完結 R18  異世界に転移したデリバリースタッフに、ドラゴンの騎士団長からご注文が入りました。

にじくす まさしよ

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異世界に転移してすぐに再婚しました。しかもイケメンと

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 見るのも聞くのも初めての世界。チップの埋め込みは痛くもなんともなくて、スマホのタッチ決済みたいに、ぴっと役所のロボットが触っただけで終わった。戸籍を作るとか、滅茶苦茶大変そうな手続きなのに、所要時間30秒で笑ってしまった。

「キタ? どうしました?」

 笑った私が変だったようで、ホカイさんが怪訝な顔をした。

「いえ、こういう時、私がいた世界だと裁判とか、数年実績を積まなきゃ戸籍なんか取れないだろうなって思って。住所変更ですら、タイミングが悪ければ2時間待ちでしたもの。マイナンバーっていうやつなんか、3時間待ちでしたよ」
「3時間ですか? なぜ、そんなに時間がかかるんでしょうか」
「窓口にいる人は、こっちの世界よりもはるかに多いんですけど、細分化されすぎてて確認作業ばっかりって感じでしょうか。で、ひとつミスが見つかるとそれの確認って感じで。システムもセキュリティが甘くてバグも多かったですし、ペーパーレスになっても紙に依存していましたし。ミスがあれば大変とはいえ、余計な仕事が多い気がします」
「紙? ああ、古代の記録装置ですね」
「装置というよりも、木で作られた単なるぺらっぺらの堅い布ってところでしょうか。私の世界のエジプトっていう国では、葉っぱで作られたパピルスっていうのがあって……文字や絵を、鉛やインクが出るペンで書いたり、分厚くしたものは物を運ぶ箱にしたりと様々な用途がありました」

 興味津々で紙について聞いてくる彼に、詳しく話すにはそれほど知識がない。それこそ、スマホでグクりたいくらい。それは無理なので、頭をひねって言葉を連ねた。果たして、こんな説明でわかってくれるのだろうかと思いつつ彼を見ると、ポケットからあるものを出してくれた。

「もしかして、これですか?」
「あ、そんな感じのものです。でも、それも金属ですよね? 薄さは紙と同じくらいなんですけど、機械みたいな保存機能とかなくて」
「メモを取ったりアイデアが浮かんだ時に、一時保存のために使うものなのですけど、確かに機械ですね」
「この世界は、完全にペーパーレスなんですねぇ」
「俺も知らない場所では手に入るのかもしれません。あれば欲しいですか?」
「え? それは、うーん。あったら欲しいかも?」
「なら、手に入れましょう」

 妻の望むものを最大限努力して得るのが夫の務めですからと、ホカイさんは書類上だけなのにそう言って笑った。

 彼は、元の夫とはくらべものにならない程イケメンだ。メイクしていないのに、メイク男子のように綺麗な顔立ちで、笑うと右頬にえくぼができる。

「キタ、今日はもう疲れたでしょう?」
「いいえ、さっきいただいた飲み物のおかげで、まだまだ走れそうなほど元気です。色々見て回りたいくらい。あ、でも。ホカイさんお仕事は?」
「俺の仕事は、開店前にスイーツを作るだけですから。他の店は全部オートなんで、俺が手で作るのが珍しいくらいなんですよ。基本的に、自分の体を使って働くのは、平民でも下働きのものだけですからね。それも一時だけで、5年もすれば生命体は自身の体を使って働きません。作業はロボットなどがしますし、システムが配達のルートや人員など、何もかも管理しているので大丈夫ですよ」
「そうなんですね」
「ただ、プログラムされたものが基本なので、先ほど話した配達の問題点が山積みのように、まだまだAIの未熟さが目立つんです。効率重視のそこには、生命の感情などありませんから」

 実は、チップを埋める時に私の情報を全てスキャンされた。その時に、私が人間以外の姿を取れないことを知ったホカイさんがびっくりした。彼は、私がツバメになれると思っていたようだ。

「いや、あの……だから、あの姿で色々……してたんですけど」
「色々? 案内のこと? あ、あの時にたくさん鳴いてくれていたのって、私に話しかけてくれてたんですもんね」
「話かけてた、というか、きゅうあ……なんというか。そうか、キタは地球の星でのツバメじゃないから囀りの意味がわからなかったわけじゃなくて、本当にあれがなんなのか、理解できなかったんですね」

 ホカイさんは、「だからか」「おかしいと思った」「だけど、それならこれからは」とかぶつぶつ独り言をつぶやいていた。

「ツバメになればひとっとびなんですけど、キタは飛べないということなんですね。なら、移動はあれを使いましょうか。まだ余裕があるのなら、歴史博物館に行ってみましょう。もしかしたら、紙に似たものがそこにはあるかもしれません」

 ホカイさんが、手で何かを描く。すると、魔法のように目の前にドローンのようなものが出てきた。それが、ぱっぱっぱっと、あっという間に形を変える。

「バイクだ!」
「キタの世界にもこれと同じようなものがあったのですか?」
「あんな小さなドローンが変形するとかはなかったですよ。それに形も少し違いますけどバイクに近いですね」

 ホカイさんが、私をサイドカーに乗せてくれた。それが、まるで洋画のエスコートみたいに素敵でとても様になっていた。彼の差し出した手のひらは、私にはとても大きくて、きゅっと軽く握られると、優しく包み込まれたみたいになる。

 バイクは、とんでもないスピードなのに、空気抵抗はあまりなかった。慣性の法則はどこに行ったのだろうか。ほどよい風が髪や顔を撫でて気持ちがいい。

「キタ、大丈夫ですか? 風がきつくありませんか?」
「はい。これもシステムなんですね。あっちの世界なら、吹き飛ばされてたかも」
「ここから無理に腕を出したりしないようにしてくださいね。万が一、空中にある何かに当たれば、腕が千切れますよ」
「は、はいっ!」

 慌てて手を膝の上にちょこんと乗せると、ホカイさんがとても楽しそうに笑う。まるでスクリーンのイケメン俳優のようにかっこよくて、経済力も包容力もなにもかも備えている完璧な男性を保護者に選んでくれた、無銭飲食女、もとい神様の人選に感謝した。
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