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5 デリカシーの欠片 ※
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あれから、イヤルはことあるごとにエンフィと一緒にいるようになった。ふたりきりなら、所かまわず襲い掛かってくると言ったほうが正しいかもしれない。
「エンフィ、フィーノを産んでから、ますます色っぽくなったね」
「や、あんまりじろじろ見ないでぇ」
「オレを誘うエンフィが悪い。フィーノのためにも、オレ頑張るよ」
「そ、そこまで頑張らなくてもっ、ああ、んっ!」
昼夜問わず、体力が底なしかと思われるほどのイヤルの動きに翻弄され、エンフィはへとへとだった。なのに、体はイヤルの思うが儘、素直に反応する。エンフィ自身もイヤルが満足してくれるならと、拒否することは一切なかった。
上気してとろとろに蕩けきった顔の、いつまでも初々しい新妻のようなエンフィ。その妻の丸い曲線の合間に、すでに猛った熱をこすりつける。思わせぶりな彼の動きに、ぴくぴくと敏感に反応してくれる肢体があまりにもいやらしく、イヤルはごくりと喉を上下させると、先端を一気に奥に挿れた。
高く音を鳴らして肌と肌がぶつかる。あっという間に昇りつめたエンフィが、その音よりも高く声をあげそうになるのを必死に堪えた。それでも漏れる嬌声のうめきに合わせて、イヤルがその唇をふさぐように互いの体をねじりキスをする。
いつの間にかはだけられた胸元からは、小さな膨らみが揺れている。小指の先ほどの小さな尖りをイヤルが摘み上げると、中がきゅうっと締められ、彼のすべてを搾り取ろうとした。その動きに逆らわず、せりあがってくる感覚のままに、ぐっと腰を押し付ける。
「エンフィ、愛してる」
「ああっ、わ、わたしも、あ、あぁっ!」
エンフィが数舜早く達したのを追いかけるように、イヤルが最奥で熱いほとばしりを吐き出す。汗ばんだ肌のまま密着し、しばらく抱き合っていると、エンフィがすぅすぅ寝息をたてた。
ついさっきまで、男を淫らに誘う妖艶な女性だったのが、途端に無垢な子供のようになる彼女が愛おしい。イヤルは、連日、何度も吐き出した下半身がずくりと立ち上がりそうになるのを、別のことを考えて抑えた。
たまにしか帰ってこないイヤルとの夫婦生活は、最初のうちは皆に歓迎された。しかし、こうも連日となるとさすがにエンフィを休ませろと誰かが注意しにいかねばならない。セバスとマイヤに泣きつかれたドーハンが、その役を引き受けることになった。
「イヤル様、世の中には行為中に命を落とす人もいるのをご存じでしょうか? このままでは、エンフィ様が危ういですよ」
「は? そうなのか? いやいや、すごく病弱な人間ならそうだろうが、エンフィは健康そのものだぞ? それに、明後日にはまた王都に行かなきゃいけないし、フィーノの妹を作ってあげるには、だな」
「夫婦ですし、ふたり目を作ってくださるのは、我々としても喜ばしいことです。だからといって、物事には限度というものがありましょう。エンフィ様は、あなたが望むことなら、なんでも叶えようと頑張り続けるでしょうけれど。体力と気力の限界は、女性のほうが男性よりも数倍弱いのです。弱った母体が、恙なく出産できるとでも?」
「あ、いや……そうだな、これまでエンフィに触れられなかったから、タガが外れていたようだ。仕事仕事で、少し考えればわかりそうなものなのに、エンフィに酷いことをするなど情けないな……。しばらくは、控えるよ」
「そうして差し上げてください」
しゅんと、叱られた子犬のようにうつむき、自己嫌悪に陥ったイヤルを、ドーハンが苦笑して慰める。その日から、イヤルは、キス込みの添い寝程度で自身の欲を抑え込んだ。
「イヤル? 今日はもうしないの?」
隙あらば服を剥いできた彼の変わりように、エンフィは訝しんだ。まさか、連日やりすぎたから、もう飽きられたのだろうかと少し不安になる。
「いや、その……エンフィ、ごめん。オレが舞い上がってたせいで疲れただろう? 聞いたよ、オレが仕事をしている間、倒れるように眠ってしまって、フィーノの面倒をみるのも辛かったんだってね……エンフィ、オレのために無理に合わせようとしてくれるのは嬉しいけれど、これからはそうなる前に教えて欲しい。気を付けようとしてもオレは細かな気遣いができないから、またやらかしかねないし。だからさ、明後日ここを発つまでは、ちょっと我慢しようかと思って。何よりも、オレはこうして君の側にいるだけでも十分幸せなんだ」
「イヤル……。ありがとう、わたし、あなたの妻になれて本当に幸せよ」
幸せが胸からあふれだしそうなほどになり、ふたりはそっとキスをした。最近、あまりできなかった、変哲もない日常の一コマを伝えあう。やがて、エンフィの口元に、かみ殺したあくびが見え始めた。
「あのさ、エンフィ。ドーハンとのことなんだけど」
「ふわぁ、ん……ドーハンがどうしたの?」
「ドーハン自身のことじゃなくて、契約のこと。そろそろ、見直しと更新をしなよ」
「見直しと更新?」
「ロイエたちを捕まえたときに、皆で幸せになろうって言っただろ? それにはドーハンのことも含まれてるはずだ」
「うん……。でも、いいの?」
「いいに決まってる。次の出張の間、ドーハンは今のままでいいと頑なに言うだろうけれど、彼とよく話合うんだ。いいね?」
まどろみの中、イヤルの言葉がリフレインする。エンフィ自身も気にかけていた彼の提案が、彼女の心の奥深くにしっかりと染み込んでいった。
「エンフィ、フィーノを産んでから、ますます色っぽくなったね」
「や、あんまりじろじろ見ないでぇ」
「オレを誘うエンフィが悪い。フィーノのためにも、オレ頑張るよ」
「そ、そこまで頑張らなくてもっ、ああ、んっ!」
昼夜問わず、体力が底なしかと思われるほどのイヤルの動きに翻弄され、エンフィはへとへとだった。なのに、体はイヤルの思うが儘、素直に反応する。エンフィ自身もイヤルが満足してくれるならと、拒否することは一切なかった。
上気してとろとろに蕩けきった顔の、いつまでも初々しい新妻のようなエンフィ。その妻の丸い曲線の合間に、すでに猛った熱をこすりつける。思わせぶりな彼の動きに、ぴくぴくと敏感に反応してくれる肢体があまりにもいやらしく、イヤルはごくりと喉を上下させると、先端を一気に奥に挿れた。
高く音を鳴らして肌と肌がぶつかる。あっという間に昇りつめたエンフィが、その音よりも高く声をあげそうになるのを必死に堪えた。それでも漏れる嬌声のうめきに合わせて、イヤルがその唇をふさぐように互いの体をねじりキスをする。
いつの間にかはだけられた胸元からは、小さな膨らみが揺れている。小指の先ほどの小さな尖りをイヤルが摘み上げると、中がきゅうっと締められ、彼のすべてを搾り取ろうとした。その動きに逆らわず、せりあがってくる感覚のままに、ぐっと腰を押し付ける。
「エンフィ、愛してる」
「ああっ、わ、わたしも、あ、あぁっ!」
エンフィが数舜早く達したのを追いかけるように、イヤルが最奥で熱いほとばしりを吐き出す。汗ばんだ肌のまま密着し、しばらく抱き合っていると、エンフィがすぅすぅ寝息をたてた。
ついさっきまで、男を淫らに誘う妖艶な女性だったのが、途端に無垢な子供のようになる彼女が愛おしい。イヤルは、連日、何度も吐き出した下半身がずくりと立ち上がりそうになるのを、別のことを考えて抑えた。
たまにしか帰ってこないイヤルとの夫婦生活は、最初のうちは皆に歓迎された。しかし、こうも連日となるとさすがにエンフィを休ませろと誰かが注意しにいかねばならない。セバスとマイヤに泣きつかれたドーハンが、その役を引き受けることになった。
「イヤル様、世の中には行為中に命を落とす人もいるのをご存じでしょうか? このままでは、エンフィ様が危ういですよ」
「は? そうなのか? いやいや、すごく病弱な人間ならそうだろうが、エンフィは健康そのものだぞ? それに、明後日にはまた王都に行かなきゃいけないし、フィーノの妹を作ってあげるには、だな」
「夫婦ですし、ふたり目を作ってくださるのは、我々としても喜ばしいことです。だからといって、物事には限度というものがありましょう。エンフィ様は、あなたが望むことなら、なんでも叶えようと頑張り続けるでしょうけれど。体力と気力の限界は、女性のほうが男性よりも数倍弱いのです。弱った母体が、恙なく出産できるとでも?」
「あ、いや……そうだな、これまでエンフィに触れられなかったから、タガが外れていたようだ。仕事仕事で、少し考えればわかりそうなものなのに、エンフィに酷いことをするなど情けないな……。しばらくは、控えるよ」
「そうして差し上げてください」
しゅんと、叱られた子犬のようにうつむき、自己嫌悪に陥ったイヤルを、ドーハンが苦笑して慰める。その日から、イヤルは、キス込みの添い寝程度で自身の欲を抑え込んだ。
「イヤル? 今日はもうしないの?」
隙あらば服を剥いできた彼の変わりように、エンフィは訝しんだ。まさか、連日やりすぎたから、もう飽きられたのだろうかと少し不安になる。
「いや、その……エンフィ、ごめん。オレが舞い上がってたせいで疲れただろう? 聞いたよ、オレが仕事をしている間、倒れるように眠ってしまって、フィーノの面倒をみるのも辛かったんだってね……エンフィ、オレのために無理に合わせようとしてくれるのは嬉しいけれど、これからはそうなる前に教えて欲しい。気を付けようとしてもオレは細かな気遣いができないから、またやらかしかねないし。だからさ、明後日ここを発つまでは、ちょっと我慢しようかと思って。何よりも、オレはこうして君の側にいるだけでも十分幸せなんだ」
「イヤル……。ありがとう、わたし、あなたの妻になれて本当に幸せよ」
幸せが胸からあふれだしそうなほどになり、ふたりはそっとキスをした。最近、あまりできなかった、変哲もない日常の一コマを伝えあう。やがて、エンフィの口元に、かみ殺したあくびが見え始めた。
「あのさ、エンフィ。ドーハンとのことなんだけど」
「ふわぁ、ん……ドーハンがどうしたの?」
「ドーハン自身のことじゃなくて、契約のこと。そろそろ、見直しと更新をしなよ」
「見直しと更新?」
「ロイエたちを捕まえたときに、皆で幸せになろうって言っただろ? それにはドーハンのことも含まれてるはずだ」
「うん……。でも、いいの?」
「いいに決まってる。次の出張の間、ドーハンは今のままでいいと頑なに言うだろうけれど、彼とよく話合うんだ。いいね?」
まどろみの中、イヤルの言葉がリフレインする。エンフィ自身も気にかけていた彼の提案が、彼女の心の奥深くにしっかりと染み込んでいった。
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