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幸桜苑の女将
幸桜苑の女将4
しおりを挟む「8年も前の話です」
女将には3つ上の姉がいました。この旅館の亭主になるはずだった男性と籍を入れましたが、2年、3年と経っても子供は授からなかったのです。女将をしていた姉は子供が出来ない事を悩んで居ました。その悩みに比例して、旦那の帰りはどんどん遅くなり、家に帰ってきても態度は冷たく会話も仕事の話ばかりになったそうです。
心を病んだ姉は入院して家には旦那1人。
入院中の姉は何度か病院を抜け出していました。そんな時、家に旦那以外に女がいる事に気がついてしまうんです。
それが、私です。
当日私は姉の旦那の従兄弟に当たる、現幸桜苑の亭主とお付き合いしていました。
「不倫、でしょうか」
「いえ、違います。本当に違うんです。失敗ばかりの私を慰めてくださって。姉の旦那さんですよ。確かに何度か家には上がりましたが、本当に何もありません」
私は社員としてこの幸桜苑に勤めていました。
現亭主は昔は別の旅館で修行をしていて、会うこともなかなかできなかったのは本当です。寂しさを紛らわすように必死に働きました。同じく後継になる姉の旦那も子供ができない姉を心配して、家族経営型をやめてオーナーになれば跡継ぎを考えなくて良くなるのではと、組織体制を変えるべく必死に働いていました。
姉の家は1つバス停を戻ります。金谷にある家です。
姉が病院から抜け出した日も雨が降って居ました。
家にいる私を見つけるなり、大声で泥棒、殺してやると。
「勘違い?」
「はい。でも勘違いをさせるような事をしていたのは私です。職場では姉と私を良く比べる方がいました。寂しさを紛らわす為に一生懸命働いていた私。方や子供が出来ず、悩んで、姉はどんどんやつれていきました」
私の事を姉が嫌っていたのがわかりました。
どれだけ説明しても、受け入れてはもらえず、話すらまともに聞けない姉は、家に火をつけました。
私と、姉の旦那は家から出てなんとか火の手からは逃れられたんですが、放火した姉自身が火に包まれて亡くなってしまったんです。雨は降っていましたが、古い木造の家で、ガスに引火して全焼するのはあっという間でした。
近所からは不倫現場をみた姉が、気をおかしくして火をつけた。という噂が広まり姉の旦那はこの幸桜苑を継ぐ事をやめて地方の会社で今一人暮らしをしています。
この幸桜苑に当時居た方は、姉の旦那が家族経営に疑問を持っていたことを知っているので不倫の噂は職場内ではほとんど信じられてはいませんでしたが、噂というものは背びれ尾びれがついてしまいます。
現場にいた私も、旅館に当時入れなくなりましたが、親族で唯一男性だったのが姉の旦那の従兄弟に当たる、現在の私の夫です。夫が跡を継ぎ事態の鎮静化を図りました。
自体が落ち着くまで私は別の旅館で働かせていただいて、従業員も詳しい話を知っているものは数名になりました。
2年ほど前に私が戻って参りまして、天斗様が先ほどおっしゃっていた、入り口に佇んで入ってこない等起こり始めたのもそのころからでした。
「姉はあの家でずっと私を憎んでいたんですね。成仏もできずに」
「そうですね。今まで大きな被害が無かったのは、ここの神気、山の力があったからです。そして今回は、特別霊力が強い人物にたまたま取り憑けた為に、あそこまで暴れたのです」
「そうだでしたか。山が守ってくださっていたのですね。そんな神聖な場所に、心霊スポットを作ってしまうなんて……」
火事があってから、家の跡地は新地になりはしていたのですが、誰も寄り付かづ今では荒れ放題です。
金田バス停付近には従業員用のアパートがあったり、民家もありました。
従業員アパートから跡地が見えるのですが、女の人が立っていたなどの話も出てきてしまって、気味悪がった従業員が退去してしまうこともありました。
最終的には老朽化に伴って、別のアパートに移動してもらうようになったのですが、付近でも目撃情報が続いてしまってどんどんと過疎化していきました。
噂は瞬く間に広がり、火事の跡地に肝試しで寄ってからこの幸桜苑にご来館する方も中にはいらっしゃいました。
お話をお伺いすると、入り口から入ってくるまでは、別人の様になっているそうです。
「そうですか。明日の朝祓いに行きます。先ほどのは連れから霊を剥がしただけで、祓った訳ではないので」
そうですかと小さく呟いて、顔色は悪いままだが、ほっとしたような様子が伺えた。
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
「任せてください。あと、恐縮ですが、夕食をお願いしてもよろしいですか。一人分で結構です。あ、あと明日の朝に用意していただきたい物があります――」
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