済ませて欲しいと目配せをした。
 そのままテーブルから離れる店員を呼び止めて再度おかわりを要求すると困った店員に水と口パクで伝える。


「かしこまりました」



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