完結 R18 WRONG─モンスター伯爵様、ふつつかな名ばかり妻ですが、どうぞよろしくお願いします

にじくす まさしよ

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エピソード−4

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 オームさまと結婚する1年前のこと。その頃は、わたくしは都心にある実家で、身分はそれほど高くないが裕福な家の令嬢として、仕事に忙しくとも、幸せに暮らしていた。

 とある事情があり男性が恐ろしいわたくしは、一生独身でいようと、女性ながらに仕事をしていた。一般的には、令嬢が働くというのはあまりない。普通は、誰かに嫁いで家事を切り盛りしたり、夫の支えとなるべく働くくらいだ。

 わたくしは、兄の手伝いだが、現場に出て男さながらに直接仕事を手掛けていた。手に職をつけて、贅沢はできないだろうけれど、独立して一生を過ごす予定だったのである。
 だというのに、兄から晴天の霹靂とも言える話をされた。

「結婚、でございますか?」

 両親亡き後、兄が爵位と手掛けている商会を引き継いだ。妹のわたくしが言うのもなんだが、優しくて頼もしい。そんな夫にしたいNo1の兄が、ついに結婚が決まり、お祝いをしようとした席で唐突に結婚するように提案された。

「でも、お兄さま。わたくしは結婚なんて……殿方の全員が酷い人だとは思いませんが、お兄さま以外の人など虫唾が走るほど生理的に無理、んん……、苦手なのはご存知ですよね。決して邪魔しませんので、独立するまで、このままここで、お兄さまのお手伝いをさせていただけませんか? もちろん、独立した暁にはこの家からも出ていきます。あと3年以内には独立できそうですし」
「俺だって、ジュールを嫁になんか行かせたくない。だけど、愛する人が、お前とやっていけるのかと心配するんだ。お前は優しいし、家を出ていくと言うだろうから、小姑イビリなんかしないよと説明しても、どうしても不安みたいで……」
「そう、……ですか」

 兄嫁予定の女性は、兄に恋人と紹介された当初から、わたくしととても仲良く過ごしてくれている。兄も、家同士のつながりもあるので、わたくしと友人のように接することの出来る女性を選んできた。
 そんなこともあって、これからは彼女が義姉として仲良くしてもらえると喜んでいた。が、どうやら違ったみたい。
 たしかに、いつまでも適齢期の妹が、結婚の予定もなく家にいるなど、新婚だし、新しい女主人にとっては不安とともに邪魔でしかないだろう。

「お義姉さまのお気持ちも理解できます。……わたくしだって、女が独身のまま過ごすだなんて、無理だと諦めてもいました。これも、何かの縁かもしれませんね。それで、わたくしの嫁ぎ先はどのようにお考えなのでしょうか」

 家柄目当てで、孫娘のように接してくれる優しいおじいちゃんとかがいいんだけど。介護は魔法があるし使用人もいるから問題ない。仲良くなれば、わたくしがオムツを替えるのも頑張ろうと思う。
 もしくは、相思相愛の愛人がいる人とか。それで完全にほったらかしにしてくれるのなら、めんどくさそうな仕事も頑張ろうと思う。
 あるいは、2,3歳くらいの小さな男の子で、母と息子のような関係を築き、成人したら離婚してお似合いの女性と結婚させてあげるとかも良いな。
 なんてことを思っていると、わたくしが前向きなことを言ったからか、兄がにこにこしながら口を開いた。

「彼女が、お前にぴったりの男性がいると言っていてな。とても優しくて、お前が心配するようなタイプじゃないとのことだ」

 兄嫁の紹介なら断れない。おそらくは、そこそこの年齢だろう。めっさ嫌だなーって思ってため息をつく。

「俺の知り合いは、気のおけない連中だが、妹をやるにはひっじょーーーーーに心もとない。絶対に反対だ。何が何でも、あいつらにお前はやらん。もちろん、そんじょそこらの男など言語道断。嫁に行っても、お前は俺の妹だからな。何かあったら、いや、毎週、いいや、最低でも2日に一度は帰っておいで」

 兄の言葉に、わたくしはこめかみを押さえた。これでは、義姉がわたくしを、嫌いではないにしいても煙たがるのも当たり前である。

「……嫁ぐ意味がないじゃないですか。そんなこと言ってるようじゃ、義姉さまが不安がるのも無理はないわ。わたくしだって、重症のシスコン夫など嫌だもの」
「俺はシスコンじゃないぞ。ただ、小さなお前を守ると、天国の両親に誓ったんだ。だからだな」
「はいはい、そうでしたね。とりあえず、義姉様からの縁談のお話を待てばいいのですね?」

 わたくしの結婚の話はこのあたりで一旦切った。それからの時間は、兄妹で協力して築き上げた事業の進捗や問題点などを話し合う。
 わたくしが手掛ける仕事は、割と多い。事業などほぼわかっていない彼女に、これだけの仕事量をこなすのは厳しいだろう。
 でも、仕事は信頼のおける人物に任せればいいし、義姉には、兄の心とカラダのサポートと、元気でかわいい子どもを、できればたくさん産んでいただいて、夫婦で仲良く育ててくれればいいなと思う。

 そんなこんなで、一月が経過した。久しぶりに義姉に誘われて、街中をショッピングしていると、眼の前からチャラ男がやってきた。

 義姉の知り合いらしく、にやにや笑いながら彼女と会話が弾んでいるので、わたくしは蚊帳の外状態。

 男は、やたらと甘い香水をふりかけていて鼻が曲がりそう。鼻をつまみたいができない。それとなく、違う方を向いて息を吸ったが、強烈すぎて鼻から容赦なく入ってきた。
 義姉との会話が途切れた途端、馴れ馴れしい口調で近づいてきた。あり得ない距離感。
 嫌がっても寄ってきて、「なんだこいつー」と辟易していると、義姉がびっくりするようなことをいい出した。

「ジュールちゃん、そういえば紹介がまだだったわね。あの人から聞いているでしょう? この人が、あなたの夫になる方よ」
「うえ゛ぇ゛゛゛っ?」

 うっそでしょう?

 彼女は、私が嫌うタイプを知っている。眼の前の彼は、そのタイプが出てきたような見た目だ。思わず上腕を見せて

「ほら見て、よーく見て。全身がチキンチキン!」

と、総毛立ったゲリラ鳥肌を、全世界に見せびらかしたいほど。

「あの、お義姉さま、わたくし、いきなりこういうのはちょっと……」
「正式な顔見せよりも、こういう気さくな場面のほうが、お互いをもっとよく知れると思って。素敵なサプライズでしょう? ふふふ、こう見えて、彼はとても誠実で良い人なのよ。あ、先走っちゃったかしら?」

 わたくしは、あまりのことに、小言を言いたくなった。でも、ここで文句や嫌味を言うと、まさに「小姑」。わたくしのせいで兄が破談になる可能性だってある。そんなことはできない。

 ぐっと堪えて挨拶をすると、その男は真横に立って腰に手を回してきた。
 
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