完結 R18  異世界に転移したデリバリースタッフに、ドラゴンの騎士団長からご注文が入りました。

にじくす まさしよ

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 3度目のデリバリーは、大広間で行われることになった。

 初めて折り紙を賄賂で渡した日に、王様たちは、あの時に言っていた通り、世界中に折り紙を発表した。おかげで、貴重な折り紙を見てみたいという獣人が殺到したのだ。

 王族がデリバリーを依頼するのを独占しているという国民、特に貴族たちからの声が大きくなったこともあり、デリバリーで個人にプレゼントするだけでなく、大々的にパフォーマンスをしたほうがいいと考えられた。

 ホカイさんやバイト君×4のアイデアで、金色のキラキラ折り紙で折った立体の星を、システムの光や小規模のお遊びで小さな子が使うような、安い無重力装置を使用することを王様たちに提案した。すると、王様たちは素晴らしいアイデアだと言い、全世界に中継すると決めてしまった。

 地球では、何かを決めるまでも長かったし、決まってから実行に移すまでも長かった。だけど、この世界では、神様が決めたルールに従ってシステムが全てを取り仕切るために、人々の笑顔や平和につながるアイデアに関しては、即断即決即実行が可能なのである。

 結果、半日足らずで観客も来ることができたし、現在は全世界の中継に至っている。

 スモークとオーロラ、煌めく折り紙の星々を、大広間で直接見に来ているのは20人ほど。全員、女性と複数人の夫たちのハレムを形成している。
 今回は、王妃様も自分のハレムの夫たちと一緒だ。どの人もイケメンでモデルのように素敵で、思わず目を奪われる。

「キタ、このようにたくさんの折り紙、体は大丈夫なのか?」
「ペケさん、何度も言ってますけど、折り紙は軽作業なんですよ。確かに、神経を使いますけど。大丈夫ですってば」

 内心、ペケさんには近くに寄って欲しくない。だけど、今日は大勢いるし世界中が固唾を飲んで見守っている。トラブルが起きては大変だ。怖い人ペケさんではあるが、世界を救った英雄という肩書を持つ人が味方でいてくれるというのは頼もしい。


「おおお、ちちうえ、ははうえ、なんと、おりがみのほしがいっぱいじゃ」
「本当に……なんとも幻想的な」
「わたくし、感動で涙が……」

 王族だけでなく、この瞬間に立ち会っている貴族や騎士、使用人たちまで涙を流し始めた。彼らからも、惜しみない歓声と拍手がおこる。

(簡単な折り紙なんだけどなあ……これがとんでもない価値になるんだから、異世界ってすごいわ)

 短い期間でどえらい騒ぎになったもんだと、今のバズりようにびっくりする。どちらかというと、こっちの世界のアレコレのほうが、私からしたらものすごいことなのに。

 広間では、私に近づこうとする獣人たちがあとを絶たなかった。でも、全員を相手にするのは骨が折れる。面倒くさいし、いやだなって思っていると、ペケさんがにらみを利かしてくれたおかげで、軽い挨拶くらいですんだのはありがたかった。

 さて、折り紙パフォーマンスも終わったことだし帰ろうとした時、王妃様から呼び止められた。

「キタ、あなた夫がまだひとりなのよね?」

 そんなもの、システムによって簡単に調べられる。しかも、私が公言しているので周知の事実だから、何をいまさらと首を傾げた。

「あのね、ふたりにとっては、わたくしの提案はお節介だとはわかってるのよ。あなたたちは、神様が選んだツガイだから。でも、そろそろいいんじゃないかしら? ゆっくり愛を深めようとしているのかもしれないけれど、あまりにもじれったくて」
「え?」

 この世界では、夫が複数人いるのは当たり前のことだ。ただ、ホカイさんという第一の夫がいるし、私は異世界から来たということで二番目以降は持たなくていいというのは、神様お墨付きの暗黙の了解でもある。

(なんだろ? 王妃さまは、これから決まった相手と結婚するのがあまりにも遅いみたいなニュアンスで言ってない? 私の翻訳システムがおかしいのかな?)

「それでね、陛下や夫たちが、今まで進展しないのはお邪魔虫がいたからじゃないかって。だから、これからふたりっきりで話し合ってみて。ね?」

 ますます、誰かと私のことを言っているように聞こえる。でも、一体、誰の事だろうか。しかも、「あとは若い人ふたりっきりで、おほほほ」なんて、昭和のお見合い好きなおばちゃんのようなセリフまで出た。

「あなたもあなたよ。全く、普段は即断即決なのに、彼女ツガイのことになるとどうしてそんなにもシャイになるのよ。デリバリーを利用してキタに会おうとするなんて、まどろっこしいを通り越して情けないわよ」
「義姉上……私としても、今すぐにツガイになりたいとは思っている。キタも、私を求めていると言ってくれた。ただ、キタはこちらに私と巡り合うために来てくれたばかりですし、タイミングが悪かったせいで別のオスが夫になっているので、もう少し落ち着いてからでも良いと思い直したと」

(んん? どうして、この流れでペケさんが乱入してくるの? は? ちょっと待って、ツガイとか、巡り合うためにきてくれたとか言ってなかった? なんで? この恐ろしい人を、私も求めてるなんて言った覚えなんてないわ。まさか、まさか、よね?)

 どうしてこんなことになったのだろうか。とうとう翻訳システムがエラーを起こしたようだ。チップが埋め込まれている場所を、ぽんぽん指先で叩いてみた。
 システムを再起動させて、エラーを自己修復を試みる。作業は完璧に終わった。だけど、ふたりの会話は、まるで私とペケさんが、この世界でいうとろこの夫婦、ツガイになるべき存在であると言っているように聞こえてしまう。

「とにかく、とっくに準備はしているから、今からふたりで庭園に行きなさい」
「ははうえ、キタとおじうえがにわにいくなら、予もいくぞー」
「これ、今からはふたりっきりにしなくてはいけないの。そうすれば、いつだって彼女と遊べるようになるから今は我慢なさい」
「そうだぞ、王子。さっき特別にもらったツバメの折り紙を、この広場で飛ばして皆に見せてあげなさい」
「はーい」

 情報過多すぎる。何からどうツッコめばいいのか。ただ、今からペケさんとお見合いのようだ。いや、とっくに始まっていて、結婚秒読みクラウチングスタートの状態のようだ。あとは、GOサインのピストルのサウンドを待つばかり。

(えええ? よりにもよって、この人と? やだやだやだー。ただでさえ、男はもうこりごりなのに。しかも、相手はペケさんなのよ? でも、王族の勧める結婚なんて断れないじゃん。どうしよう。これって、ホカイさんとしたみたいに、納得の上での偽装結婚とかではないのよね? 誰か、嘘だと言ってー)

 完全に現実逃避したくなった。いっそ、このままここから逃げてやろうかとまで思う。でも、強制のお見合いをボイコットなんてしたら、私自身のことだけじゃなくて、ホカイさんやバイト君たちにも迷惑がかかってしまうだろう。

 どうやって断るかを真剣に考えていると、うっとり私を見つめているペケさんに連れられて、色とりどりの薔薇の花が咲き乱れる庭にやってきていたのだった。

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