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前世 ※夫婦間ではありますが、胸糞R18表現あり

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 わたくしには、前世の記憶がある。当時、わたくしはウォンバット獣人として、伯爵家で愛されて大事にされて育った。

 ある日、わたくしに一方的に言い寄ってくる男性が現れ、その方を慕っている王女様に疎まれる。
 それ以降、社交界で、事実無根の「男好きで金遣いが粗く頭も悪い令嬢だ」と嘘をばらまかれた。抗議したところで相手に叶うはずはない。国に居づらくなってしまったわたくしは、ウォレス線を隔てた他国に嫁ぐことになった。

 新しい国はどんなところなのだろうか、夫やこれから知り合うパンダ獣人の方と仲良くなれるだろうかと、不安と期待でいっぱいになりつつ、姉のように慕っていたクローザと共にアイジィ国に渡った。

 思った以上に、歓迎され、そのまま準備されていたので結婚式を挙げたが、肝心の夫であるドゥーア様は、わたくしを毛嫌いしているみたいだった。

 政略をある程度受け入れてこちらに来たわたくしと違って、今回の結婚に、彼は不本意だったのだろう。それもそのはず、彼には愛する女性がいるというのだから。

 国家間の決められた結婚とはいえ、わたくしは愛し合うふたりを邪魔する存在だ。なるべく、夫とはかかわらないように過ごそうと決めたのも束の間、わたくしは初夜に呼び出される。

 アイジィ国では、夫が妻のウェディングドレスを優しく脱がせて、夢のようなひとときを過ごせるようにしていただけると聞いていた。

 愛する人とのことは大丈夫なのだろうかと首をかしげつつ、政略結婚なのだから最低限の義務を果たすだけだろうと、覚悟を決めて彼の部屋に向かった。

 最初で最後の思い出になるだろうその時は、わたくしにとって地獄の始まりだった。

 部屋にたどりつくなり、アルコールを浴びるほど飲んでいた彼に、ドレスのままベッドに押し倒された。おざなりにきつく胸を揉まれ、邪魔だからとドレスを手で引きちぎられる。

 どれほど泣いてやめてと言っても、泥酔状態の彼は止まらなかった。 体中が、体の中心が、心が痛くてたまらない。

 わたくしが憎くてこんな風にするのなら、放って置いてくれたら良かったのに、と伝えてもなしのつぶて。

 故郷の両親たちやクローザが、幸せになれるように今日の準備をしてくれていた笑顔を思い出した。それらが、幸せであればあるほど、激しく辛い現実を突きつけられる。

 わたくしは、いっそこのまま消えてしまいたいと心の底から思った。

 その時、ぱあっと世界が変わる。

「トッティ」

 恐ろしい男の声ではない、軽やかで音楽のような美しい声が、わたくしの名を呼ぶ。
 それは、全然違う音なのに、お母様のようにも思えた。

 いつの間にか、体の痛みがなくなっている。恐る恐る目を開けると、そこには前世のオシェアニィ国が崇める女神様がいた。

「めがみ、さま?」

 あの悪夢のような時間は、夢だったのか。それとも、今この瞬間が夢なのか。わけがわからず戸惑っていると、神様は困ったように話しはじめた。

 神様が言うには、今も悪夢のような現実の真っ最中だという。ただ、わたくしの心が、再生不可能になりそうなほど傷つき砕け散りそうだったから、精神だけ神と人との間の世界につれてきてくれたそうだ。

「では、助けてくださったのですね。わ、わたくし、戻りたくはありません! このまま女神様のもとに行きとうございます」

 わたくしは、必死に女神様にすがった。女神様が、わたくしの頭を撫でてくれたおかげで少し心が軽くなった。
「んー……。本来、我々は人の世に関与しないのだけど」

 神様が更に続けた言葉に、わたくしはびっくりした。
 魂の数は、ありとあらゆる世界の総数が決められていて、重要な存在がいくつかある。その魂がひとつでも欠けると、どこかの世界が歪み初めて消失してしまうということらしい。
 良くわからないけれど、わたくしという魂が、このまま消えてしまえば、小さな変化から大いなるうねりが生じて、もしかしたらオシェアニィ国があるあの世界が、消えてしまうかもしれないということだ。
 あの悪魔がいる世界など、どうなってもいいと思った。だけど、あそこには、両親やクローザ、わたくしを歓迎してくださったアイジィ国の皆様もいる。

「といっても、このままあそこにに戻せないと思うのよ」

 わたくしは、こくりと頷いた。万が一にも戻ってしまうなど、悍ましくて恐ろしい。戻った瞬間、わたくしはどうにかなりそうだと思った。

「トッティの中には、別の人物を入れようと思うわ。幸い、魂の入れ替わりは受け入れて貰いやすい世界だし」
「で、でも。夫は、ドゥーアは酷い男性なんです……わたくし、他の女性を犠牲にしてまで、自分だけ助かりたくはありません」
「何があったのか、彼がどういう人となりなのかは、あなたよりわかっているわ。安心して。その男の所業にも、耐えてくれるような人物よ。で、その人と入れ代わりはどうだろうと思ったんだけど、伯爵令嬢としての知識と教養があるとはいえ、彼女の世界ではあなたはやっていけないと思うのよね」
「そのような女性がいらっしゃるんですね。わたくし、あの男の妻じゃないのなら、入れ替わった世界で、なんだって耐えてみせますわ」
「……科学が発達し身分制度が全く違う世界なのよ。クローザのような協力者のいない立場だし。このまま入れ替わるとか無理だから。そのかわり、別の女性を彼女の人生を請け負って貰うわ。その子も色々あってね、そのほうがいいのよ」
「神様がそう仰るのなら……では、わたくしはどのように?」
「ちょうど、これから産まれる女の子のところに行ってほしいの。また最初からのやり直しだけど、今のところその子が、我々にとってもあなたにとっても最良の選択なのよね」
「よろしいのですか」
「あなたがいないと、死産になっちゃうのよ。そうなったら、ママが気の毒でしょう? 元気にすくすく育ってくれたらいいの」
「死産……そうですか。わたくし、そのご両親が悲しまないように、赤ちゃんになります」
「ありがとう。じゃ、頑張ってね。今度はしっかり寿命を全うしなさい」

 女神様の最後の言葉が消えるやいなや、わたくしは新しい世界で産声を上げたのであった。








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