変態騎士に好かれても困ります

むふ

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 冒険者組合の会議室の一室に移動。





 念のためにと持ってきていた未完成の変身薬がまさか使う事になるとは思ってもいなかったが、何と幸運なことか。




 先ほどまで肩を窄めて小さくなっていたイリアは、承諾したとたんまさか良いと言われると思っていなかったようで、何度も本当に良いのか確認してきた。


「あの、ルーカス様……、本当によろしいのでしょうか……」
「イリアさんになら良いよ。それに確認8回目かな?そんなに言うなら、俺のお願いも聞いてもらおうかな?それならどうだろ?」
「難しい事でなければ……」
「ふふ、ありがとう。それじゃあ、……イリアって呼んで良いかな?」


 髪の毛を差し出せと言ってしまったから、それ相応のお願いがくる事を覚悟して身構えいたが杞憂だった。


「あの、そんな事でよろしいのですか?」
「うん。少しでも親しくなれたらなって思って」
「わかりました。好きに呼んでいただいて問題ありません」
「ありがとう、イリア」


 相変わらず、笑顔が爽やかで初夏の風を感じる。
 普通の女性ならここで心ときめき、踊り出すくらいなのだろうが、イリアはなんて良い人なんだとルーカスの株がグングン上がっているだけだった。







 机の上に薬品が並べられて、何となく甘い匂いが漂っている。一つの試験管に集められた薬はまだ少し白みがかった透明な色をしていた。
 ドンドドンがオープンするまで少し早い時間を設定していた事が功をなして、薬を作る時間ができて良かった。
 イリアが作業している隣でルーカスは飽きもせずに笑顔で手元を見つめていた。




 ――凄いな。魔法もあれだけ使えて、薬まで調合出来るなんて……。媚びる訳でも無いし。……でも少しは笑顔が見たい気もする……。懐いてくれないかな……。




 

 会議室に来て20分経たないくらいか、横にいたルーカスの出番がやってきた。




「ルーカス様、髪の毛を数ミリいただきます」
「うん、どうぞ。数ミリで足りるの?」
「足ります。ルーカス様は魔力の質がきっと良いので量が要らないのです。パン屋の中にいる間だけ金髪で居れれば良いので、効果は1時間程度をみています」
「そっか」


 ――人に髪触られるのって不思議な気分。……まぁ、触ると言って良いのかわからないけど。


 なかなか髪の毛を一本にできず、もたつくイリア。
 じっと待つルーカスの鼻がイリアから漂う香りを察知した。
 匂いを感じた瞬間に小さく体の毛が逆だった。少々の高揚感に猫ならまたたびを嗅ぐとこんな感じなのかも知れないなどと、徐々に鼻息が荒くなっていく。
 髪の毛が一本になったのか、ピンと頭皮を引っ張られる感覚に現実に戻り、声をあげてしまった。

 
「……あ!………………朝ちゃんと髪洗ってきているからね!気になる時は更に洗って!」
「……ふふっ、はい」


 大人しく動かない様に背もたれに預けていたルーカスがいきなり声をあげて、汚くないと思うからとあたふたし出したのを驚いた表情で見やる。
 思わずイリアから笑い声が聞こえたのは気のせいじゃないと願いたい。そして笑った時の顔が見れなかった事が悔しく感じた。


 ――本当にこの人の匂いはいい匂いだ……。








 
 
 「ありがとうございます。念のため2回分作らせて頂いたので試しに今飲んでみます」


 目の前で金色に色が変わった薬品を一気に口に流し込むイリアを見ていると、髪の根本から徐々に金髪に変わっていった。
 それは見事な金髪で、ルーカスと全く同じ色になった。



「おー、ちゃんと金髪だよ」
「良かったです。今回2ミリ使った薬なのでこのままドンドドンに向かって、どれくらいで効果が続くかみます。お店に入る前にまた追加で薬を飲みます」
「うん。それじゃあ、移動しようか」


 会議室を後にした2人はそのままドンドドンへ向かった。





 
 
 外は晴天。まだオープンには時間があるが、すでに列ができていた。並んでいる人は半分が金髪かブロンド。やはり知り合いを誘ってきている人が多いようであった。中には黄色のモップの様なものを頭に乗せている強者もいたが、はたしてクッキーが貰えるのだろうか。ウィッグは市販の変身薬並に高価なのでやはり手が出ない。列に並ぶ人の横を通り、最後尾に並ぶ。


 ――入るまで1時間はかかるかもしれませんね。


 列の人数を見て時間を思案していると、列の前から視線が送られてきているのがわかった。視線の先に居るのは、イリアの頭を飛び越えて少し上、言わずもがなルーカスである。
 筋肉質な体の線が、地味に色気を出していて優しい表情を浮かべている。ただ立っているだけで絵になるとはこう言うことか。
 そしてそのイケメンを連れ立って歩いてきたのが、ドンドドンと大きく描かれたダサいTシャツを着た何の変哲もない塩顔の女性。依頼を知っている人はわかるが、同伴者としては明らかに浮いていた。


 そんな好奇な目にさらされている事は本人たちは全く気にしていなかった。
 ただ、静かに待っていても特にいつもなら気にしないイリアが、ルーカスにはとても親切にしてもらっているので珍しく空気を読んで相手が飽きない様に話しかけてみた。


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