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パン屋へ
パン屋へ1/7
しおりを挟む――世界は案外狭いものですね……。
今日はイリアの大好きなドンドドンというパン屋のイベント日。
イベントの条件は金髪、ブロンドの方限定にクッキーをプレゼント。その同伴を募集する依頼を出したところ、依頼を受けてくれたのは見た事がある人だった……。
風変わりなイベントを良くやるパン屋で名が知れているドンドドン。
今まで開催されたイベントは、服に羽を着けて着た客に○割引きや、1曲歌ったら店主の気分でおまけのパンをもらえたり、他のパン屋で買ってきたパンをくれたらポイントカードを発行できたり、フルーツと交換で特製の焼き菓子をくれたりと色々なことをしていた。
そして今回のイベントは金髪、ブロンドのお客様限定クッキーのプレゼント。
イリアの髪は金髪でもブロンドでも無く、焦茶色であった。
ドンドドンは魔法阻害の術式が組まれている建物で、防犯を意識したお店である。そんな安心安全な場所だからこその悩みがあった。
変身魔法が使えないのだ。
そうすると髪の色を変えるためには、染めるか、ウィッグか変身薬に頼るかだった。
ただ、染めると言っても濃い髪色に染料が入らず、思い通りの髪色になることは無い。ウィッグも獣の毛を使っているので何か被っているなとわかるし、粗悪品が多くて被れる。そもそも自分の髪の色をどうこうしたいという需要があまりない上に、変身魔法があることで技術的な進歩は全く無い。
そうすると選択肢は一択。
変身薬のみとなる。
変身薬を飲む事を決めたイリアだったが、調合のレシピに金髪を薬液に溶かして飲まないとならなかった。誰だかも知らない人の髪を飲むという行為に嫌悪感があり、試しに自分の髪を脱色し、金色に染めて飲んでみたら元の色のままだった。
仕方なく市販の変身薬を買いに行ったが、元の姿を変化させる類の薬はとても高級で身分証明書等犯罪に使われても誰が買ったかわかるようになっている。後者はどうでも良いのだが、前者の高級ということが問題だった。かなり値が張った為にクッキーが欲しいだけで買う事ができなかった。
結果、薬を買うより金髪の人に同伴を頼んでクッキーを手に入れる方が断然安いという判断に至った。
ドンドドンパン屋のチラシが出て次の日まで遡る。
薬屋で変身薬の驚愕の値段を見てから向かったのは冒険者組合。
女性に何かと不運なイリアはできる限り男性の受付が空くのを少々待ち、依頼を引き受けてくれる方も可能な限り男性でお願いした。
――――――――
依頼内容:金髪・ブロンド求む/パン屋ドンドドンへの同伴またはイベントクッキーの寄贈
報酬:同伴2000G/寄贈500G
受注条件:同伴の方は金髪、ブランド、寄贈の方は誰でも
募集人数:同伴1名
寄贈の場合先着5名(クッキーの量次第で増える可能性あり)
日時: 寄贈の方、先着5名予定
○月○日 9:00~11:00(自身が入手した後に向かう為時間が前後する可能性有り)
ドンドドンパン屋右手広場にて報酬とドンドドンTシャツを着た人に声をかけて交換
同伴の方、1名
○月○日 7:00 冒険者組合ロビー集合
目的達成後現地解散
詳細:同伴の方金髪、ブロンドの方限定
色が怪しい方はお断りする可能性があります。
イベントのクッキーの入手が目的の為、
イベントのクッキーは依頼主へ寄贈される。
依頼主:イリア・オルテナ
――――――――
――今回は男性の受付の方がすぐ空いてラッキーでした。依頼を受けてくれる方も男性だと良いのですが、女性でもクッキーが手に入れば贅沢は言いません。
数日後に手に入るであろうクッキーの事を考えながらホクホクの表情で帰路に着いた。
イリアが冒険者組合を出てから数刻後。
受付には金髪、鎧を身につけた爽やかマッチョイケメンのルーカスが来ていた。
「あ、ルーカス様お久しぶりです」
受付には先ほどイリアの依頼を受けた男性が対応に入っていた。
「あぁ、お久しぶり。今回は指名で仲介をお願いしに来たんだ」
冒険者組合で出来る主な事としては、依頼の受注、冒険者同士や依頼主との仲介、依頼の斡旋、訓練が主にある。
依頼の受注は文字通り、依頼を依頼主から受け基本は掲示板に掲載する。依頼を名指しで出す事も出来る。受ける側は基本掲示板と古くなった物は受注ランクごとに冊子にまとめられる。依頼をできる限り循環させられるよう、受付が斡旋することもある。
訓練は戦闘訓練や戦術のノウハウ、モンスターごとの特性、食べられる野草や野宿術等の講座等を低価格、無料で行っている。定期的に高ランクの冒険者や騎士、医師やその道のプロ達が出向いてできる限り冒険者の質の向上と生存率を上げる為に冒険者組合も力を入れている分野でもある。
この講座を受けたいが為に一般の市民も冒険者登録を行いにくることがしばしば。
冒険者組合としては国民の質の向上と、冒険者志望の人の増加が狙い。また、登録料に年間更新費用がかかる為冒険者組合としても利がある訳だ。
ルーカスも過去に何度か護身術、タンカー志望者向けの戦闘訓練を頼まれたことがあった。
仲介を受ける為に準備をしていた受付の男性が、戸棚の引き出しから紙を出して顔を上げた。
「どちらの方でしょう?」
「イリア・オルテナという女性なんだけど……」
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