完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
30 / 32

4 契約結婚 ※

しおりを挟む
 イヤルが帰ってきてから、エンフィの生活は変わるかと思われたがあまり変わらなかった。
 里芋事業の仕事のために領地を離れるのは相変わらずで、さらに、すっぱり魔塔や王宮と縁が切れるわけでもなく、イヤルは事あるごとに王都に向かうことになる。
 とはいえ、2、3週間に1度は帰ってこれるので、エンフィは寂しさを覚えながらもそこそこ満足していた。

 そんなある日、3週間ぶりに帰ってきたイヤルが、領地の報告を受けていると、ドーハンが訪れた。

「イヤル様、少々よろしいでしょうか?」
「ドーハン、君からオレに話かけるなんて珍しいな? 何かあったのか?」
「いえ、特別何かあるわけではありませんが……」

 少し言いづらそうにしているドーハンを見て、イヤルは彼にソファを勧める。
 常にイヤルの三歩後ろを守っているかのような、執事としての立場を貫く彼の神妙な顔を見て、込み入った話だろうと、お茶の準備を済ませるとセバスは出ていった。

「フィーノ様も、もう3つになりましたね」
「そうだなあ。ドーハンがエンフィと一緒に育ててくれているから助かっている。正直、ここにあまりいられないオレじゃなくて、ドーハンのほうになつきすぎるかなと心配していたが、オレのこともちゃんと父親として慕ってくれていて。さっきなんか、オレとキャッチボールしたいって、もじもじやってきて。ああ、オレの息子、かわいすぎんだろ」

 イヤルは、毎日エンフィやフィーノに会いたい。しかしそれが叶わないからか、ずいぶん子煩悩な父親になった。フィーノの話だけで数時間はお茶いっぱいで過ごせるほど。

「はい、イヤル様に似て、とても賢く健康に育っております。で、ですね。その、ふたり目のお子様のことなんですが」
「ふたり目?」
「はい、フィーノ様が妹が欲しいと言い出しまして……。仲良くしている少年たちから妹自慢を聞き、欲しくなったようです」
「あー……だが、こればかりは授かりものだしなあ。オレとしては、ドーハンとエンフィの娘でもいいんだが。きっと、国一番かわいくてきれいな子に育つぞ」
「いえ。私は……」

 イヤルが、さも当たり前のように、ふたり目の夫であるドーハンに伝えると、ドーハンが口をつぐむ。実は、このようなやり取りは初めてではない。この問いも答えも、同じことを繰り返していた。

「あのな、エンフィもだが、君も、オレにずっと気を使い続けているのは知っている。エンフィと君が契約結婚をするってその内容を聞いた時にも言ったが。いくらなんでも、後継者争いを回避したいから一生避妊するとか、何事もオレだけを優先するとか、君は、君たちは本当にそれでいいのか? ふたりの気持ちを大事にしたいからあまり口出ししたくないけどな、契約は随時変わるものだろう? そもそも、結婚に際して契約するにしても、君たちの契約はあまりにもオレに対しての配慮が過剰すぎる」
「ですが、私の子が生まれれば、いらぬ争いになるかもしれませんし……。もともと、おふたりだけという約束に、やむを得ず私が割り込んだ形でしたから」
「あー、もうその言い訳は聞き飽きた。オレがエンフィの気持ちを全て受け入れると言ったんだ。契約なんて、もう形ばかりでいいだろう? 何度も聞くがな、ドーハンは里芋事業やこの領地を乗っ取るつもりか? そうじゃないはずだ」
「それはもちろん、そうですが。周囲の考えは、思わぬ方に向かうこともありますし。私のことはお気になさらず、どうぞふたり目のお子を設けていただければ」
「あー、なら、そうする。このわからずやの頑固者め。でも、さっきのこと、しっかりエンフィと話合ってくれよ」
「かしこまりました」

 うやうやしく頭を下げたドーハンの表情はわからない。イヤルは、じっと彼の頭部を見つめると立ち上がった。

「本当に、世話のやける……」

 イヤルとしては、彼が思うように、自分もドーハンとエンフィとの間にできた子供も分け隔てなく育てる覚悟が出来ている。というよりも、愛する人の子であるし、信頼する相手の血の繋がった子だ。愛することはあっても、疎んだりするわけがない。
 彼らの子がもしも産まれたら、男の子ならばフィーノの片腕として領地か事業を任せるだろうし、女の子ならきちんとした男の元に嫁に──出したくはないが──どこに出してもおかしくない程の女性に育てる自信があった。

 この話をすると、どうしてもムカムカする。立ち上がったその足で、エンフィの元に向かった。フィーノは、今は友達と遊ぶのに夢中で夕方まで帰ってこない。

「イヤル? どうしたの?」

 本来ならば、イヤルは仕事中でエンフィのところに来る時間ではない。その彼が突然きたことで、目を丸くしつつも、嬉しそうに頬を染めて近づく彼女をそっと抱きしめた。

「エンフィ、フィーノのおねだりに応えてあげようか」
「え? あ……ん、いきなり……。くすぐったいわ」

 イヤルは、エンフィの言葉に応えず、彼女の白い首筋に吸い付く。白い肌に、イヤルがつけた赤い印が生まれていった。

「妹になるかどうかは、神のみぞ知るが……」
「イヤル、まだ、明るいのに……ん……。フィーノが帰ってきたら……」
「まだまだ帰ってこないさ。エンフィ、後ろを向いて」

 いつもよりも強引に力強く腰を持たれ、エンフィは軽々反転させられた。そして、ひらりとしたスカートの裾を、さっとたくし上げられる。
 サイドが紐の下着のクロッチ部分を指で横にずらされ、まだ濡れ始めたばかりの足の付け根が露わになった。明るい陽射しが窓から入る部屋は、夜とは違いその場所がくっきり見える。

 大きな手が、細い腰に当てられる。エンフィは、イヤルに全てを見られていると思うと、今すぐどこかに隠れたいような羞恥でどうにかなりそうだった。彼の熱く欲のはらんだ視線から、少しでも逃れようと腰をくねらせる。だがその行動は、イヤルの雄をますます刺激し誘うだけだった。


 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...