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 ほぉーら、いわんこっちゃない。男女間の友情なんて、簡単にぐらつく。もともと、相性がいいから一緒にいるのだ。一定の絶対的条件がなければ、ちょっとしたきっかけで男女の天秤のバランスなんか、ハムスターがヒマワリの種を剥くよりも容易くくずれるって友達も言っていたし、私もそう思ってた。

 だから、ふたりがあまりにも仲が良すぎる行動をするのにモヤモヤしていた。

「で、どうする気?」

「どうするって……こうなった以上、お前とは結婚できないだろ? 責任をとってっつーか、本当に愛する彼女と結婚して子供を幸せにしたい」

 なんということでしょう。

 これが、結婚直前の、いい年した成人男性の言葉だろうか。今どきの学生でも、もっとマシなんじゃないかな!

「いや、そうじゃなくて。互いの両親への説得や、今回の婚約で提携したいくつかの事業だって頓挫するだろうし、我が家があなたの家の借金を建て替えたりもしてるじゃない。うちの親は、結婚をして、その人を愛人にしたら良いって言いかねないわよ。あの人達のこと、あなたも良く知ってるでしょうに」

「それは大丈夫! 全てこいつの親がなんとかしてくれるって言ってくれているんだ。お前のご両親に損はないどころか、プラスになると思う!」

 なんだそりゃ。結局は彼女の家という他力本願で、自分だけ平穏無事で新たなスタートを切れるってこと?

 もともと、そこまで優秀で誠実な人だとは思わなかったけれど、ここまで情けないというか。

 結婚前にわかって、別れられてよかったのかも。なんて考えのほうが圧倒的に心と頭を占めていった。

「へぇ、そうなのー」

「だから、頼む。俺との話をなかったことにしてくれないか?」

 彼女のご両親、婚約解消の慰謝料だけって思ってるような気がする。この男のことだから、あれやこれなんかは説明してなさそうだし。試算は後日になるけど、かなりびっくりされるのではなかろうか。

 この男と、どーーーーしても、結婚したいわけではない。

 ただ、損切りするにはかかった金額も時間も大きいし、数年一緒にいたからもう適齢期で、他の縁も見込めない。今、こんな風に別れを告げられた私だけがダメージをくらうのが目に見えていてくやしい。

 こいつと関わったことで生じた負債を黒字にでもしないと、うちの両親はマジで、元以上のものを取ろうとして結婚だけはさせるにちがいない。

 夫が愛人とその子供にぞっこんの、見向きもされない正妻。

 うーん。

 本気で見向きもされなくて、私も自由気ままにさせてくれるのならいいんだけど、こいつのことだから、何かの拍子にこっちにちょっかいをかけるに決まっている。それに、他の女性問題もごろごろ出てきそうだ。下手すれば、思い詰めた女性が刃物を持ってきたりして。

 ありえそう。キモい、キモすぎる!

 うまく、女遊びとして割り切った男女間ならともかく、こういうケースに巻き込まれるのだけは嫌だなー。

 取り敢えずふたりには慰謝料などかかる費用を借金してでも全て補填するというサインをもらいたい。

 そう考えた私は、急遽簡易的な誓約書を作成した。時間にして5分。

 婚約解消の項目も含まれていたので、ふたりはなーんにも考えずに、喜んで記入してくれた。一応、簡易の魔法契約書だから、そこそこ契約内容についての効力がある。

「具体的な項目は、後日改めて。とりあえず、言った言わないになったらお互いに嫌でしょう? ふたりのためにもここにサインをしてくれない?」

「なんだ、そんなもの。ああ、確かに、後日お前が心変わりするかもしれないもんな。俺達の未来ためのサインならいくらでも書いてやるさ。それにしても、最後までがめついな。実は、そういうところも嫌だったんだ。愛のない結婚なんてぞっとする」
「結局、お金お金なのねぇ……。サインまで書かせて、なんて浅ましい。心がわからないというか、なんというか。さみしい人生になりそうね。ふふふ、でも、応じてくれてありがとう。ほんっと、ごめんねぇ?」

 こともあろうに、上から目線のマウント。
 ムカつく、ムカつく、ムカつくー。

 そんな風に思いつつも、顔だけは少し悲しそうに、でもふたりを祝福しているかのように微笑んだ。今年の主演女優オブ・ジ・イヤーや流行語大賞に、私もノミネートされたかもしれない。

「いいえーとんでもない。ここの料理、ふたりで楽しむんでしょ? 思い出の記念日になるだろうし、私のことは気にせず(最後の晩餐を)楽しんでね」

「おー。やっと俺達を祝福してくれる気になったか。ありがとなー。まあ、なんだ。お前も、もうちょっと可愛げというものを身に着けて、俺のようないい男を捕まえろよ」
「やっだ、あなたほど素敵な人なんていないじゃなーい。でも、私も少しでもいい人と巡り合って、愛のある幸せが訪れるのを祈っていてあげるわねー」

 ツッコミどころ満載の、散々な言われようだ。しかし、このくらい舞い上がってくれているほうがいい。脳みそが熱中症になるほどの熱が冷めないうちに、さっさと弁護士に相談して、逃げられないようにしようと、腕を組んで微笑んでいるふたりに別れを告げた。

 今に見とけ。絶対に許さないからと心に誓いながら……
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