3 / 12
2
しおりを挟むほぉーら、いわんこっちゃない。男女間の友情なんて、簡単にぐらつく。もともと、相性がいいから一緒にいるのだ。一定の絶対的条件がなければ、ちょっとしたきっかけで男女の天秤のバランスなんか、ハムスターがヒマワリの種を剥くよりも容易くくずれるって友達も言っていたし、私もそう思ってた。
だから、ふたりがあまりにも仲が良すぎる行動をするのにモヤモヤしていた。
「で、どうする気?」
「どうするって……こうなった以上、お前とは結婚できないだろ? 責任をとってっつーか、本当に愛する彼女と結婚して子供を幸せにしたい」
なんということでしょう。
これが、結婚直前の、いい年した成人男性の言葉だろうか。今どきの学生でも、もっとマシなんじゃないかな!
「いや、そうじゃなくて。互いの両親への説得や、今回の婚約で提携したいくつかの事業だって頓挫するだろうし、我が家があなたの家の借金を建て替えたりもしてるじゃない。うちの親は、結婚をして、その人を愛人にしたら良いって言いかねないわよ。あの人達のこと、あなたも良く知ってるでしょうに」
「それは大丈夫! 全てこいつの親がなんとかしてくれるって言ってくれているんだ。お前のご両親に損はないどころか、プラスになると思う!」
なんだそりゃ。結局は彼女の家という他力本願で、自分だけ平穏無事で新たなスタートを切れるってこと?
もともと、そこまで優秀で誠実な人だとは思わなかったけれど、ここまで情けないというか。
結婚前にわかって、別れられてよかったのかも。なんて考えのほうが圧倒的に心と頭を占めていった。
「へぇ、そうなのー」
「だから、頼む。俺との話をなかったことにしてくれないか?」
彼女のご両親、婚約解消の慰謝料だけって思ってるような気がする。この男のことだから、あれやこれなんかは説明してなさそうだし。試算は後日になるけど、かなりびっくりされるのではなかろうか。
この男と、どーーーーしても、結婚したいわけではない。
ただ、損切りするにはかかった金額も時間も大きいし、数年一緒にいたからもう適齢期で、他の縁も見込めない。今、こんな風に別れを告げられた私だけがダメージをくらうのが目に見えていてくやしい。
こいつと関わったことで生じた負債を黒字にでもしないと、うちの両親はマジで、元以上のものを取ろうとして結婚だけはさせるにちがいない。
夫が愛人とその子供にぞっこんの、見向きもされない正妻。
うーん。
本気で見向きもされなくて、私も自由気ままにさせてくれるのならいいんだけど、こいつのことだから、何かの拍子にこっちにちょっかいをかけるに決まっている。それに、他の女性問題もごろごろ出てきそうだ。下手すれば、思い詰めた女性が刃物を持ってきたりして。
ありえそう。キモい、キモすぎる!
うまく、女遊びとして割り切った男女間ならともかく、こういうケースに巻き込まれるのだけは嫌だなー。
取り敢えずふたりには慰謝料などかかる費用を借金してでも全て補填するというサインをもらいたい。
そう考えた私は、急遽簡易的な誓約書を作成した。時間にして5分。
婚約解消の項目も含まれていたので、ふたりはなーんにも考えずに、喜んで記入してくれた。一応、簡易の魔法契約書だから、そこそこ契約内容についての効力がある。
「具体的な項目は、後日改めて。とりあえず、言った言わないになったらお互いに嫌でしょう? ふたりのためにもここにサインをしてくれない?」
「なんだ、そんなもの。ああ、確かに、後日お前が心変わりするかもしれないもんな。俺達の未来ためのサインならいくらでも書いてやるさ。それにしても、最後までがめついな。実は、そういうところも嫌だったんだ。愛のない結婚なんてぞっとする」
「結局、お金お金なのねぇ……。サインまで書かせて、なんて浅ましい。心がわからないというか、なんというか。さみしい人生になりそうね。ふふふ、でも、応じてくれてありがとう。ほんっと、ごめんねぇ?」
こともあろうに、上から目線のマウント。
ムカつく、ムカつく、ムカつくー。
そんな風に思いつつも、顔だけは少し悲しそうに、でもふたりを祝福しているかのように微笑んだ。今年の主演女優オブ・ジ・イヤーや流行語大賞に、私もノミネートされたかもしれない。
「いいえーとんでもない。ここの料理、ふたりで楽しむんでしょ? 思い出の記念日になるだろうし、私のことは気にせず(最後の晩餐を)楽しんでね」
「おー。やっと俺達を祝福してくれる気になったか。ありがとなー。まあ、なんだ。お前も、もうちょっと可愛げというものを身に着けて、俺のようないい男を捕まえろよ」
「やっだ、あなたほど素敵な人なんていないじゃなーい。でも、私も少しでもいい人と巡り合って、愛のある幸せが訪れるのを祈っていてあげるわねー」
ツッコミどころ満載の、散々な言われようだ。しかし、このくらい舞い上がってくれているほうがいい。脳みそが熱中症になるほどの熱が冷めないうちに、さっさと弁護士に相談して、逃げられないようにしようと、腕を組んで微笑んでいるふたりに別れを告げた。
今に見とけ。絶対に許さないからと心に誓いながら……
42
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる