完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
24 / 32

18

しおりを挟む
 あの事件のあと、ロイエ筆頭に王都で詐欺などを繰り返していた犯罪集団は逮捕された。彼らは、イヤルの領地や王都だけでなく、蜘蛛の巣のように国全体に蔓延っていたため、まだ逃亡している者も少なくないが、魔法使いはロイエだけのようなので捕まるのも時間の問題だろう。

 大規模犯罪集団のトップであるロイエを、逮捕できた功績は大きい。イヤルは、魔法使いであることを隠し規則を破った罪は、その功績があるため相殺とまではいかないが、かなりの減刑処分となった。

 ロイエが起こした事件の被害者たちは多数に及び、徴収した金銭のほとんどは残っていない。しかも、もとは被害者たちの財産である。使用した分はもちろんのこと、ここ数年はイヤルの財産であるため少々揉めた。
 ただ、魔法使いであるロイエがこつ然と姿を消したこは、国の責任も追求されたことにより、国庫から幾ばくかの保証金が彼らに支払われたのである。

 ソファで、ゆったりと事件のあらましが書かれた新聞のコラムを読み、エンフィはふぅっと短いため息をついた。
 イヤルの離婚と再婚に関しては無効が妥当だと判決がくだり、エンフィはイヤルの妻としてかの領地で今日も働いている。セバスたちも、エンフィとともに領地に戻っており、ロイエという邪魔者がいなくなったとはいえ、大きな傷を負った領地の再建に、毎日東奔西走していた。

「エンフィ様、ラベンダーティと里芋チップスをどうぞ」
「ありがとう、ドーハン」

 以前と違うことと言えば、ドーハンが領地に来ておりエンフィを支えている。彼が来たことで、以前よりもぐっと楽になった彼女は、あかぎれのなくなった指で、両方の耳に光るピアスを触った。

「あれから、もう2年になるのね……」
「そうですね。それにしても、どの新聞記事にもイヤル様の逮捕劇やその後の活躍を大きく報じていますね」
「罰則を設けられるどころか、一躍英雄扱いになったものね。国としても、不祥事から目をそらすために、イヤルを英雄にしたてあげたのでしょうけれど。国の思惑とはいえ、10年のところを5年に減らしていただいたことは、本当に良かったわ」

 エンフィは、彼にはもう必要のない魔法を封じるアーティファクトと守護のアーティファクトを指先で遊びながら、南方で起こった災害の救助に駆り出されている彼を想う。
 現在の彼が領地に帰還できるのは、年に1度の年末年始の特別休暇のときだけ。あと3年がすぎても、今は会社の部下たちにまかせている里芋事業を取り仕切らなければならないため、ふたりが共に過ごせる日々は年に三分の二ほどである。

「ねぇ、ドーハン。こんな田舎についてきて本当によかったの? あなたなら、王都でお父様方に仕えていたら、良縁に恵まれるでしょうに」
「はぁ……。またその話ですか?」

 真正面のソファに座りながら、ゆったりお茶を嗜んでいるドーハンにそういうと、彼は深くながーいため息をついた。

「一体、いつになったらこの鈍い衣を100枚被っている人は気づいてくれるんだ……」
「え? 何か言った?」
「いーえ。何も言ってません」

 ドーハンは平然としつつも、少しばかりすねたようなトゲのある言葉を伝える。すると、エンフィは「変なドーハン」とだけつぶやき、微笑んでお茶を一口飲んだ。 
 
「そんなことよりも、また来ましたね。封も切っていない手紙の山がこどもの背丈ほどになっておりますが」
「ええ、皆さんご丁寧に何度も送られてくるわ。わたしと結婚して、英雄と繋がりたいみたいね。2年前、わたしが離婚されたときには、実家に、傷のついた離婚された女になんか、一通もきていなかったのに」
「日和見な奴らの求婚の申し込みなど、暖炉の火の足しにもなりませんね。領民の子どもたちのノートの紙や、小っ恥ずかしいキザな言葉を晒して……ごほん、文字の練習に再利用しましょう」
「ちょっと、子どもたちの目と心が穢れちゃうわ。紙の再利用はともかく、文字の練習はやめてあげて」
「そうですか? エンフィ様がそう仰るのなら、そうしましょう。しかし、いつまでもイヤル様おひとりしか夫がいない以上、永遠にその申込書は積み重なるでしょうね。この間なんかは、強引にここに乗り込んできた男もいたじゃないですか。今のままでは危険なのは事実ですよ」
「はぁ。たしかに、このままだと防犯上良くないわね。どこかに働き者で気の利く良い人がいて、契約婚でいいのなら考えるけどねぇ」
「その条件に合う男がいたら、どうします?」
「働き者で気の利く良い人なんて、心当たりはないわ。それに、契約婚なんて、馬鹿にしたようなものを承諾する人がいるとは思えないけれど。いたら、イヤルと話し合って、こちらからお願いしたいくらいよ」

 エンフィが、投げやりのように発した言葉に、側のソファに座っていたセバスとマイヤは満面の笑顔になった。

「そうじゃー。仕事が残っとったんじゃったー」
「あら、わたしも。ほほほ、奥様、折角誘っていただいたお茶ですが、これで失礼しますね」

 棒読みでそう言うと、ふたりは部屋から急いで立ち去った。

 ドアが静かに閉まると、ドーハンはいつになく真剣な瞳でエンフィを見つめた。

「ドーハン、どうしたの?」

 どことなく、おしりがもぞもぞするような居心地の悪さを感じる。エンフィは、無言のまま何かを訴えている彼の瞳から、そっと視線をそらして逃げた。

 とくとくと、普段よりもやや早い鼓動が大きく聞こえる。シーンと静まり返ったこの空間からも出ていきたくなった。

 数秒の静寂は、ドーハンが立ち上がりエンフィに近づく足音によって破られる。

「エンフィ様……。私では、その条件に合いませんか?」
「え? ドーハン、一体何を……」

 片膝をつき、いつもは見上げる彼の瞳が、今は自分を見上げている。ゆらゆらと揺れている彼の瞳が、なぜか熱くやけどしそうなほどの熱を感じた。

「エンフィ様、何度も言うように、私は結婚する気などありません。なぜなら、初めてお会いしていからというもの、あなたしか私の心にいませんでしたから。名ばかりの男爵である私は、あなたにとって身分不相応なことは重々承知しております。ですから、イヤル様とのご結婚をされたあなたの幸せを遠くから願うだけで良かったのです」
「ドーハン……」

 知らなかった。ドーハンが、自分にそのような想いを抱いていたなど、全く気づかなかった。エンフィは、突然の彼の告白に対してイエスともノーとも言えないまま、その日の仕事は彼に任せ、夕食も食べすにベッドに入ったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...