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「はぁ、ん。イヤル、待って。まだ片付けが……」
「オレたちの子を、待ちくたびれるほど待っているセバスたちが喜んで片付けるさ」
「もう。なら、せめてお風呂に。ずっと家事をしていて汚れているから」
「君に汚いところなんてないよ」

 エンフィもまた、イヤルの男らしい激情の波にのまれながら、彼の指先ひとつからも香り立つ男の色気にくらくらする。ちゅっちゅと立て続けに落とされるキスの嵐に、息も絶え絶えになっていった。

「イヤル、ああ……」
「きれいだ……」

 耳に吐息ごとささやかれて、すっかり準備の整ったエンフィの体がぴくんとふるえる。あっというまに簡素なワンピースは床に落ちた。

 小さなふくらみの頂をきゅっとつままれると、腰があがり膝を立てる。足を閉じたいのに、イヤルのたくましい腕がそれを許さなかった。横から彼に抱き着かれ、左の胸を唇で、とっくに濡れててらてらとひかる足の付け根にある小さな尖りや花弁も彼の右手が自由気ままに動き回る。
 知り尽くしたと思っていた彼女の、思いがけない新たな反応があるたびに、彼の中心がどくどくと痛いほどの血の流れにはちきれんばかりになった。

「あ、ああ……!」
「エンフィ、もっと乱れて」
「も、ダメ。イヤル、わたし、わたしぃ……」

 体の震えが小さく小刻みになり、力がぎゅうっと入ったのがわかる。右手の中指と薬指は、ぐちゅぐちゅと淫らな音を立てながら、彼女の熱い肉壁にきゅうきゅうしめつけられた。

 エンフィが、今まさに絶頂を迎えようとした時、彼の動きがぴたりと止まる。

 一瞬、急にやめられたことに呆然とする間もなく、イヤルはやや乱暴に指を引き抜いた。そして、どうしてあのまま続けてくれなかったのかとやや恨めしそうに蕩けた瞳を向けるエンフィの足を持ち上げる。
 折りたたまれた体の中心を、堅く猛り切った荒れ狂うものを一気に貫く。いつもよりも荒々しくやや乱暴に腰を打ち付けられ、あっという間に昇りつめた。
 彼女が1回、2回と立て続けに絶頂を迎えたあと、高く音を立てていた彼の腰がとまる。ぐいぐいと腰を押しつけ、中の一番奥に白く濁った液体を勢いよく吐き出した。

「あ、あ……中に……」
「エンフィ、オレの、エンフィ。オレだけの……愛してる。愛しているんだ……」
「私も……」

 熱のこもった視線が絡み合う。彼のその瞳に、ほの暗いなにかがちらちらと小さな炎のように潜んでいるのを、蕩け切って眠りに入った彼女が気づくことはなかった。

 翌朝、エンフィは、気だるさと節々が痛む体を起こし、久しぶりに受けた彼の愛と、おなかの中のなごりを感じて微笑む。

「ふふふ、幸せ……さあ、朝ご飯を作らないと」

 隣にいる眠ったままの愛しい人を起こさないように、そっとベッドから抜け出そうとする。すると、眠っているはずの彼の腕がにゅっと伸びてきて、せっかく起こした体がベッドに逆戻りした。

「きゃあ」
「ん……」

 イヤルが起きているのかと思えば、彼は完全に眠っている。無意識の状態であっても、自分を求めてくれているのだと感じ、エンフィはそのまま彼の肌に、自らの柔肌をぴったりくっつけみじろぎすることなくじっとした。

「まだまだ忙しい日が続くし、ふたりきりの時間を過ごしたいから、子供はまだいいって言っていたのに……」

 昨日の彼の言葉や、最後に体に放たれた彼の愛を、少しとまどいながらも嬉しくなる。これで、ふたりの子が授かれば、どれほど幸せなことなのだろうか。

「事業も順調みたいだし、忙しいけれど子供を育てられるようになってきたのかな? 一年目は純粋に二人が良かったし、詐欺にあってからというもの、子供が生まれてもまともに育てられそうにないからって、絶対に避妊していたのに」

 彼を起こさない程度の小さな声で、自分自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「まさか、勢いのまま? ううん、イヤルは感情よりも理性のほうが強く働く人だもの。だから、きっと。ふふ、わたしたちの赤ちゃん……」

 (そう、きっと子供を作って、これから夢みていたような幸せな家庭を築くことができるのだ)と、この時は楽観視して、顔面が崩壊したかのように、ひとりで妄想をしては、にまにまとにやついていたのだった。

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