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 私は今、目の前でゲラゲラ腹を抱えている美女と対峙している。

「あははははー! だから言ったでしょ。男女間の友情はありえねーって。もともと相性がいいから一緒にいるんだし、一定の条件下でなければ柴犬がお手をするより簡単に崩れるって。ぶはっ。あーおっかしー」

 そう、前回の冒頭部分の友達とはこの美女のことだ。
 この子は、物凄く頭が良い。家柄もいい。普段は言葉遣いもいいし、マナーも完璧だ。ただ、性格と、私の前だと口がものごっつい悪い。

「いい加減笑うのをやめてよ。私的には傷ついているんだから」
「何? あなた、あの男をやっぱり好きだったの?」
「全く。そんな気持ち悪いこと冗談でも言わないで。あの男と婚約してからの時間全てをかえしてもらいたいだけ」
「だよね。テスタの趣味は、もっとこう、たくましくて優しくて一途な不器用男子だもんね。この世界には、ツチノコよりもいなさそうだけど」
「ふん。そんなことよりも、さっき渡した書類見て、正式なものにうまく変えて欲しいんだけど」
「あー、久しぶりに笑ったわ。涙が……。ぶふっ」

 思い出し笑いをしながら、友達が私がふたりに書いてもらった書類を見てくれている。これでも、国家機関に勤める敏腕弁護士だから、うまく仕事をしてくれると信じたい。

「んー、だいたいは大丈夫かな。あとは、もう少し個別具体的にして。重箱の隅をつつきまくる感じで、ありとあらゆる経費を加算すれば、イモウトミタイナモンさんの実家が多少目を向くくらいの金額をひっぱり出せるわよ。足らなければ、うちの兄に脱税などを調べ上げて追徴課税してもらっていいし。あの家、あまりにも羽振りがいいから、実は調べたいって、兄がこの間言っていたのよね。きっと嬉々として調査してもらえるわ」

 イモウトミタイナモンの実家は、一応小さな国を買えるくらいの資産がある。ただ、隅どころか中央からつつけば埃のひとつやふたつ出てくるに違いない。

「それは頼もしいわ。私としては、五月蠅い父を黙らせるくらいの慰謝料を貰ってぎゃふんっていわせればいいからね」

「あら? 奈落の底に叩き落さなくていいの?」
「ふたりだけならどん底に行って欲しいんだけど、産まれてくる赤ちゃんには罪はないから」
「あー子供が出来たっていったっけ。テスタは子供に弱いもんね」
「私だけじゃないと思うけど。子供が最低限幸せに暮らせるようにはしておいてほしいかな」

「まあ、幸福度って資産にある程度は左右されるものだけど。ほどほどにしておくわね。ただ、誤魔化せない不正や罪が明るみになったら、どうしようもないわ」
「その時はしょうがないわね」

 書類を正式なものにして、慰謝料など全てのケリがつくのは早くて3か月くらいかかるとのことだった。私は、友達の事務所を出て家に戻ることにした。

 ディナーの約束がああなってからすぐに友達のところに駆け込んで話し込んだため、今は翌朝だ。

 クリスマスディナーをもうすぐ結婚する婚約者と一夜を明かす。それほど珍しいことではないが、今までこんなことがなかったから、ドアを開けるや否や、お母様が心配で倒れそうな勢いで抱き着いてきた。

「テスター! あなたったら。モトコンさんとずっと過ごすなら過ごすとひとこと連絡くれてもいいじゃない。もう少しで警察に捜索願を出すところだったのよ!」
「そんな大げさな。私はもういい大人なんですけど」

 お母様の勢いに、少しげんなりしながらも、申し訳なくなった。でも、心配してもらえて嬉しいなと思っていると、後ろからお父様がやってきた。

「大げさじゃないぞ。もしお前に何かあったら、お前に投資した分や、モトコンのところに出資した財産が全部ぱあになるんだからな」
「ご心配なく。そんなことにはならないかと」

 いついかなる時も、空気を読まないこの外道すぎる発言。恥ずかしながら、これが私の父なのです。

「あなたったら。それが、無事に帰ってきた娘に向かって言うことなの?」
「う……、そ、それは。それはもともと、テスタが無断外泊したからじゃないか」

 お母様にだけは頭があがらないのがお父様。一体、なぜ、何をお母様が起こっているのか一ミクロンもわかってはいまい。反省しているようだが、それはバツが悪いからだけだ。それが私の父。

「ごめんなさいとありがとうの言えないおっさんの典型……」

「何か言ったか?」

「いーえ、なにも」

 じろりとこちらを見るお父様に、さて今回のことをどう伝えようか考えた。何をどう伝えても激怒りしそうだし不毛な時間だけが過ぎていくのが想像できてげんなりする。

 とりあえず眠い。まだまだ言たらなさそうな二人にあくびをしつつ謝罪して、今日は疲れたから寝るとベッドに飛び込んだのだった。
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