完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

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 エンフィは、ドーハンの告白を聞いてからというもの、今まで生きてきて一番狼狽えつづけていた。兄のように頼りがいがある彼を、執事として慕っていた。彼の望むような男として見たことはない。

「契約婚でいいなんて……。そりゃ、ドーハンは頼りになるし、女性が黄色い声をあげるほどカッコいいし、賢いし、いつだってわたしを支えてくれているし、さっきの条件にぴったりだし。ちがうちがう、そういう問題じゃなくて、ドーハンがわたしをなんて……いいえ、そうじゃなくて、これからどうしたらいいの?」

 ドーハンは、あれからも平然としているように見える。自分ばかりこんな風に心乱れるなんてズルいと思ったり、アレ以来なんともなさそうな彼を見てあれは冗談だったのかなんて拍子抜けしたりしていた。
 何やら、セバスたちが意味ありげに微笑んで見てくることも、その居心地の悪さを増強している。特に、ドーハンとふたりで仕事の話をしていると、セバスたちだけでなくその場にいあわせた全員がふたりきりにさせようと、そそくさと去っていった。

 途方にくれて誰にも相談できないままでいると、イヤルが帰ってきた。

「エンフィ、ただいま。あー、エンフィが足らなかった!」
「イヤル、おかえりなさい。わたしも会いたかった」

 小走りに互いに近づくと、がしっと抱きしめ合う。周囲に人がいるため、頬にキスを送るだけにとどめた。

 イヤルが無事に帰ったことを記念して、屋敷に集まった人々が酒を交わす。エンフィが領地を治めたので、ロイエたちによって傷つけられた地方の長たちも、徐々に立ち直りつつある状況をイヤルに報告しつつ、彼の帰還を喜んだ。

「オレが不甲斐ないばかりに、皆には本当に苦労をかけた。里芋事業のほうも、めでたく王家御用達になったし順調らしい。これからは、領民たち全員が笑顔でい続けられるよう、皆と頑張っていこうと思う。あの時、誰よりも傷ついたエンフィが領地のために動いてくれなければ、ロイエたちの悪行によって死人がでたかもしれない。この2年、領地をまわり復興を果たしてくれてありがとう」

 イヤルがそう言うと、長たちは口々に英雄イヤルを褒め称えた。そのイヤルが窮地の時に彼や自分たちを助けてくれたエンフィのことは、女神さながらにもちあげている。
 特産品である里芋の味付けに必要な酒の開発も順調で、今日はその酒が大盤振る舞いされていた。口当たりはいいが、度数の強い酒をのみ交わした面々は、例年よりも早く飲みつぶれた。

 イヤルとエンフィは、そんな彼らの姿を見て微笑み合う。視界の端に、皆から酒を勧められつぎつぎにコップを空にするドーハンがうつった。平然と何倍も呷る彼に、エンフィの心がツキンといたむ。

「エンフィ、どうした?」
「ううん、なんでもない」
「なんでもなくはないだろう? さっきから、ドーハンを見ているね。彼と何かあったのか?」

 久しぶりにあったエンフィの様子がおかしいとすぐに気づいたイヤルは、彼女を寝室に連れていった。エンフィは、ふたりきりになっても言いづらそうにしている。無理やり聞き出すわけにもいかず、少々待ちくたびれたイヤルは、エンフィをベッドに押し倒すことにした。

「エンフィ、もう離れたくない。毎日会いたい、君に触れたい」
「わたしも。できることなら、あなたのポケットに入っておきたいくらい」

 熱い吐息が混じり合う。それだけでは足らないと、互いの舌を絡み合わせていった。

 デスクワークが主だったイヤルの手は、魔法を駆使して体も動かすために血管がボコッと浮き骨ばっている。以前も健康のためにある程度は鍛えていたとはいえ、まるで、別の男性のようにがっしりとした体躯になった彼にのしかかられ、エンフィは目も、唇も、体も、心もなにもかもがぽーとして心もとない宙に放り出された気分になる。

 その彼の手が、するすると服の隙間から彼女の胸を手のひらで覆う。

「ん、あ……はぁ」
「相変わらず感じやすいな」
「言わないで……」

 エンフィは、自分のささやかすぎる胸元を、彼に好き放題弄ばれ、体の芯から瞬く間にぞわっとする気持ちが悪いようで、もっとそれに埋もれたくなる感覚に苛まれる。ふいに、ふたつの尖りをぴんっと弾かれ体が跳ねた。

「ああっ!」

 はしたない自らの大きな声が、あまりにも恥ずかしい。口元を手で覆うと、イヤルにその手を掴まれた。

「エンフィの声。全部、オレに聞かせて」

 その合間にも、間髪を入れずに弾かれ捏ねられる。唇をきゅっと感で声を抑えようとしても、どうしても小さな隙間からいやらしい声が漏れた。

 息も絶え絶えになるころには、一糸まとわぬ姿にされていた。一方でイヤルは、胸をはだけたくらい。
 合わせた唇の間に起こる、はぁはぁと途切れる吐息はどちらのものか。濡れそぼった足の付根までも、彼に蹂躙されつくしたころ、ぐいっと足を大きく広げられる。

 服を脱ぐ間も惜しいとばかりに、前だけをくつろげた彼の腰が擦り付けられる。一年ぶりに迎え入れた彼の熱は大きく脈打っているかのようだ。

「ああ、エンフィ。こんなオレを見捨てないでくれてありがとう。愛してる」
「ああ、ん……わたしも、あいしっ、あぁ!」

 強く深く体の奥を穿たれる度に、エンフィの体が跳ねる。彼から与えられる心地よい快楽は、強すぎるほどだが、今は彼のそれに溺れたくて必死にすがりついた。
 やがて、エンフィの力が入り、中がきゅうきゅう占め詰められる。それを追うように、最奥に押し付けられた彼の切っ先から熱いものがほとばしった。

 荒げた息が少し穏やかになったころ、イヤルは彼女を抱きしめたまま先程の問を繰り返した。ぼんやりした彼女は、彼に誘導されるがまま、ドーハンとのことを洗いざらい打ち明けたのであった。
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