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 わたくしの話を聞き終えたオームさまは、しばらくの間黙り込んでいた。

 怒っては、いなさそう。こんなことを話したわたくしを嫌いにもなってなさそう。驚き、というよりも戸惑いのほうが強そうな感じ。

 頭から信じてくれない、それならそれで仕方がない。そう思っていたのだけれど、信じてくれた、もしくは、信じようとしてくれているのかなと思うと、嬉しくてこそばゆい気持になる。

「その話、俺しか打ち明けていないのか? 義兄上にも? その、気取られている可能性は?」
「え、ええ。都心ではここのような危険は、オームさまのご活躍のおかげで戦争などもなく治安も向上しましたし、日常のケガや病気くらいでしたから、ルーメンの出番はなかったですもの」

 時々、ルーメンと楽しく過ごしたり、小さなころは色んな遊びをしてくれていたけれど、ルーメンが周囲に誰もいないことを確認してくれていたから、盗み見などもなかったと思う。

「そうか……このことは、秘密にしたほうがいいだろう」
「ええ、騒ぎになりますものね」

 わたくしだって、ルーメンはこの世界ではありえないほどの尊い存在であることはわかっている。わたくしは、彼を使ってルーぴょん♡ハニーたん教、別名バカップル教の教祖や教主になるつもりもないし、研究とかいいつつ実験体になるのもごめんだ。

「騒がれるだけではないな。ほとんど死にかけていた俺の肉体を完全に修復させ、死者を呼び戻すかのような彼らの存在を狙うやつらが必ず現れる。言ってみれば、時戻しをしたようなもの。現に、今の俺は、まるで数年前の十代のように体が軽くなっているし調子がいい。ジュールが願えば、老化で変化した肉体を若い状態に戻すこともできると思うぞ?つまり、不老不死への足掛かりになるからだ。それどころか、ルーメン、と言ったか。彼とコンタクトをとれるジュールさえいれば、世界の王になることも可能だろう」
「そんな大げさなー。ふふ、せいぜい、賢者さまや聖職者たちがあがめるくらいでは?」
「我が国の戦争は終わったが、小競り合いが続いている。結局、肥沃で便利な土地を持つもの、それを奪いたいものがいなくならないかぎり、人々は力を求めるものだ」

 オームさまは、わたくしよりも国の中枢に近いところにいた。全てを知っているわけではないだろうけれど、彼の言うことの重みを感じる。

(強いだけでなく、まじめで誠実で冷静で聡明。ちょっとつっけんどんなところがあるけど。最初に彼を選んだ理由は違うけど、オームさまを選んで大正解だったのね。わたくし、過去の自分をほめてあげたいわ)

「わかりましたわ。もともと、ルーメンのことをオームさまにも知られることのないようにするつもりだったんです」
「そうか。しかし、俺にバレて良かったのか?」
「最初にお伝えした通り、オームさまもわたくしと同じ、世界の重要なパーツなんですよ」
「ジュールの魂が、寿命など以外で生を終えることができなければ、世界の消失につながるという話か?」
「ええ。ハニーたん♡ んんっ、カンデラさんがおっしゃるには、あなたが危ない時には密かに助けておられたようですよ。やけに幸運なことがあったなど、心当たりはありませんか?」
「確かに、戦いの場では運が良かった。俺よりも強い相手の油断かと思っていたが、少しのケガだけですんでいたな。現地の食事などでも、俺だけ食中毒にならなかったり、ちょっとしたことで水源や物資を見つけたり」

 他にも心当たりはたくさんありそう。軽く上を向いてはうんうん頷いて、過去の出来事を自身で納得しているみたい。

「全てに介入していたわけではないでしょうけれど、命が危うい時の幸運は、カンデラさんの力によるものかと」
「なんだか、ずるをしたような」
「運も実力のうち、ですわ。もともと、不平等な世界なのですし、オームさまは苦労が絶えなかったのですから、ほんの少しばかり、神様の贔屓が会ってもいいと思いますわ。だって、オームさまは、それを悪いことに使わないでしょう?」
「もちろん、絶対に悪用はしない」
「ふふ、そう仰ると確信していましたわ。わたくしは、平穏無事にどこかで暮らせればいいのです。ただ、わたくしの大切なお兄さまやオームさま、この領地に住む人々に不利益なことをしたら、容赦はしませんけど。いっそ、ふたりで世界を手に入れますか? やられる前にやっちゃうってやつですね。オームさまがお望みなら、わたくしも協力します。ルーメンだって、世界統一くらいは簡単だし、禁止事項じゃないって以前言っていたので、面白がって協力しそうですわよ? 世界の縦半分か横半分か、どっちがいいです?」

 まるで、物語の魔王様のセリフみたいなことを言ってみた。ルーメンとカンデラさんがいれば、本気でできそうな気がする。というより、出来る自信しかない。

「俺も、多くを望まない。世界など、荷が重すぎる」

 オームさまの答えは、わかりきっていた。わたくしは、おぶってくれている彼に、きゅっとしがみついて、いたずらっ子のように耳元で囁いた。

「なら、ずっとこのままでいいんじゃないでしょうか」
「そうだな、ずっとこのままでいいな」

 わたくしと彼の、同じ言葉の、違うニュアンスの会話が終わると、出口を示す光が見えてきたのであった。
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