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やらかしちまったバイトリーダーの末路

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 やってしまった。

 やらかさないように心に誓ったはずなのに、いきなり門番の騎士だけでなく、その上司に食って掛かってしまった。

(騎士団長って言ってた。騎士団長って、団長ってことだからトップよね。つまり雲の上の人)

 豪華絢爛なイケメンがやってきたかと思うと、門番を処刑しようとしたり腕の骨をポッキリするとか言った。聞き間違いではない。確かに、言った。この耳で聞いた。

(やっぱり、絶対王政ってやつだ。暴君だ。ホカイさんは大丈夫って言ってたけど、もう終わりよぉ。地球でも死にかかって、今もまさに絶体絶命ってやつじゃん! こんなことなら、異世界ライフをもっと楽しんでおけば良かったなぁ。あと、経験人数が元夫ひとりとか、人生損してるような気がするー!)

 こうなってみると、後悔ばかりの人生だった。ただ、誰も見たことのない異世界にこれたし、ホカイさんっていう素晴らしい人と出会えた。だからって、人生に大大大満足した大往生ができるものか。

 このまま、腕をポッキリされてギロチンにかけられるのかと足が震える。今の私の姿は、見事なOrz。こうなれば、誠心誠意、謝罪するしかない。額を地面にこすり付けた。

(地面と言っても、ここは異世界。地球とは違って、皮膚が傷つかない上部なのに柔らかい素材だし小石一つ落ちていないから、ごりごりおでこをつけても、痛くもなんともないわ)

「ほんっとうに、申し訳ございません……!」

(ホカイさん、心配してるだろうな。ごめんなさい、良くしてもらったけど、私の人生はここでジエンドのようです……いや、ギリギリまで逃げちゃ、いや、諦めちゃダメだ)

 相手がカスハラしてきたとはいえ、スタッフとしてあるまじき言動だった。取り敢えず謝罪だ。きっと激おこにちがいない。恐ろしくて相手を見れなかった。

「なぜ謝るんだ? 悪いのはあのオスだ。あなたは、職務を全うしただけだろう? さ、立ち上がって」
「ああ、騎士団長様にあんなことを言ってしまった私を許してくださるのですか? はぁ、とっても優しいんですね。あの、ご理解いただいてありがとうございます」

(お? なんか思っていたのと違うぞ。金持ち喧嘩せずっていうし、王様の弟様はやや暴君っぽいけど話が分かるイケメンのようだ。ラッキークッキーヤシ〇アキー。だけど、暴力男なのは間違いない。これからの一文一句は、やらかさないように注意しないと)

 相手が、大きな手を差し出してきた。4本の指のそれは、私の手をすっぽり覆う。

(ホカイさんのよりおっきいわねぇ。騎士団長は、剣とか持つからかな? 指紋までがっちりカチカチで、撫でられたらヒリヒリしそう)

 身の安全が保障されたので、さっきまでの恐ろしさが9割くらいは消失した。なんだかんだ言って、平和ボケしていた日本人なのだ。なんとなく、安全じゃないかなーなんて心の底では楽観視していた。処刑とかないないって。だからか、本題以外のことを考える余裕まで出てきた。

「あ、あれ?」

 だけど、ジスペケさんの恐ろしい言葉や迫力は、自覚した以上に怖かったみたい。腰が抜けてしまって立ち上がれなかった。

「立てないのか? なら」

 すぅっと、まるで1円玉かなにかを持つかのように、軽々と抱き上げられた。鍛え上げられた逞しい腕が、私を守るようだ。

「あ、あの、ありがとうございます」

 植え込まれたチップによって、彼の名前がわかった。そして、公開されている情報も。

(ふむふむ、このおじさんはジスペケって言うのね。ん? トキオ? トキオってこの国の名前よね? ……ぎゃー! 騎士のトップってだけじゃなくて、王様のおとーとー? なんてこったい!)

 そりゃもうびっくりした。心臓が口どころか目ん玉から出そうなほどだ。だって、王様の弟だよ。キングのブラザー。ミシンでもプリンターでもない本物のロイヤルブラザー。

 心臓がばくばくする。マジでガチで、ちょっとでもやらかしちゃダメなやつだった。

(ひえええ、怖い、怖すぎる。ホカイさーん、もう帰りたいよー。私の首、つながってるよね。実は、もうとっくに処刑されたあとってことはないよね?)

 何はともあれ、謝罪と感謝の意を、これでもかというくらい述べるんだ。そして、相手を褒めておだてまくって、この場をやり過ごすしかない。

「あの、何から何までありがとうございます。ご注文をお受けしてデリバリーに来させていただいたのに、みっともない姿をお見せしてしまって。お恥ずかしい限りです」

 ロイヤル向けの言葉遣いなんか知らない。「わたくし」とか、「おほほほー、よくってよ」とでも言うべきか。取り敢えずお礼を言っておこうと思い顔をあげた。

(わわっ、近い。はあ、それにしても、すごい迫力イケメンだ)

 考え事に夢中だったせいで、こんなにも顔が近いなんて気が付かなかった。バチっと至近距離で視線が合う。すると、彼は私をじぃっと見つめて、とても綺麗に微笑んだ。銀幕のスターっていうのかな。少し古いタイプのイケメン。昭和か平成に流行した大物俳優みたい。

「いや、こちらこそとんだ失礼を。私としても、ああいう騎士に困っていたところなんだ。どこか、痛む場所はないか?」
「いえ、騎士団長様が、すぐに助けてくださったのでどこもなんともありません。あの、もう歩けそうですから、あの、降ろしていただいて……」
「そ、そうか? こんな細い足では、歩けないだろう? 部下の責任は、私がとるのが筋だし、このままでいさせて欲しい。それに、私とあなたの仲だ。遠慮などしないでくれ」

(はて、この人と私の仲とは?)

 彼の白い頬が、うっすら桃色になっている。気のせいかもしれないけれど、私をうっとり見ているような気がした。気のせいだろうけど。

「あの、私、配達の途中で……だから……」
「ああ、わかってる。陛下たちも、あなたに会いたがっているからな。これからのこともあるし。少し急いでも?」
「何から何までありがとうございます。では、お願いしていいですか?」
「ああ、勿論。しっかり捕まっていてくれ」
「はい!」

 正直、お届け先の細かな場所はわからない。オートシステムによって足が勝手に動かされるよりは、このままスイーツごと運んでくれるほうがありがたい。

 お言葉に甘えて、ジスペケさんの鍛えられたぶっとい首にしがみついたのだった。


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