あれな除霊屋さん

むふ

文字の大きさ
上 下
5 / 12
幸桜苑の女将

幸桜苑の女将4

しおりを挟む

「8年も前の話です」




 女将には3つ上の姉がいました。この旅館の亭主になるはずだった男性と籍を入れましたが、2年、3年と経っても子供は授からなかったのです。女将をしていた姉は子供が出来ない事を悩んで居ました。その悩みに比例して、旦那の帰りはどんどん遅くなり、家に帰ってきても態度は冷たく会話も仕事の話ばかりになったそうです。
 心を病んだ姉は入院して家には旦那1人。
 入院中の姉は何度か病院を抜け出していました。そんな時、家に旦那以外に女がいる事に気がついてしまうんです。

 それが、私です。
 当日私は姉の旦那の従兄弟に当たる、現幸桜苑の亭主とお付き合いしていました。



「不倫、でしょうか」
「いえ、違います。本当に違うんです。失敗ばかりの私を慰めてくださって。姉の旦那さんですよ。確かに何度か家には上がりましたが、本当に何もありません」



 私は社員としてこの幸桜苑に勤めていました。
 現亭主は昔は別の旅館で修行をしていて、会うこともなかなかできなかったのは本当です。寂しさを紛らわすように必死に働きました。同じく後継になる姉の旦那も子供ができない姉を心配して、家族経営型をやめてオーナーになれば跡継ぎを考えなくて良くなるのではと、組織体制を変えるべく必死に働いていました。

 姉の家は1つバス停を戻ります。金谷にある家です。
 姉が病院から抜け出した日も雨が降って居ました。
 家にいる私を見つけるなり、大声で泥棒、殺してやると。




「勘違い?」
「はい。でも勘違いをさせるような事をしていたのは私です。職場では姉と私を良く比べる方がいました。寂しさを紛らわす為に一生懸命働いていた私。方や子供が出来ず、悩んで、姉はどんどんやつれていきました」


 私の事を姉が嫌っていたのがわかりました。
 どれだけ説明しても、受け入れてはもらえず、話すらまともに聞けない姉は、家に火をつけました。
 私と、姉の旦那は家から出てなんとか火の手からは逃れられたんですが、放火した姉自身が火に包まれて亡くなってしまったんです。雨は降っていましたが、古い木造の家で、ガスに引火して全焼するのはあっという間でした。

 近所からは不倫現場をみた姉が、気をおかしくして火をつけた。という噂が広まり姉の旦那はこの幸桜苑を継ぐ事をやめて地方の会社で今一人暮らしをしています。
 この幸桜苑に当時居た方は、姉の旦那が家族経営に疑問を持っていたことを知っているので不倫の噂は職場内ではほとんど信じられてはいませんでしたが、噂というものは背びれ尾びれがついてしまいます。
 現場にいた私も、旅館に当時入れなくなりましたが、親族で唯一男性だったのが姉の旦那の従兄弟に当たる、現在の私の夫です。夫が跡を継ぎ事態の鎮静化を図りました。
 自体が落ち着くまで私は別の旅館で働かせていただいて、従業員も詳しい話を知っているものは数名になりました。
 2年ほど前に私が戻って参りまして、天斗様が先ほどおっしゃっていた、入り口に佇んで入ってこない等起こり始めたのもそのころからでした。
 

「姉はあの家でずっと私を憎んでいたんですね。成仏もできずに」
「そうですね。今まで大きな被害が無かったのは、ここの神気、山の力があったからです。そして今回は、特別霊力が強い人物にたまたま取り憑けた為に、あそこまで暴れたのです」
「そうだでしたか。山が守ってくださっていたのですね。そんな神聖な場所に、心霊スポットを作ってしまうなんて……」


 火事があってから、家の跡地は新地になりはしていたのですが、誰も寄り付かづ今では荒れ放題です。
 金田バス停付近には従業員用のアパートがあったり、民家もありました。
 従業員アパートから跡地が見えるのですが、女の人が立っていたなどの話も出てきてしまって、気味悪がった従業員が退去してしまうこともありました。
 最終的には老朽化に伴って、別のアパートに移動してもらうようになったのですが、付近でも目撃情報が続いてしまってどんどんと過疎化していきました。

 噂は瞬く間に広がり、火事の跡地に肝試しで寄ってからこの幸桜苑にご来館する方も中にはいらっしゃいました。
 お話をお伺いすると、入り口から入ってくるまでは、別人の様になっているそうです。




「そうですか。明日の朝祓いに行きます。先ほどのは連れから霊を剥がしただけで、祓った訳ではないので」



 そうですかと小さく呟いて、顔色は悪いままだが、ほっとしたような様子が伺えた。


「どうぞ、よろしくお願いいたします」
「任せてください。あと、恐縮ですが、夕食をお願いしてもよろしいですか。一人分で結構です。あ、あと明日の朝に用意していただきたい物があります――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...