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14 ※ラキスヶ
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ルーメンとカンデラさんが、歌のような詠唱を続けている光の中心で、オームさまが身じろぎしたのがわかった。
「ここは、どこだ? 俺は、地の底に落ちたはずなんだが……ジュールは無事なのか? ジュール! いたら返事をしてくれ」
小さく、でもはっきりと、彼の声が聞こえた。数分前と違って、呼吸も声もしっかりしている。助かったんだと思い、すぐにでも抱きつきに行きたいけれど、ルーメンたちの魔法を邪魔してはいけない。
眩しすぎるから、まぶた越しにも目が痛くなるほどの光量が入ってくるため、わたくしは今彼から背を向けている。
「オームさま、わたくしは無事ですわ。オームさまのおかげで、かすり傷ひとつありません」
わたくしがそう言うと、見えないのに彼が全身でホッとしたのがわかった。本当に、無事に治療できたんだと、わたくしのほうがホッとしていると思うけど。
「そうか、良かった。ここはどこだ?」
「はるか地の底です。炭鉱の道の何処かだと思うのですが」
「やはり地の底なのか。だが、どうしてこれほど明るいんだ。炭鉱には、もうライトがないはずなのに。目を開けてられないんだが」
「今、わたくしの知人が、オームさまの治療をしてくださっているのです。オームさまは、もう少しで天に召されるところだったんですよ。まだ痛みや、辛い場所はありませんか?」
「そういえば……どこも痛くないし、もう苦しくもない……」
「ああ、良かった……もう少しで終わると思いますから、そのままじっとしていてください」
「良く状況がわからないが、ジュールがそういうのならそうしよう」
この辺りを照らしていた光が徐々に暗くなる。どうやら、治療が終わったみたい。
ルーメンとカンデラの存在そのものが、ランプのようだから、真っ暗にはならず彼の姿がはっきり見えた。
「オームさま!」
きょろきょろと、辺りやルーメンたちを不思議そうに見ている彼に飛びついた。彼の体は回復しているけれど、服や汚れはそのままだ。でも、そんなことはかまわない。すでに、わたくしだってどろどろだし、汚れなんてどうでもいい。
分厚い手袋越しではない、彼の体に直接しがみつく。大きく規則的に呼吸を繰り返す胸に耳を当て、彼の拍動が放つ音や響きに耳を澄ませた。
「ジュール、ちょ、離れ……」
「しっ。しゃべらないでください。聞こえなくなるじゃないですか」
どくんどくんと、たしかに彼が生きる音がする。そのことが、とても嬉しくて幸せで、ほぅっと息をついて、甘えるように頬を擦り寄せた。すると、オームさまが、アーとかウーとか言いつつそっとわたくしの体を抱き寄せる。
不思議と、鳥肌も立たなかったし、身の毛がよだつほどの気持ち悪いさもない。それどころか、もっとしっかり抱きとめて欲しいとすら思えた。
「ジュール、取り敢えずオームの体と命は繋いだから。ほとんど反魂と人体錬成のような術だったから、俺達、少しばかり休息しなきゃならねぇ。ここから外へは、オームの記憶の中の炭鉱の地図を頼りにいけば、地上に出られるはずだ」
「残った力で、念の為にこの付近の坑道を安定させたわ。わからなくなったら、オームきゅん☆のヤマカンでいけば大丈夫。早めに脱出してね。じゃあ、うちたちは行くから。また呼んでねー♪」
わたくしたちが抱き合っている間に、ルーメンたちは消えていった。ルーメンは無尽蔵とも思える神様の力を借りることができると聞いていた。その彼が、休まねばならないほど消耗したのだ。
改めて、オームさまの体の隅々までチェックしようと、顔を上げる。すると、彼は首まで真っ赤にして視線をそらしていた。
「ジュール……その、これを……汚れてるけど」
「え?」
オームさまが、わたくしの体をぺりっと剥がすと、来ていた服を被せてくれた。
一瞬、なんで?と思ったが、彼の服の中の自分を見下ろすと、何も着ていないことに、やっと気付いた。
「ひゃああっ! み、みないでください」
「み、みてない。みてないから。きれいな白い髪とおなじような白い肌も、ふんわりしたむねも、おなかの下の白いものも、なにも見てないから!」
……
ばっちり見られてしまっている。あろうことか、下の茂みまで。
数瞬の沈黙の後、オームさまは自分の失言と言うなのカミングアウトに気付いたようだ。わたくしたちは、ふたりして全身を真っ赤にして、意味のない言葉のキャッチボールにならない言葉を繰り返したのだった。
「ここは、どこだ? 俺は、地の底に落ちたはずなんだが……ジュールは無事なのか? ジュール! いたら返事をしてくれ」
小さく、でもはっきりと、彼の声が聞こえた。数分前と違って、呼吸も声もしっかりしている。助かったんだと思い、すぐにでも抱きつきに行きたいけれど、ルーメンたちの魔法を邪魔してはいけない。
眩しすぎるから、まぶた越しにも目が痛くなるほどの光量が入ってくるため、わたくしは今彼から背を向けている。
「オームさま、わたくしは無事ですわ。オームさまのおかげで、かすり傷ひとつありません」
わたくしがそう言うと、見えないのに彼が全身でホッとしたのがわかった。本当に、無事に治療できたんだと、わたくしのほうがホッとしていると思うけど。
「そうか、良かった。ここはどこだ?」
「はるか地の底です。炭鉱の道の何処かだと思うのですが」
「やはり地の底なのか。だが、どうしてこれほど明るいんだ。炭鉱には、もうライトがないはずなのに。目を開けてられないんだが」
「今、わたくしの知人が、オームさまの治療をしてくださっているのです。オームさまは、もう少しで天に召されるところだったんですよ。まだ痛みや、辛い場所はありませんか?」
「そういえば……どこも痛くないし、もう苦しくもない……」
「ああ、良かった……もう少しで終わると思いますから、そのままじっとしていてください」
「良く状況がわからないが、ジュールがそういうのならそうしよう」
この辺りを照らしていた光が徐々に暗くなる。どうやら、治療が終わったみたい。
ルーメンとカンデラの存在そのものが、ランプのようだから、真っ暗にはならず彼の姿がはっきり見えた。
「オームさま!」
きょろきょろと、辺りやルーメンたちを不思議そうに見ている彼に飛びついた。彼の体は回復しているけれど、服や汚れはそのままだ。でも、そんなことはかまわない。すでに、わたくしだってどろどろだし、汚れなんてどうでもいい。
分厚い手袋越しではない、彼の体に直接しがみつく。大きく規則的に呼吸を繰り返す胸に耳を当て、彼の拍動が放つ音や響きに耳を澄ませた。
「ジュール、ちょ、離れ……」
「しっ。しゃべらないでください。聞こえなくなるじゃないですか」
どくんどくんと、たしかに彼が生きる音がする。そのことが、とても嬉しくて幸せで、ほぅっと息をついて、甘えるように頬を擦り寄せた。すると、オームさまが、アーとかウーとか言いつつそっとわたくしの体を抱き寄せる。
不思議と、鳥肌も立たなかったし、身の毛がよだつほどの気持ち悪いさもない。それどころか、もっとしっかり抱きとめて欲しいとすら思えた。
「ジュール、取り敢えずオームの体と命は繋いだから。ほとんど反魂と人体錬成のような術だったから、俺達、少しばかり休息しなきゃならねぇ。ここから外へは、オームの記憶の中の炭鉱の地図を頼りにいけば、地上に出られるはずだ」
「残った力で、念の為にこの付近の坑道を安定させたわ。わからなくなったら、オームきゅん☆のヤマカンでいけば大丈夫。早めに脱出してね。じゃあ、うちたちは行くから。また呼んでねー♪」
わたくしたちが抱き合っている間に、ルーメンたちは消えていった。ルーメンは無尽蔵とも思える神様の力を借りることができると聞いていた。その彼が、休まねばならないほど消耗したのだ。
改めて、オームさまの体の隅々までチェックしようと、顔を上げる。すると、彼は首まで真っ赤にして視線をそらしていた。
「ジュール……その、これを……汚れてるけど」
「え?」
オームさまが、わたくしの体をぺりっと剥がすと、来ていた服を被せてくれた。
一瞬、なんで?と思ったが、彼の服の中の自分を見下ろすと、何も着ていないことに、やっと気付いた。
「ひゃああっ! み、みないでください」
「み、みてない。みてないから。きれいな白い髪とおなじような白い肌も、ふんわりしたむねも、おなかの下の白いものも、なにも見てないから!」
……
ばっちり見られてしまっている。あろうことか、下の茂みまで。
数瞬の沈黙の後、オームさまは自分の失言と言うなのカミングアウトに気付いたようだ。わたくしたちは、ふたりして全身を真っ赤にして、意味のない言葉のキャッチボールにならない言葉を繰り返したのだった。
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