変態騎士に好かれても困ります

むふ

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 目の前には愛想の良い男性が、引き出しから出した紙にメモをとっていく。
 名前と仲介内容をスラスラと書いていく。



「イリア・オルテナさんですね。ご本人様へ冒険者組合から手紙を出す形か、緊急の場合は魔法電話をかけることが出来ます。直接お会いしたい場合は組合から本人へ確認を取る必要がある為、あらかじめ希望の時間と場所をお伺いするか、個人で魔法電話の連絡先を交換いただくようになります」



 情報保護の為、誰がいつ冒険者組合を利用したのか等知っていても基本情報の開示はしないようにしている。

 仲介も誰だか確認をとって本人へ連絡する形になる。受ける側も誰から連絡を取るか取らないか指定する事が出来る。

 魔法電話は置き型と携帯型がある。置き型は家族のいる比較的裕福な家庭や商会、大型ギルドや公共の施設でそこの従業員が基本的に扱う。定期的に魔力の重点が必要になることと、携帯型に比べて大きく重い。携帯型は小さく、アクセサリーの様に身につけられるが、価格が置き型より高い。使用者単体の魔力を使用する為、魔力が潤沢にある者か、高ランク冒険者、騎士、個人に高頻度で連絡がくる者が基本的に持っている。
 個人の魔力のを使う為に一般の冒険者は緊急性がない限り使わない事と、戦闘時に慣れていないと通話が出来ない事、魔力消費を出来るだけ軽減したいので持っていてもメリットが少なく持っている人が少ない。


 



 ルーカスはもちろん携帯型の魔法電話を持っているが、個人で所有している者が少ない為、当然イリアも持っていないと思いルーカスは連絡先を聞かなかった。
 しかし、実はイリアも魔法電話を持っていてる。今までの数々のトラブルから冒険者組合と特定の人しか教えてなかった。ルーカスから聞かれたとしても教えないことだろう。




「手紙でお願いしたい。コンダルン湿地に行く約束をこの前したのだが、自宅の連絡先を聞くのを忘れてしまってね」


 この前行政所で出会って、イリアがとても汚れていたので、その汚れを拭う為にルーカスがハンカチを差し出した。別の意図もあったが、汚してしまったハンカチの見返りとしてコンダルン湿地へ同行して欲しいと願い出たという経緯がある。
 出会って早々に、何とか仕事の合間を見つけて冒険者組合へやってきた訳だ。

 


「コンダルン湿地ですか!また、Aランク冒険者がパーティに1人以上、Cランク以下の冒険者立ち入り禁止の場所じゃないですか。イリアさんランク何ですかね……ちょっと待ってて下さいね」


 受付の男性が、少し横にずれて大きな水晶がついた箱に手を添えて何やら打ち込んでいる。
 水晶が記憶媒体となり、箱の横に文字を入力できるようになっている。名前やランク等情報を入力すると、今まで受注した依頼や講座内容等が見れる様になっている。





「……ん?あーと、……ほうほう?……」


 受付の男性がなにやらボソボソと声に出して確認をして、水晶に映されてる情報を時折見ながらルーカスを見やった。




「どうかしたかな?」
「ぁ、すみません。イリアさんランクは問題ありませんでした」
 「ぁ……、本人にランクの確認するのをすっかり忘れていたよ」


 さっさと帰りたそうにしていたイリアを思い出す。頭をポリポリと掻いて、危うく約束を違える所だったと胸を撫で下ろした。


「仲介って事は、イリアさんとは遺跡での救出依頼以降お久しぶりにお会いしたんですね。女性からルーカスさんに連絡先を聞かないって珍しくないですか?」
「そうか?連絡先を聞いてこないのなんてざらだよ?昔は俺から聞きに行ってたけどね」
「今もそうですが、モテますもんね」
「そんなことはないよ。……んー、遺跡?遺跡で会ってたのか……」


 遺跡は過去に何度か行った事がある。その中の遠い昔の記憶を何とか思い出そうと、腕組みをして目を閉じ思案した。

 
「はい。記録だとルーカスさんが5年前くらいですかね?古いですけど、イリアさんが遺跡に取り残されて救出に行ってるようですよ?再度救出隊が出たみたいですが、2人で自力で帰還したようですね」
「…………あぁ、そうか、そうか……。あれか……」


 ――どこかで見た事があると思ったら……。
やはり以前一度会ったことがあったのか。


 それもルーカス自身を見つめ直す大きなきっかけをくれた依頼であった。
 目を開けて、天を仰いだ。




 ――あぁ、なんで忘れていたんだろう。初めて平手打ちをくらったあの人か……。


 天狗になっていた自分を叱責してくれたイリアには感謝しかなかった。若かったルーカスのプライドをへし折り、辛く長い不能生活がその後あって、今も完治はしていないが、それ以上に実力が何倍も増した。
 一度思い出すきっかけを与えられると、5年前の遺跡での救出依頼がつい昨日のことのように情景が浮かんだ。
 




 






 

「ルーカスさーん。ルーカスさーん?」
「え?あ?すまない」


 出会ったことを思い出して、感傷に浸り始めたところを事務の男性が水を差した。
 現実に引き戻されたルーカスは再度佇まいを正して、男性の話を聞く。




「仲介とのことでしたけど、イリアさんが依頼を出していまして……。まだ掲示板には載せてないんですけど、もし都合が合えばルーカスさん条件に当てはまるのでどうでしょう?」


 まだ依頼書が発行されていないからと、画面を見ながら紙に依頼内容を書いてルーカスに見せる。


 ――金髪の方同伴……。


 変わった依頼でもあったが、そこは気にせず依頼内容に目を通す。
 パン屋のイベントの日にちが意外にも近く、仕事の調整をつけなければならない。多忙のルーカスは休暇をいきなり取ってしまったので、この後調整ができるかかなり悩ましいところだった。


「お忙しいから……。厳しそうですかね?内容が割と良いのですぐ決まっちゃうと思うんですよね。仲介より早くお会いできそうなので、直接聞いてもらった方がコストも時間もかからないかなぁ、なんて思ったのですが……」


 調整できるか悩んで腕を組む。
 しばし様子を見ていた受付の男性も難しそうだと判断して声をかけた。

 
「難しいですよね。違う方に声かけますね……」
「あー……いや、受ける。……うん」
「あ!そうですか。良かった良かった」



 別の人に声をかけると聞いて、咄嗟に受領してしまった。あと先考えないで行動したのは何年振りだろうか。
 しかし本能的に、イリアと会う機会を逃してはいけないと思ったのだ。一度承諾してしまったので、仕事の調整を何とか付けなければと頭を悩ませる。各方面から苦情がくるかと思うと頭が痛いが、これも何かの縁であると自分を納得させた。
 
 

 ――これは運命なのかも知れない。
 月日が経って名前も顔も思い出せなくなってしまったが、彼女がまた俺を変えてくれるのか……。


 依頼の内容を確認してそのまま受領した。
 早急に帰って仕事を片付けるが、当日の皺寄せはどこかへお願いするしかなかった。
 しかし思いの外、早く会えることに浮き足立ち、ルーカス自身を見つめ直すきっかけとなった出会いを思い出し帰路についた。


 彼女のせいで新しい扉が開かれ、インポの原因になったとはつゆ知れず、帰りの足取りはとても軽いものだった。




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