変態騎士に好かれても困ります

むふ

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パン屋へ

パン屋へ3/7

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 ドンドドンパン屋の金髪、ブロンドの方クッキープレゼントの当日。








 冒険者組合の角に、ドンドドンTシャツを着るイリア。周りからの視線を物ともせず、一言で言えばとてもダサい。

 


 ――少し早く来すぎてしまったでしょうか……。


 待ち合わせの時間より1時間も前に冒険者組合にきてしまった。8時開店で、依頼書には1時間前の時間を書いていた。
 ロビーの片隅に寄って、まだ朝早い為に人がまばらの中、ロビー全体と入り口を注視していた。


 

 そんな中イリアに真っ直ぐ向かって歩いてくる金髪の男性。カジュアルに茶色のスラックスにブーツ、白のシャツ、腰に少し太めの剣をさいている。さりげなく第二ボタンまで開かれている首元からは、革のチェーンにシルバーのリングがチラリと見えた。


「おはよう。イリアさん」
 
 
  ――世界は案外狭いものですね……。


 片手を挙げてこちらに爽やかな笑顔を向ける好青年。
 その顔は何日か前見た事のある顔だった。


「……えーと、お名前は……」


 つい最近見た顔ではあるが、名前を伺ったのかすら忘れてしまった。5年前に名を名乗っている事を当然忘れているイリア。
 ルーカス自身ある程度名が知られていると自負していたこともあり肩を落としたが、すぐ気を取り直して自己紹介をした。


 

「改めて、名はルーカス・バロン。いつもは第二騎士団隊長を勤めてるよ。冒険者ランクはAで、専門職はタンカーだけど体術、剣術は自身あり!」


 輝く歯が眩しい。
 昔遊び歩いていただけに、物腰が柔らかく相手に警戒心を与えない話し方で好意的に接し返してくれる人が多い。しかし目の前にいるイリアは特に興味が無さげに、今日依頼を受けてくれたことへのお礼と名前だけの自己紹介をした。


「これからも一緒にコンダルン湿地に行ったりするだろうから、仲良くしてくれると嬉しいな」


 人好きする笑顔を相変わらず浮かべるルーカスに、イリアもほんの少し表情を和らげる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」
「随分他人行儀だな。俺に出来ることなら何でも言ってね」


 ――………………なんでも……。


 緊張が和らいだ途端、いつもなら軽く流してそのまま我関せずを貫くイリアだったが、何でも言ってねという言葉に何やら思うところがあるらしい。


 ――一度は断念しましたが……、聞いてみるだけ聞いてみるか……。いや、……でも……。………………んー、この人のならいけるでしょうか……。




 ルーカスの目の前で何やら考えだしてしまったイリア。何でも言ってねと、はにかんだルーカスは返答が返ってこなくて少しおどおどしだした。


「イリアさん?」
「はい?ぁ、すみません少々考え事を……」


 黙ってルーカスの顔をじっと見る。
 見られているルーカスは居た堪れない。上からしたから舐められる様ないやらしい視線ではないものの、人からこんなに観察されることはあまりない。
 熱心な視線に少しドギマギしてしまう。


 ――清潔感……よし。引かれてしまったらやめましょう。




 ひとしきりルーカスを見て、この人の髪の毛ならミリ単位でならいけるかもと決心がついた。
 ただ、あまりにも突拍子もないお願いごとになるので、引かれる覚悟をして息を飲んだ。


「あの、もし……もし可能ならで構わないのですが…………少しでも嫌悪感が出たら断ってください……」
「ん?どうしたの?」


 いつもの物怖じしないイリアの声が、心無しか小さく聞こえてルーカスは目線を合わせる様に少し屈んだ。
 人にあまり興味がないイリアも、あからさまに嫌悪感や嫉妬など嫌われるのは得意では無い。むしろ得意では無いからこそ、自己防衛で人を遠ざけている節がある。

 





「あの、髪の毛を5ミリくらいいただけないでしょうか……」
「…………ん?」


 当たり前だが、ルーカスはキョトン顔。言われた内容を頭の中で理解しようと固まってしまった。
 固まっているのを尻目に髪の毛が欲しい理由を事細かに説明する。


「申し訳ありません。髪の毛の色を変える薬に金髪の方の髪の毛が必要で……。今回薬が購入できず、変身薬は自作ができるのですが、私の調合レシピですと、変えたい色と同じ髪の毛が必要なのです。ただ、見知らぬ人の髪の毛を飲むってかなり抵抗があって、結果的に薬が作れなかったので依頼を出した訳なのですが……。ルーカス様のならいけるかなと…………。魔力も豊富そうなので数ミリで大丈夫そうですし…………。できるだけ多くのクッキーが欲しくて…………………………気持ち悪いですね」


 矢継ぎ早に理由を口にするイリア。最後に小さくすみませんと謝ると下を向いてしょんぼりしている。
 突拍子もないお願いに面くらったルーカスではあったが、クールで1匹狼気質のツンツンな人がなんだか小動物に見えてしまい不覚にもキュンとしてしまった。

 理由もわかり、断っても良いとのことだったが特に嫌悪感は感じられ無い。それより今後の付き合いがこの髪の毛数ミリで更に濃いものになることを予感したルーカスは快く承諾した。


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