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嘘のようですが、今から王族にデリバリーします

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 王様は、巷で流行りのデリバリーをご所望ということなので、ホカイさんが行ってスイーツを王宮で作るということにもならなかった。単身、私が直接配達をするようにということなので、ホカイさんは近くまでしか行けないと、私と同じくらい心配していた。

「キタ、いいかい? もしもオスに言い寄られたら、お、俺、俺という夫がいるからと断るんだよ」
「うん。そのための書類上の夫婦だもんね。ないとは思うけど、万が一男の人が近づいてきたら、ホカイさんとラブラブだからって言ってもいいかな?」
「書類上……まだ書類上……。とにかく、ないなんてことは、絶対にないから。キタが、どうしてもそのオスを迎え入れたいって思ったのならいいけど。俺としては、他のやつに、その、邪魔されたくないし」

 ホカイさんは、私が王様たちの前でやらかすという心配じゃなさそうだった。万が一、男性がいいよってきても、結婚とか、マジでもう懲り懲りだし、ホカイさんみたいに双方合意の上での書類だけでいいって言って、保護だけしてくれるかどうかもわからないし。

(ほんっと、ホカイさんっていい人だわー)

 彼は、時々ツバメになって楽しませてくれるくらい、異世界に来た私の心が少しでも落ち込まないように努力してくれている。配達のプロと自負していいのかどうかはわからないけれど、望み通りのスタッフを大切にしてくれるには、行き過ぎているというか。お人好しにも程があるっていう感じ。

「ホカイさんが築き上げた場所には、他の人はいりませんもんね。ただでさえ、私がお邪魔しているし」
「キタは、お邪魔じゃないですよ。俺達の巣ですからね」
「はい、ホカイさんと私の家です。ふふふ」

 私がそう言うと、ホカイさんの顔と耳がまっかっかになった。彼は、照れ屋なのか、私と会話をしていると、しょっちゅう顔が赤くなる。ツバメの時の顔の周りの色とそっくりだ。

 そろそろ、指定の配達時間になる。私は、心配性のお父さんみたいになっているホカイさんに別れを告げた。冗談抜きで、処刑でもされたら、これでお別れかもと思うと足が震える。

「いつも通りにしていたら大丈夫ですからね。ここで待ってるから、行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます……」

 私は、店のドローンもどきと一緒に王宮に向かう。これは、中の下くらいの性能だけど、HOKKAI堂の中では一番いい機種だから、バイトリーダーの私が使わせてもらっている。

 それが変形した、3輪駆動の、ピザとかの配達でよく見るタイプのバイクに乗り込んだ。行き先は、もうセットしているので、私が乗り込むと同時に走り出す。

 ほどなく、王宮の裏門にたどり着いた。お城には、沢山の出入り口があって、来客は、それぞれに応じた指定の門から入らなくてはならない。

 生命体の少ないこの星では、大抵の家では機械が対応するんだけど、王宮ともなれば、獣人たちが沢山働いている。
 あえて生命体を雇うことで国の権勢を示したり、雇用の確保をしているとのことだった。

「何者だ!」
「こんにちは。この度は、我が手ごね小麦粉の美味しいシフォンケーキをご注文いただき、ありがとうございまーす」
「ああ、デリバリースタッフか。どこの兵士が頼んだのかは知らんが、聞いていない者は通せない。帰れ帰れ。あ、ちょうどいい、ちょっとそこの自販機でジュース買ってこい」

 デリバリースタッフを、小間使いかなんかと勘違いしている『俺ってば、かっこよくて強いんだぜ。逆らうと怖いんだぜー』系のアイタタタな野郎はどこにでもいる。速攻カスハラとして、ドローンもどきちゃんに登録してもらった。こいつやその妻は、HOKKAI堂に注文できなくなった。
 ブラック入りしたやつは、大金さえ積めば、何度でも依頼できるけどね。でも、うちの顧客は違約金を払えない人も多いし、下っ端兵士の給料ではそんなお金はないだろう。

「あ、そういうのはやってないんで。それに、きちんと注文をお受けしております。ご確認をお願いしていいですか?」
「なんだと? えらそうに、俺を誰だと思ってる。世界一の軍事力を誇るトキオ王国の騎士だぞ。つまり、俺は王様の代理人。その俺に向かって、なんたる無礼。お前の首など、俺の意思ひとつでどうにでもできるんだぞ。いいから、買ってこい。逆らったからお前の自腹でな。ったく、メスはメスらしく、家で大人しくしておけばいいのに。最近は遊び半分でこういう仕事をお試しでするやつも増えたらしいが、オスの世界にメスがくるのは正直迷惑だ」

「かっちーん。メスは大人しくしてろですって? 夫を待って子育てをしてればいいってことー? なんという時代錯誤……。そういうあんたはなんなのさ。王様の代理人ねぇ。騎士の下っ端で、どこの部署の上司からも要らない要らないってここに押し付けられた厄介者ってあんたでしょ。あのね、私が来たのは、その王様のご指名があったからなの。それこそ、世界中からご支援いただいているんだから、トップデリバリースタッフの私に、あんな舐めた態度を取ったことを知ったら、あんたこそ首が物理的にヤバいっしょ」

 さて、さっさと王様に渡さないと、遅延ペナルティが発生する。この場合、王様の部下による失態だから、ペナルティは勘弁して欲しいところだ。

 ホカイさんが、心を込めて作ったものは、どれほど遠方であっても3時間以内に食べていただくという信念とともに預かったシフォンケーキ。それを、よりふんわりした状態で楽しんでいただきたい。そのタイムリミットまであと30分。準備やらなんやらで、王様たちのお口に入るギリギリの時間だろう。
 
「おのれ。メスだからと優しくしてやればつけあがりやがって」
「王様の兵士さんだから、穏便に済まそうとしてあげていたんだけどね。とにかく、遅れちゃうから通してよ」

 埒が明かないので、いっそ、無理やり王様に会いに行くかと、王様のいそうな場所を見上げた。 

「なんの騒ぎだ!」

 覚悟を決めたとき、ひときわゴージャスな黄金の髪と、煌めく紅玉のような瞳を持つ青年が現れたのだった。
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