3 / 12
幸桜苑の女将
幸桜苑の女将2
しおりを挟む呼び出し当日。
生憎の雨。しとしとと降る雨はしばらく止みそうになかった。赤い花柄の傘をさして足元を小さく跳ねる雨粒と一緒に最寄駅に向かった。
残業をしてしまい、予定していた時間を少し押したが、間に合いそうで良かったと胸をなでおろした。
就業中ヤキモキして何度も時計を見てしまったが、なんとか17時半には仕事を終わらせることができた。
雨の日は電車利用の人が多くなるから嫌いだ。
ラッシュの時間帯にギリギリかかってしまったが、5駅程過ぎれば座席に座る事ができた。
外は雨で夕日が見えないが、まだ少し明るくぽつりぽつりと電気がつき始めた街並みが過ぎて行く。
時々降りる駅を確認しながら師匠にLINEをいれた。
今◯◯駅を過ぎたところです。
6時15分くらいには着くかと思います。
既読だけついて返信はなし。
大体このパターン。慣れっ子だ。
電車には約15分。歩いてバス停まで2分。そこからバスで約30分って所かな。
自分が座れた駅の次から、どんどん人が多くなっていった。
あっという間にまた満員電車になり、目の前に立った男の人をぼんやりみると背中に男の人。明らかに天井に近い位置まで体が伸びていて、目の前の男の人を覗き込むように立っていた。どれだけ身長が高くても人ではなかった。そう、幽霊である。人が多いと比例して霊も多くなる。駅は専ら自殺や事故が多いので更にみる確率が高くなる。
電車は本当に嫌いだ。
寄せつけ無い様に、無関心、寝たふり、目を合わせない、気をしっかり持つ。そして近づくなオーラ!
そうこうしてる内に、降りる駅近くなったので人混みを掻き分けて降り口へ向かった。
バスに乗る頃にはヘトヘトで、たった15分でも精神的にとても疲れる。
電車は極力乗りたくないので、朝は早めのバスで通勤している。
都市部を少し離れても通る人は多い。私の乗るバスも列が出来ていて吊革に掴まって立っている。
傘から滴る滴が小さな水たまりを足元に作っていた。
心の中で、師匠にバイト代多めに欲しいと言おう。とひとつ溜息をついた。
今バスに乗りました。
あと30分くらいです。
既読の文字がついて、珍しく返信が返ってきた。
雨が降っているから#幸桜苑_こうおうえん_#に先に中に入ってろ。
了解と返信して、スマホをバッグの中にしまった。
目的地にここまで移動して来て、初めて本当の目的地を知った。
幸桜苑とバスの中で調べたら、一泊素泊まりで数万円もする旅館だった。
今回はこの旅館で除霊の依頼なのか、前のようにお宝発見なのか少々考えを巡らせてみたが、師匠が考えていることはわからないので、考えるのを即座にやめた。
どんどん街から遠ざかって道も狭くなり、店も少なくなり、住宅地を抜けて、木が生茂る様な山道を登って行く。
座席に座って、街灯も疎になった外を見る。ガラスに映る自分の顔を見てまた溜息。
どこまで行くんだろうか。
ナビでは30分出ていた道のりも、雨でバスを利用するお客さんが多かったせいか各バス停で下車が続いて時間を取った。
今バスの中には私の他に4組。初老のご夫婦やおじ様がうたた寝をしている。
私も電車での疲労もあり、座ってからすぐに眠くなっていた。
「……次は、……、だ、次は、か……だ」
うとうとしていて、バスのアナウンスで起きる。
なんとか浮上した意識の中、亀田の駅名が呼ばれた。ぼんやりとしていて、もう少し気が付くのが遅ければ乗り過ごす所だった。
急いで降車ボタンを押した。
下車した所は街灯が1つポツンとバス停を照らしている。
何もないじゃないか。師匠の口ぶりでは、下車してすぐの所に旅館があるように思ったが自分の間違いだったのだろうか。
日はとっくに沈んで、街灯意外の灯りがない。街灯の下を少しでも離れると真っ暗。少し弱まり始めた雨も、傘をささないとすぐずぶ濡れになってしまう。
傘を肩にかけて、ナビを設定した。
山に入った為に電波が悪い。
ナビが後ろを指した。徒歩20分と言ったり、5分と言ったり、GPSがまともに動いて無かった。
ただわかったのは、目的地1つ先だという事。
街灯に薄く照らされたバス停には、金田駅。亀田は次のバス停だった。
次のバスは、二時間後。
とりあえず5分でたどり着くと信じて、バスが昇って行った道をスマホのライトを頼りに進んだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
心霊スポットへ連れて行かれただけなのに
おりの まるる
恋愛
興味本位でやってきた心霊スポットで、とある天才?変態?と出会い、なぜか溺愛されました。
幽霊が見えるステラ・トゥバンは、友だちの心霊系動画配信者のカレンの強引な誘いを断り切れず、半泣きで心霊スポットである廃鉱に来ていた。
廃鉱には都市伝説で噂されている「幽霊の卵」というものがあるらしく、その撮影のためにやって来た。
廃鉱の奥にたどり着き、卵に触れようとした時、幽霊が見えない天才祓い師ラジエル・クルスがとんでもない恰好で突然現れた。
その卵には、彼が捕獲した凶悪な幽霊が封印されているというが、その卵を割ってしまい……。
全2話で完結予定です。エブリスタ様とアルファポリス様にも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる