完結 R18  異世界に転移したデリバリースタッフに、ドラゴンの騎士団長からご注文が入りました。

にじくす まさしよ

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いきなりバイトリーダーになりました

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 あれから1か月経過した。ホカイさんとは、良好な関係を築けている、と思う。ロボットやAIにも少しずつ慣れた。ただ、勝手に体が誘導されるようなシステムにはまだ慣れない。

 紙は手に入れた。なんと、千代紙だったのだ。無地のものもあれば、模様が入っているものもあったから、そのコーナーだけで1時間以上はいたと思う。
 他にも、A4サイズくらいの真っ白の容姿や、ごわごわだけど美しい和紙や段ボールなんかもあった。ホカイさんが、買ってくれるというのでお言葉に甘えて買ってもらった。

 あとでお値段を知って、以下略。

 配達の人材として雇われたこともあり、店舗のほうも案内してもらった。最初は見学だけで、目がうろうろするほど、何もかもが違う。

 ただ、ホカイさんが手でスイーツを作ることだけは、懐かしさもあってホッとする。しかも、スタイル良し、顔良し、性格良し、経済力良しのスパダリだ。カリスマパティシエだって、これほどの人はいなかった。いうなれば、解散したシュミャッピュの料理コーナーみたいで、飽きない。ずーっと見ていたいななんて思うほど。

 私が厨房を見ていると、ホカイさんはやりにくいかなって思ったのだが、逆にやる気が出て良いと言われた。そして、昔ながらの製法なら、オートが発達していなかった異世界の私のほうが知っていることもあるんじゃないかと、色々質問もされた。

 だから、泡だて器というものがあると教えてみた。泡立ては機械が全部していたみたい。イラストは苦手だけれど、説明しながら書くととても興味深そうにしていた。
 早速特注すると、翌日には届いた。玄関に投げ入れられていたので、箱は半分へしゃげていたけど。それを見て、平然としているホカイさんと、憤慨している私の落差が物凄かった。

 で、肝心の配達に関しては、システムが古すぎて機械の行動を細かく変更するのは難しいとのことだった。それをするだけで、中ランクの国家予算くらいはするらしい。

 現在、生命体として雇われているのは、ダチョウのメンタイ・フクォーカ君(15歳/指は二本)と、フクロウのウドゥーン・キャガワン君(16歳/指は四本)、そして、マンボウのキャニドラク・ナニーワ君(17歳/指は3本)、ラッコのトゥーバン・イセーシュマルク君(14歳/指は五本だが小さくてほぼ爪)だ。

「ぴりーっと明太子くん、だから荷物は両手で持つのよ」
「ぴりーっとって誰だよ。両手で持つなんてめんどくさい。目的地が見えたら、振りかぶって思いっきり投げりゃいいだろ」

「ああ、コシのあるうどんくん、そんな風にぎゅうぎゅう握りしめたら箱ごと中身がつぶれちゃうから」
「しっかり持っとかねぇと、落っことしちまうだろ」

「とれとれぴちぴちカニ料理くん……は、死なないように、そーっと送り届けてね。びっくりするだけで危ないから」
「ぴゃっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。僕、ぼく……、ああ、お花畑が見えるよ……」
「きゃー、ホカイさん、きゅーきゅーしゃー!」

「鳥羽水族館くんは、お願いだから荷物を石でガンガンガンガン叩かないでね」
「だって、いい大きさだから。叩かないと!」

 こんな風に、全員配達以前の問題が山のようにあった。でも、お手本を見せると、素直にしてくれる部分もある。ただ、明太子くんだけは、散歩歩いたらせっかく教えたことを忘れてしまうので困った。AIシステムにも、彼のフォローは限界があるようだった。

「はい、仕事の始まりは、元気な笑顔と挨拶から。おはようございます!」
「はよーっす」
「おはようございます!」
「おはようございます……」
「ざーっす!」

「お待たせいたしました」
「あれ、荷物はどこに置いたっけかな」
「注文の品だぜ、受け取りなっ!」
「あの、これ……し、失礼しましたああああああ! ……ふぅ~」
「待たせたな、この野郎」

「〇〇様でよろしかったでしょうか? ご注文が間違いないか、ご確認くださいませ」

 こんな風に、毎日訓練を繰り返していると、彼らが不貞腐れているのがわかる。今まであんな感じでよかったのだ。いきなりやってきた女にあれこれ指図されるのは嫌なのだろう。他ではこんなことしてないのにって。

「なあ、キタねえさん。なんでそんなこと言うんだよ。給料は同じじゃん。だったら楽なほうがいいんだけど」
「そうだぜ。大体、こんな仕事、ある程度の金さえ貯まればやめるし」
「ぼ、ぼく……ふぅ~」
「俺は叩ければなんでもいい」

 彼らの言うのももっともだ。私だって、時間さえすぎれば同じ給料を貰えるのなら、さぼった方が楽だし。動けば動くほど、余計な仕事が増えるし叱られることも増える。だからといって、ホカイさんが心を込めて作ったスイーツが、彼らによって無残な姿になるのは悲しかった。そして、スイーツを楽しみにしている人たちの落胆する表情が目に浮かぶと胸が苦しくなる。

「あのね、皆、好きな人いる?」
「いる」
「一応な」
「ぼくは、おとなりの。ああ、熱が上がって意識が……ふぅ~」
「お気に入りの石が恋人だ」

 四人とも、大切な人がいるようだ。だったら話はわかりやすいかも。

「その相手には喜んでもらいたいでしょ? 悲しんだり壊れたりしてほしくないよね?」

「当たり前。メスを喜ばせるのが俺たちオスの仕事なんだぜ」
「その通り」
「そうですぅ」
「勿論だ」

 私は、スイーツを頼んだ人が、その相手だったらどうするのかと聞いた。すると、全員が傷ひとつなく持っていくと胸を張って答えてくれた。

「お届け先の人たちはね、あなたたちの好きな人のように、皆、誰かの大切な人なの。だから、自分にとって家族や好きな人だと思って配達するのよ。そうすれば、笑顔が増えるし、優しくて素敵なあなたたちに、好きな人だってメロメロになるわよ。モテモテよ」

 そう言うと、全員びっくりしたように目を丸くした。自分に置き換えて考えるなど、全く想像していなかったみたい。モテモテ男子になることが目的になってそうだけど、当座は、対応が変わればそれでいいかなと思う。

 私の話が少しは彼らの心に響いたのか、それからは店に入るクレームが激減したのである。






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