完結 R18  異世界に転移したデリバリースタッフに、ドラゴンの騎士団長からご注文が入りました。

にじくす まさしよ

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ホカイ視点 ツガイじゃなくて、配達のプロが欲しいんですけど

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 俺の種族はとても少ない。俺を含めて6人だ。しかも、メスはひとりだけで、国から国へ年がら年中わたっている。
 唯一、子作りの季節だけは定着してメスひとりを男たちが囲むのだが、俺にはそれが性に合わなかった。

 しかも、物心ついた時に、そのメスから襲われた。寝ぼけていてとても苦しかったという記憶しかない。
 そんな状況は日常茶飯事で、受け入れない俺が悪いと責められた。
 もうそこでは生きていられないと思い、群れを離れて過ごしたものの、定住地のない俺には、どこの国も冷たかった。竜王が統べる国が、俺のような爪弾きものには住めることもあり、そこに定住する。

 ただ、強国は税金が高かった。22になるまで、食うだけでも精一杯の日雇労働でなんとか食いつないだ。

 1日中働きっぱなしの生活の中、食べたケーキやパイの味が忘れられず、自分で作るようになる。すると、店舗を持ちそこを中心とした場所で過ごしたいと思った。

 店を出したものの、最初は赤字経営だった。一年足らずで店を畳もうとした時、神様が俺の夢に現れてくれた。
 甘いスイーツが食べたいと言われ、夢の中でその日に廃棄処分にする予定の30個のスイーツを全部差し上げた。すると、神様はそれらを全て平らげて美味しいと言ってくださった。
 
 不思議なことに、夢から覚めると、現実のスイーツもなくなっていた。

 俺は、まだ諦めたくないと、どこにもないスイーツの開発をはじめた。行き着いたのは、古代の手法である、ほぼ手作りのスイーツだった。

 ロボットを使わない作業は骨が折れた。バターを越したり、メレンゲを作ったり、生クリームを泡立てるのが、こんなにも重労働だとは思ってみなかったのである。
 かなり効率も悪く、コスパは最悪だと思った。でも、手作りのものは、自分で言うのもなんだが機械の商品よりも圧倒的に美味しい。

 そこから、お客様の口コミが少しずつ広まりポツポツ注文が増える。それからは、AI搭載のロボットにデリバリーを頼み、忙しくて悲鳴があがりそうなほど繁盛するようになった。

 俺が当初使用していたデリバリーのロボットは、それほど高価なものではなく、配達先でケーキのはいった箱を放り投げたり、落としたりしていた。俺の作るスイーツは形にも拘っているため、生クリームが箱にべっとりついてしまったり、はてには箱の中でぐちゃぐちゃになったりと、お客様の口の中に入るのは、かつてスイーツだった残骸のみ。味だけ楽しむスイーツは、二束三文の価格でしか販売できなかった。

 ただ、デリバリーというものはそういうものだという世界共通の認識もあり、それほどクレームは来なかった。

 ありがたいことに、少しずつ売上が伸びていき、ロボットもグレードアップしたものを採用したものの、やはり生命体が慎重に運んでくれるほうがいい。

 そこで、仕事を探している平民を雇ってみた。ところが、その人材はロボットの配達に毛が生えたようなもの。

 とろけるプリンは、届けた場所にいきつく前にとろけてしまい、スライムよりもドロドロの液体になったし、ミルフィーユは重ねた層がバラバラになった。それどころか、配達途中でつまみ食いするスタッフまで出る始末。

 かといって、店舗でスイーツを供給できるような大きな店は構えられないし、スタッフも不足している。何よりも資金が足りない。
 まだまだ駆け出しの自分のスイーツ店に、わざわざ遠方から食べに来てくれるもの好きもそうはいないだろう。

 このままでは店舗を維持することは無理だと、やはり店を畳もうとした時、再び女神様が夢の中に現れてくださった。
 以前と同じように、残っているスイーツを全て平らげてくださった。

「あー、美味しい。腕をあげたわねえ」
「ありがとうございます」
「ああ、かしこまらなくていいのいいの。なんか困ってそうだったから、ちょっと寄ってみただけ。私は子どもたちに幸せになって欲しいだけだからね」

 俺は、神様に配達先でも作りたてと同じ製品をお届けしたいという気持ちを打ち明けた。

「ふんふん。そうね、ここはそういう細やかなことには無頓着だから。客の立場の人たちも、もう少しなんとかならないかっていう願いがそこそこ届いているのよねぇ。……そうだ、今度地球という星に行くのよ。そこで、配達のプロをオファーしてくるわ」
「配達のプロですか?」
「その星では、異世界転生とか異世界転移とかが大流行しているから、話しを持ちかけたら二つ返事でオッケーしてもらえるはず! そうと決まれば、ちょっと行ってくるわねー。あ、ついでにあなたのツガイになれそうな子を連れてくるわ。待っててねー」

 そのまま、神様は夢から消えた。その後、やはり現実のスイーツも全てなくなっていた。

「配達のプロか……」

 かつて、魔法が主流だった時代、デリバリーの商品は無傷で届けられたという。そんな夢のようなことできるのだろうか。

 神様は気まぐれで、約束をたまに破るともいわれているし。

 どうせそんな人物はこないだろうと諦めつつも、一縷の希望を胸に、スイーツを作り続けたのである。

「おまたせー。見つけるのに手間取っちゃった。もう、地球人ったら、異世界に行けるのよって言っても変質者扱いして、警察呼べとか、いきなり動画撮影はじめたりしてくる失礼な奴らばっかりでさ。でも、ふふふ。ちょうどいい女性が来てくれるって。二つ返事で、この世界で生きていってくれるって言ってくれたのよね。多少訳ありだけど、すぐに迎えに行ってあげてくれる? 目印はチップを埋め込んだツバメとドラゴンの刺繍のハンカチだから。あなたの店の追跡システムに反映されているはずよ。うまくツガイになってくれるかどうかは、これからのあなた達次第ね。もうひとりにも声かけてるの。ただ、あなたのほうが近いからお迎えはあなたに任せたわ。ふふふ、仲良くなれるといいわねぇ。あ、呼ばれたから行かなくちゃ。じゃあ、よろしくー!」
「か、神様」
 
 どういうことか、もう少し細かく聞きたかったのに、神様は行ってしまった。戸惑っている時にも、地球という星から来た女性は困っているだろう。

 俺は、追跡システムを立ち上げて、その光が反応する場所に向かった。
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