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ホカイ視点 俺が欲しかったのはプロの配達人。なのに、どうしてこんなにも心が乱れるんだ
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チップで彼女を追う。すると、無事に王宮に着いたようだ。だが、なぜか彼女の位置を示す点滅が移動しない。
「おかしいな……」
貴族や勤めている人物以外は、彼女のいる門から入る。先日まで、詳細不明の大規模なシステムエラーがあり、騎士団長が、未曾有の危機を救ってくれたというのは世界各国に取り上げられたのも記憶に新しい。
その様子は世界中に中継されており、世界最強の種であるドラゴンの、何者も寄せ付けない凄まじい力を見て興奮したものだ。
「バグは修正されたはずなんだが」
彼女がこの世界に来てから数ヶ月しか経過していない。一生この世界で過ごすこともあるので、意欲的にこの世界の情報を取り入れて頑張っているとはいえ、細かなところは行き届いていない。
普段は、俺やバイトたちのフォローもありなんとかなっていたが、今は単身、しかも王宮という場所だ。
「……? 手違いでもあったとか? もしかして、言葉が通じないとか? そんなはずは……」
もともとの言語のほうが良いだろうと、俺と二人きりの時は地球の言語システムを使っている。その他の場所では、この世界の言語に彼女が合わせている状況だ。
体内のチップがバグを起こさない限り、この世界の言語を操っているし、彼女に限って、下っ端の騎士や使用人に失礼な態度を取るとは考えにくい。
ならば、相手の方に問題があると考えていいだろう。
万が一にも、彼女のチップがバグっていれば、俺という夫がいる情報を相手に知らしめることができない。そうなれば、フリーのオスたちが彼女に襲いかかるだろう。単なるアプローチだけでなく、無理やりさらうオスだっている。
バグがなければ、そんなことはないはずだ。
「キタ……、無事でいてください!」
だが、不安がどうしても拭えず、彼女のいる場所に向かう。ツバメのほうが速いので本性に変身した。
「ああ、無事のようで良かった。それにしても、あれは……」
やはりトラブルがあったようだ。おそらくは下っ端の門番だろうオスが、大柄な金髪の男に追い払われていた。
彼のことは知っている。知らないものなどいないだろう。
「ジスペケ・トキオ……そうか、とうとう出会ったんですね」
神様から伝えられていた、彼女のもうひとりの夫候補。しかも、この国の王弟で、世界の英雄である騎士団長でもある。
彼がいるのなら、彼女の身の安全は確約されたも同然だ。
ズキン
眼の前で、ジスペケがキタを横抱きにした。その瞬間、胸の中がかき回されたような痛みを感じる。
「……キタ」
初対面のはずなのに、彼らは頬を染めて笑みを浮かべて見つめ合っていた。胸をかきむしりたくなるような、じりじりした気持ちの悪さが体中を這い回る。
「キタ、彼のことが気に入ったのですね。……神様が決めた相手なのです。俺がどうこういう筋合いはない。そもそも、俺とキタは、店主とスタッフなのですから」
そう、俺はメスなんてこりごりだ。だから、キタに対して、なんの感情も持っていない。
かわいくて、勤勉で一生懸命で。この世界のメスとは大違いで好ましいくらいだ。それだけのはず。
「……」
ふたりは何かを言い合っていたかと思うと、キタがジスペケにしがみついた。しかも、体をしっかり寄せるように。
ズキン、ズキン
なぜかわからないが、胸が痛む。頭がガンガンして、手足が冷えて鉛のように重い。
「おかしい。体調が悪くなったようだな……早く帰って、セルフメディケーションシステムで体を治さないと」
キタの世界には、体と心を治療する医者という存在がいると聞いた。だが、この世界では、そんなものはシステムがすべてを行う。
体を解析し、オートで処方された薬が即時に届けられ、それを飲めば良い。
外科的治療の必要があれば、24時間オープンの、どこにでもある医療施設に行ってベッドに横になれば、眠っている間に全てが終わっているのだから。しかも、術後の痛みや、切られた痕すらなく、本当に外科的治療をされたのかと思うほど、体のダメージが0なのである。
体が重だるく、心がざわめくだけだから、外科的な治療は必要がなさそうだ。
「帰るか」
ああなった以上、キタは彼が無事に送り届けてくれるだろう。いや、そのままツガイになるために、彼の巣で長い蜜月を過ごすかもしれない。
キタには、ここで待つと言ったものの、お邪魔虫はいないほうが良いだろう。
「……そういえば、試作品を作っている途中だった」
誰に説明しているわけでもなく、キタには先に帰る旨をメッセージで送り、私は巣に戻ったのである。
「おかしいな……」
貴族や勤めている人物以外は、彼女のいる門から入る。先日まで、詳細不明の大規模なシステムエラーがあり、騎士団長が、未曾有の危機を救ってくれたというのは世界各国に取り上げられたのも記憶に新しい。
その様子は世界中に中継されており、世界最強の種であるドラゴンの、何者も寄せ付けない凄まじい力を見て興奮したものだ。
「バグは修正されたはずなんだが」
彼女がこの世界に来てから数ヶ月しか経過していない。一生この世界で過ごすこともあるので、意欲的にこの世界の情報を取り入れて頑張っているとはいえ、細かなところは行き届いていない。
普段は、俺やバイトたちのフォローもありなんとかなっていたが、今は単身、しかも王宮という場所だ。
「……? 手違いでもあったとか? もしかして、言葉が通じないとか? そんなはずは……」
もともとの言語のほうが良いだろうと、俺と二人きりの時は地球の言語システムを使っている。その他の場所では、この世界の言語に彼女が合わせている状況だ。
体内のチップがバグを起こさない限り、この世界の言語を操っているし、彼女に限って、下っ端の騎士や使用人に失礼な態度を取るとは考えにくい。
ならば、相手の方に問題があると考えていいだろう。
万が一にも、彼女のチップがバグっていれば、俺という夫がいる情報を相手に知らしめることができない。そうなれば、フリーのオスたちが彼女に襲いかかるだろう。単なるアプローチだけでなく、無理やりさらうオスだっている。
バグがなければ、そんなことはないはずだ。
「キタ……、無事でいてください!」
だが、不安がどうしても拭えず、彼女のいる場所に向かう。ツバメのほうが速いので本性に変身した。
「ああ、無事のようで良かった。それにしても、あれは……」
やはりトラブルがあったようだ。おそらくは下っ端の門番だろうオスが、大柄な金髪の男に追い払われていた。
彼のことは知っている。知らないものなどいないだろう。
「ジスペケ・トキオ……そうか、とうとう出会ったんですね」
神様から伝えられていた、彼女のもうひとりの夫候補。しかも、この国の王弟で、世界の英雄である騎士団長でもある。
彼がいるのなら、彼女の身の安全は確約されたも同然だ。
ズキン
眼の前で、ジスペケがキタを横抱きにした。その瞬間、胸の中がかき回されたような痛みを感じる。
「……キタ」
初対面のはずなのに、彼らは頬を染めて笑みを浮かべて見つめ合っていた。胸をかきむしりたくなるような、じりじりした気持ちの悪さが体中を這い回る。
「キタ、彼のことが気に入ったのですね。……神様が決めた相手なのです。俺がどうこういう筋合いはない。そもそも、俺とキタは、店主とスタッフなのですから」
そう、俺はメスなんてこりごりだ。だから、キタに対して、なんの感情も持っていない。
かわいくて、勤勉で一生懸命で。この世界のメスとは大違いで好ましいくらいだ。それだけのはず。
「……」
ふたりは何かを言い合っていたかと思うと、キタがジスペケにしがみついた。しかも、体をしっかり寄せるように。
ズキン、ズキン
なぜかわからないが、胸が痛む。頭がガンガンして、手足が冷えて鉛のように重い。
「おかしい。体調が悪くなったようだな……早く帰って、セルフメディケーションシステムで体を治さないと」
キタの世界には、体と心を治療する医者という存在がいると聞いた。だが、この世界では、そんなものはシステムがすべてを行う。
体を解析し、オートで処方された薬が即時に届けられ、それを飲めば良い。
外科的治療の必要があれば、24時間オープンの、どこにでもある医療施設に行ってベッドに横になれば、眠っている間に全てが終わっているのだから。しかも、術後の痛みや、切られた痕すらなく、本当に外科的治療をされたのかと思うほど、体のダメージが0なのである。
体が重だるく、心がざわめくだけだから、外科的な治療は必要がなさそうだ。
「帰るか」
ああなった以上、キタは彼が無事に送り届けてくれるだろう。いや、そのままツガイになるために、彼の巣で長い蜜月を過ごすかもしれない。
キタには、ここで待つと言ったものの、お邪魔虫はいないほうが良いだろう。
「……そういえば、試作品を作っている途中だった」
誰に説明しているわけでもなく、キタには先に帰る旨をメッセージで送り、私は巣に戻ったのである。
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