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新しい自分

新しい自分4/5

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 数刻後、再度出口へ向かって出発。

 先頭にルーカス、その後ろに私と継いで他3人。この後のルートで後方に気をつける場所は無く、罠と唐突なモンスターの出現に備えての布陣。


 スルスルと罠を潜ってきたが、人というものは慣れが1番危ない。
 出口まであと数刻のところで、光が見えた。
 その光に反応して、後ろの3人がルーカスを抜かして駆け出してしまった。


「待ってください!!」
「あっ、おい!」


 静止の声が届く前に、1人が床にある罠のスイッチを押してしまった。
 ガコッという音と一部が凹んだ石畳。


 しまったと思った瞬間に、ルーカスとイリアのいた床が抜け、天井から岩が降ってきた。


「きゃぁああ!ルーカス様ー!」


 叫び声と岩の雪崩れる音。
 そして上からは無数の岩が降ってきた。
 真っ逆さまに落ちる瞬間。咄嗟にルーカスが背にイリアを隠し、上から雪崩れる岩を盾で防ぐ。
 
「ウィンドウォール!」


 轟音が鳴り響き、自身よりも重量が重い岩が先に落ちていった。幸いにもルーカスのおかげで、落ちてくる岩からのダメージは無かった。しかし、魔法の発動が遅れてしまい2人は地面に叩きつけられた。





 


 ――ぁー、痛い。背中と腕も痛いです。
 んー……。生きていましたか……。
 …………なんだか臭いですね。


「ぁ、目覚めた?」


 イリアが目を開けると、岩で光が遮られ何も見えなかった。
 声が目の前から聞こえるので、きっと目の前にはルーカスの顔がある。


 ――どれだけ気を失っていたのでしょう。
   魔力回復量からして2、3時間程度でしょうか。

 
 ルーカスが岩壁に寄りかかって座っており、イリアを横抱きの状態で顔を自分の首元に預けさせ、座っていた。


「ぁ、おはようございます」


 気の抜けた挨拶にルーカスは小さく笑い声を上げたが、すぐ息を詰まらせた。


「あ?あぁ、左腕がね……」


 イリアは左腕があるであろう所を見たが、やはり何も見えない。




 

 イリアとルーカスが落ちた後、背中を打ちつけた衝撃でイリアが気を失ってしまった。
 無傷であったルーカスが、上にいる3人に無事を伝えようと声を上げた瞬間、また落石があった。
 イリアを抱えて、咄嗟に壁に出来ていた少しの横穴に体を滑り込ませて難を逃れたが、武器は岩の下敷きになり、腕に岩が当たって負傷してしまった。


 辛うじで声はまだ上に残っているパーティに届いた。残りの道順と罠の場所を伝えて、再度救助要請をして欲しいと伝えた。


 

「そうでしたか。助けていただいてありがとうございます」
「いいや、そもそも俺がもっと統率とれてれば罠にひっかかることも無かった」
「……まぁ、そうですね。人選もさることながら、今回は反省すべき点は多々あるかと。私も言えないですが……」
「はっきり言うなぁ」

 これほど指摘をされたのはいつぶりか、苦笑いを浮かべるルーカス。
 笑った拍子に力を入れてしまい、痛みに息を詰まらた。
 腕がどのように負傷したかはわからないが、下手すると使い物にならなくなってしまうかも知れない。


「あの、降ります。抱えて下さってありがとうございました」
「あぁ、良いんだ。地面に寝たら痛いかと思って勝手にやったことだし、それに、ここ狭いから」
「そうですか。……ライト」


 光を灯す呪文を唱える。イリアの指先に蝋燭一本分くらいの小さな光が灯った。
 魔力を消費しないように、最低限の灯りのみでイリアは自分が置かれている環境を把握したかった。


 今いる場所は大人1人が中腰で立てるくらいの高さが有るが、すぐ先は岩壁で天井が低くなっている。今ルーカスといる場所は入口からどれだけ奥に来たかは、入口が岩でほぼ埋まってしまっているのでわからなかった。
 大人が寝そべったら足がついてしまうほどの奥行き。横幅は3人分程度といったところ。
 足元に光を向けると、人の骸であろうものが数体、地面と同化していた。
 この横穴は、罠の穴に落ちた人が何とか助かろうと横に掘って行ったか、掘り出した土や岩で足場を作って上へ上がろうとしたのかはわからないが、人為的に掘られた穴であったのだろう。


 膝の上から降ろしてもらい、ルーカスの横に腰掛ける。地面に腰を降ろすとお尻が湿っており、長い時間ルーカスの上にいたことを申し訳なく思った。
 
 空気が澱んでいるのは、岩でほとんど穴が埋まってしまい、空気の循環ができていないからだ。
 時折り鼻につく臭いは、自分が長い期間お風呂に入っていないから自分の体臭であろう。更に申し訳ない。

 
「腕を見せて下さい」


 だらんと垂れた腕を見る。肩は辛うじで動くようだったので肘あたりと推測し、腕の装備を外した。
 少しの衝撃でも相当痛いのだろう。呻き声が喉の奥から漏れていた。声をあげない様にルーカスは奥歯を噛み締め、瞼を固く閉じた。


「ハイヒール」


 淡い緑の光がルーカスの腕を覆った。
 真っ直ぐ垂れた腕は、本来の形を取り戻し、肘の骨の隆起や不自然に曲がった手指も治った。


「…………ありがとう。痛みには慣れている方だけど、結構痛くて」
「いえ、魔力があまり無くて全身にかけられないのが申し訳ないです。それに、濡れた地面に寝かせないように抱いててくださってありがとうございます」
「ぁ、ぇ……どういたしまして、……はは」


 覇気のない笑い声にまだルーカスの体力は回復していないのだろう。


 ――魔力が回復すれば全身にヒールをかけられるのですが……。


「ぁ、あともう一つ謝らないといけないことが……」


 指先から出していた光を収めて周りはまた暗闇に包まれた。湿った空気と独特な臭いが立ち込めるこの空間にも慣れてきたが、沈黙にはまだ慣れない。

 魔力が回復するまでまだ時間がかかる。イリアは特に空気を読むタイプではないが、自分の非はしっかり詫びないとならないと考える真面目なタイプであった。
 改めて謝らないとなんて言われてルーカスはかしこまった。


 ――何か謝られることなんて無いんだけど。……俺の方こそ謝らないとだけど……。


「……臭くてすみません」
「ん?……ぇ?」


 何を言われるのかと思ったら、臭くてと。
 キョトンとしてしまって返答に詰まってしまった。


 ――確かに汗臭いような、酸っぱいような匂いは元々していたけど別に苦にならないし……。


「魔力を節約する必要があったので、浄化魔法をかけてなかったのです。汗臭いを通り越して、独特な臭い。この密室に近い空間……。魔力が回復するか、救援が先かはわかりませんが、長い時間この臭い不快かと思いまして……」


 匂いには慣れるとはいえ、人によっては吐き気を模様したりする。
 ルーカスは横で頭を下げているであろうイリアを見て、慌てた。


「ぇ、いや!そんなことないよ!むしろ癖になるっていうか……、ぁ」


 結構な匂いを癖になるって、謝られた事にも驚いたが、内容に更に驚いてしまった。
 思いの外慌てふためいているのか、手を振って何か弁明しようと服がすれ、鎧の金属音がたまに聞こえる。


 見えないが忙しなく動いているであろうルーカスを想像してクスッと笑みをこぼすイリアだった。






 その後救援が来る前にイリアの魔力が回復した。
 風魔法を駆使して穴から無事抜け出すのであった。


 遺跡を後にしたルーカスは考えを改め、更に騎士団の仕事に打ち込み、自身の鍛錬にのめり込んだ。


 イリアはやっぱり人と組むのは辞めておこうと思うのであった。





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