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ジスペケ視点 私のツガイは、天使で女神でセイレーンでワルキューレな完璧な存在
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門番と揉めている女性を見た瞬間、胸が苦しいほど高鳴った。こんな風に、感情が揺さぶられるのは初めてだ。
(彼女がツガイだ。間違いない)
チップで情報を得るまでもない。それにしても、門番のあの態度はどういうわけだ。
(私のツガイに、なんたる無礼な)
瞬時に怒りが湧く。そもそも、下働き専用の裏門とはいえ、あのような態度は許されるはずもない。
(あいつは、縁故採用の……)
門番は、自信の実力でその座についたわけではない。親や兄弟、母親のハレムにいる夫たちのコネを使えば、ああいう勘違いしたオスでもこの城で採用される。とはいえ、役職に就けるはずもなく、そういうオスは、裏門など目立たない場所に配属されるのだ。
「まだ楯突くのか? あ、夫がまだいないのか? そうかそうか、普通夫たちがいれば、働くなど許すはずないもんなぁ。しょうがない、俺がお前の夫になってやるから感謝しろ」
「冗談じゃないわ。私には、イケメンで金持ちで優しい夫がいるんですぅ。誰が、あんたみたいな外見も内面も経済力も下の下の下の下の男なんて相手にするもんですか」
「なんだと!」
「なによ。怒鳴ったって怖いもんですか。すぐ怒鳴る人は、口で説明できないバカだって自己紹介しているようなものよ。あのね、これ以上なんだかんだでここを通さないっていうのなら、あんたのほうがヤバいんだからね」
「ふん、お前こそ立場をわきまえろ。俺の祖父は、この国の老人会の副会長なんだぞ」
「あはは、老人会ってなによ。自治会のサークルかなにかかしら? ああ、それとも街の美化や子どもたちの安全パトロールでもしてくれてるのかしら? お疲れ様でございますね。あ、ってことは、あんたってばやっぱりコネ採用のボンクラってことじゃん。そもそも、偉いのはそのおじいちゃまであって、あんたじゃないでしょーが。もう一回オムツからやりなおしたらどう?」
「言わせておけば……」
なんと、私のツガイは、さわれば折れそうなほどたおやかで華奢に見えるのに、勇気のある女性だった。一応、あんなのでも騎士の端くれ。
(相手にぐうの字も言わせないとは。私のツガイは賢く芯の強い女性なのか。素晴らしい)
内心怖いだろうに、くじけずくってかかるその勇姿に見とれてしまった。
(毅然とした美しさもあるなんて。ワルキューレ、あなたがいれば、恐れるものなどない……)
ジスペケは、無謀とも言えるが、騎士にひるまない彼女の姿に感心していた。だが、油断はまったくしていない。
騎士が激昂し、彼女に手をあげようと一ミリ動いたのを見逃さなかった。
「なんの騒ぎだ!」
私は、唯一無二のツガイに暴言を吐き、さらに暴力まで振るおうとしたその騎士の腕を捻り上げた。
「いたたたたた! 騎士団長様、違います、違うんです! この女が不法侵入をしようとしたので詰問していたんです。そうしたら、いきなり俺を罵倒しはじめ、この国を侮辱したのです」
「はぁ? 王様直々のご注文をお届けに来ただけなのに、確認もせずいきなり自販機でジュース買ってこいとかぬかしたのはそっちでしょうが! 他にも、色々失礼なことを怒鳴りつけて。ありえないんですけどー?」
私に腕を取られながらも、身の潔白を叫ぶ騎士の姿のなんとみっともないことか。由緒正しいトキオ王国の騎士と名乗るなど、恥というものを知らないらしい。
「お前、宰相の遠縁の知り合いの近所のオスだな。入団試験ギリギリだった新卒とはお前のことだろう。この方は、彼女が仰るとおり、陛下直々にお声をかけて来ていただいた貴賓だ。今この時より出仕するには及ばぬ。今すぐ家に帰って、沙汰を待つがいい」
「そんな。俺は聞いてなかったんです。ここをクビになったら、どこのメスのハレムにも入れないじゃないですか。手違いなんだから、辞めません」
「手違いだろうがなんだろうが、簡単にできる確認もせず来客を罵倒して暴力を振るおうとするオスなど、我が騎士団にはいらん。3つ数える。その間に、まだ私の視界にその無様な姿を見せようというのなら、問答無用で……」
私は、王位継承権は放棄している。とはいえ、かなりの権限を与えられていた。職権乱用はしないようにしていたが、その中でも、即時処刑する権限をこのオスに使おうとした時、美しい歌のような声が私に向かって放たれた。
「あなた、こいつの上司? 社員教育はどうなってんのよ。ちゃんとしつけといてよね!」
なんと、私のツガイは、全てのオスを魅了する伝説のセイレーンの末裔か天使だったようだ。
「このオスが無礼なことをした。すまない。こいつは処刑するから許してもらえるだろうか?」
「しょ、しょしょ、処刑? 団長、俺は凶悪犯罪者じゃないんですよ! いくらなんでもひどいです!」
「この程度でいきなり処刑って、どんだけー。どんな暴君よ。あのね、ミスした人を処分するのは簡単なの。この人にだって人生ってものがあるんだから、二度とこんな風にしないよう、接客をしっかりしつけてもらえたらそれでいいんだけど」
「そうか? せめて、腕の一本くらいへし折っても……」
「ひいいいい。お許しを。申し訳ございません、もうしわけございません!」
「いやいや、あんた何言ってるのよ。せめて、私の眼の前ではやめてよね。暴力反対!」
門番は目と鼻と口、そして股間などありとあらゆる体液を垂れ流しながら、命乞いを続けている。だが、このまま許すわけにはいかない。
栄誉ある騎士団に泥を塗ったオスでもあるのだ。しかも、私にだけ謝罪して、私の天使♡に謝罪はしてない。
しかし、それにしても私の妻♡は、なんと心が清らかで優しいのだろう。その慈悲深さは、神様よりも大きく深いようだ。
(ああ、ツガイがこの女性で良かった。愛してる……! 一生離さないぞ)
今すぐ抱きしめて、思いの丈を唇にのせて交わりたい。だが、ここは外だ。兄たちも彼女を待っている。
(取り敢えず、このオスは万死に値するが、ツガイの望み通りにしなくては)
「あなたがそう言うのなら……」
私は渋々オスを離してやった。そいつは、門番の仕事を放棄して即時に逃げていく。
(チップがあるかぎり、この世界のどこにも逃げ場はないからな。あいつのことは後できっちり〆よう)
そんなことよりも、ようやく会えたのだ。私は、うっとりと絶世の美女を見つめた。
(もう一度、私に声をかけてくれ)
そんな風に願いながら、彼女に近づく。すると、彼女がガクンと膝を落とした。
「あああああ、やっちゃた。やらかしたー。うう、あんな売り言葉を買うなんて。ああ、王様の耳に入ったら終わりよぉ……ホカイさん、ごめんなさーい」
そして、あろうことか、私ではないオスの名前を叫んだのである。
(彼女がツガイだ。間違いない)
チップで情報を得るまでもない。それにしても、門番のあの態度はどういうわけだ。
(私のツガイに、なんたる無礼な)
瞬時に怒りが湧く。そもそも、下働き専用の裏門とはいえ、あのような態度は許されるはずもない。
(あいつは、縁故採用の……)
門番は、自信の実力でその座についたわけではない。親や兄弟、母親のハレムにいる夫たちのコネを使えば、ああいう勘違いしたオスでもこの城で採用される。とはいえ、役職に就けるはずもなく、そういうオスは、裏門など目立たない場所に配属されるのだ。
「まだ楯突くのか? あ、夫がまだいないのか? そうかそうか、普通夫たちがいれば、働くなど許すはずないもんなぁ。しょうがない、俺がお前の夫になってやるから感謝しろ」
「冗談じゃないわ。私には、イケメンで金持ちで優しい夫がいるんですぅ。誰が、あんたみたいな外見も内面も経済力も下の下の下の下の男なんて相手にするもんですか」
「なんだと!」
「なによ。怒鳴ったって怖いもんですか。すぐ怒鳴る人は、口で説明できないバカだって自己紹介しているようなものよ。あのね、これ以上なんだかんだでここを通さないっていうのなら、あんたのほうがヤバいんだからね」
「ふん、お前こそ立場をわきまえろ。俺の祖父は、この国の老人会の副会長なんだぞ」
「あはは、老人会ってなによ。自治会のサークルかなにかかしら? ああ、それとも街の美化や子どもたちの安全パトロールでもしてくれてるのかしら? お疲れ様でございますね。あ、ってことは、あんたってばやっぱりコネ採用のボンクラってことじゃん。そもそも、偉いのはそのおじいちゃまであって、あんたじゃないでしょーが。もう一回オムツからやりなおしたらどう?」
「言わせておけば……」
なんと、私のツガイは、さわれば折れそうなほどたおやかで華奢に見えるのに、勇気のある女性だった。一応、あんなのでも騎士の端くれ。
(相手にぐうの字も言わせないとは。私のツガイは賢く芯の強い女性なのか。素晴らしい)
内心怖いだろうに、くじけずくってかかるその勇姿に見とれてしまった。
(毅然とした美しさもあるなんて。ワルキューレ、あなたがいれば、恐れるものなどない……)
ジスペケは、無謀とも言えるが、騎士にひるまない彼女の姿に感心していた。だが、油断はまったくしていない。
騎士が激昂し、彼女に手をあげようと一ミリ動いたのを見逃さなかった。
「なんの騒ぎだ!」
私は、唯一無二のツガイに暴言を吐き、さらに暴力まで振るおうとしたその騎士の腕を捻り上げた。
「いたたたたた! 騎士団長様、違います、違うんです! この女が不法侵入をしようとしたので詰問していたんです。そうしたら、いきなり俺を罵倒しはじめ、この国を侮辱したのです」
「はぁ? 王様直々のご注文をお届けに来ただけなのに、確認もせずいきなり自販機でジュース買ってこいとかぬかしたのはそっちでしょうが! 他にも、色々失礼なことを怒鳴りつけて。ありえないんですけどー?」
私に腕を取られながらも、身の潔白を叫ぶ騎士の姿のなんとみっともないことか。由緒正しいトキオ王国の騎士と名乗るなど、恥というものを知らないらしい。
「お前、宰相の遠縁の知り合いの近所のオスだな。入団試験ギリギリだった新卒とはお前のことだろう。この方は、彼女が仰るとおり、陛下直々にお声をかけて来ていただいた貴賓だ。今この時より出仕するには及ばぬ。今すぐ家に帰って、沙汰を待つがいい」
「そんな。俺は聞いてなかったんです。ここをクビになったら、どこのメスのハレムにも入れないじゃないですか。手違いなんだから、辞めません」
「手違いだろうがなんだろうが、簡単にできる確認もせず来客を罵倒して暴力を振るおうとするオスなど、我が騎士団にはいらん。3つ数える。その間に、まだ私の視界にその無様な姿を見せようというのなら、問答無用で……」
私は、王位継承権は放棄している。とはいえ、かなりの権限を与えられていた。職権乱用はしないようにしていたが、その中でも、即時処刑する権限をこのオスに使おうとした時、美しい歌のような声が私に向かって放たれた。
「あなた、こいつの上司? 社員教育はどうなってんのよ。ちゃんとしつけといてよね!」
なんと、私のツガイは、全てのオスを魅了する伝説のセイレーンの末裔か天使だったようだ。
「このオスが無礼なことをした。すまない。こいつは処刑するから許してもらえるだろうか?」
「しょ、しょしょ、処刑? 団長、俺は凶悪犯罪者じゃないんですよ! いくらなんでもひどいです!」
「この程度でいきなり処刑って、どんだけー。どんな暴君よ。あのね、ミスした人を処分するのは簡単なの。この人にだって人生ってものがあるんだから、二度とこんな風にしないよう、接客をしっかりしつけてもらえたらそれでいいんだけど」
「そうか? せめて、腕の一本くらいへし折っても……」
「ひいいいい。お許しを。申し訳ございません、もうしわけございません!」
「いやいや、あんた何言ってるのよ。せめて、私の眼の前ではやめてよね。暴力反対!」
門番は目と鼻と口、そして股間などありとあらゆる体液を垂れ流しながら、命乞いを続けている。だが、このまま許すわけにはいかない。
栄誉ある騎士団に泥を塗ったオスでもあるのだ。しかも、私にだけ謝罪して、私の天使♡に謝罪はしてない。
しかし、それにしても私の妻♡は、なんと心が清らかで優しいのだろう。その慈悲深さは、神様よりも大きく深いようだ。
(ああ、ツガイがこの女性で良かった。愛してる……! 一生離さないぞ)
今すぐ抱きしめて、思いの丈を唇にのせて交わりたい。だが、ここは外だ。兄たちも彼女を待っている。
(取り敢えず、このオスは万死に値するが、ツガイの望み通りにしなくては)
「あなたがそう言うのなら……」
私は渋々オスを離してやった。そいつは、門番の仕事を放棄して即時に逃げていく。
(チップがあるかぎり、この世界のどこにも逃げ場はないからな。あいつのことは後できっちり〆よう)
そんなことよりも、ようやく会えたのだ。私は、うっとりと絶世の美女を見つめた。
(もう一度、私に声をかけてくれ)
そんな風に願いながら、彼女に近づく。すると、彼女がガクンと膝を落とした。
「あああああ、やっちゃた。やらかしたー。うう、あんな売り言葉を買うなんて。ああ、王様の耳に入ったら終わりよぉ……ホカイさん、ごめんなさーい」
そして、あろうことか、私ではないオスの名前を叫んだのである。
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