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最終章

今年のラストワン賞のガチャの当選者は 

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 あれから、あっという間に月日が経過した。年末に近づくにつれて仕事が忙しくなる。今日は、今年のクリスマスのガチャの配置表を見ていた。

 もうすでに、私が番と別れた事は皆が知っている。暫くぎくしゃくしていたのものの、今では、時折胸の中に冷たい風が吹くような切なさを覚えつつ、日常を取り戻していた。

 風の便りに、ヤンネさんは幼馴染の女性と結婚したと知った。おそらく、あの時に一緒にいた人だろう。番に会わなければ良かったかもってつくづく思う。そうすれば私も彼も無駄に傷つく事なく、特に、彼の相手は私という番の存在に傷ついていたに違いないのだから。

 番ってなんだろう……。

 どうしようもなく惹かれ合い、一生宝物のように大切にする存在だ。でも、種族によっては番への想いや態度は様々で、人間などに至っては番はない。

 答えの出ない問いにしばらく悩んだものの、彼が幸せに過ごすのなら、それは私にとっても幸せな事だと素直に思えるようになるまで、沢山泣いたし、現実から逃げたくて飲めないお酒を飲んでは、トナカイくんや毛玉ちゃんに心配かけた。

 ライナさんには、約束通り、ヤンネさんと一緒に過ごせる宿泊付きペアチケットを頂いたけれど、事情を話してお断りした。その頃には、観光をするような気分じゃなかったのもあって、結局ライナさんとも会っていないまま今に至る。

「え? 今年はエライーン国なんですか?」

 知り合いのいる地域には基本的にサンタは行かない。だけど、今年はエライーン国に行くサンタクロースの人員数人が悉く、私事でどうしてもそこには行けないと断ったらしい。で、私に白羽の矢が立った。

 私は、配られた表にあるガチャを渡す相手の、名前と住んでいる場所に息を飲んだ。

「うわぁ、出来れば別の人に代わって欲しいけど、無理なのよねぇ……。それにしても、そっか……。そうよね……」

 今年のラストワン賞には、見知った名前があった。ライナという、エライーン国の侯爵はひとりしかいない。

 ライナさんも、すでに所帯を持っていておかしくない年だ。素敵な人だし、地位も申し分ない。お見合いの釣書が山のように届いているって、昔からライノおじさまがぼやいていたっけ。ようやく、彼も結婚するのかと思うと、なんだか取り残されてしまったような切なさが胸に広がった。

 職場の皆が、意味ありげに私を見ていたのが少しだけおかしいなと感じつつ、今年も無事にガチャを早く配り終えて、毛玉ちゃんといっしょにクリスマスを迎えようと思った。

 トナカイくんのところの奥さんは、今妊娠している。そろそろ産まれる時期だから、モタモタしていたら大変だ。

 サンタクロースになった目的である、番を探すという夢はもう叶った。結果は残念だったけれど、ガチャを配る時に、愛し合う恋人たちの幸せそうな姿は、ほんの少しの羨望と心温まる幸せな気分が貰えた。

 実家に帰る事も考えなかったわけではない。だけど、優しくい職場の人たちに囲まれる日々が、傷ついた心を癒してくれたし、この場所もまた私にとってにもなった。だから、いつか引退する時がくるだろうけれど、その時まで働いてみようと思う。

「さぁて……、トナカイくん。最後の人にガチャを回してもらって帰ろっか」

「ああ。ラストワン賞の相手だな。ティーナはこの役目、初めてだったよな」

「うん。三回、ガチャを回して貰ったらいいのよね?」

「その通り。じゃあ、行ってこい!」

「はーい!」

 相手はライナさんだ。ガチャのカプセルの中身を見て、私がどんなガチャを配っているのか知られるのはかなり恥ずかしい。

 いや、だけど。ライナさんに限って、いかがわしいグッズを望むわけない。きっと、指輪とかそういうものに違いないのだから、堂々とガチャを差し出すのよ!

 それにしても、ライナさんと会うのは何か月ぶりだろう。こんなにも長い期間会わなかった事はない。きっと、お似合いのきれいな女性と一緒だろう。もしかして、可愛らしい人かな?

 お兄さまを取られたような、胸にチクリとした小さな痛みがあるけれど、ライナさんの幸せをこの目でしっかり見ようと、彼の目の前に煙を作った。

「メリー、クリスマス! おめでとうございます、あなたは厳選なる抽選の結果、今年のサンタクロースのプレゼントが当選致しました。更に、なんと! ラストワン賞として、通常1回のところ、3回も回せます。さぁ、遠慮なさらず、勢いよく回してください!」

 煙が晴れたと同時に、ガチャを彼に差し出した。すると、私だとすぐにわかったのか、ライナさんがビシリと止まる。

「ティーナちゃん? え? 本当にティーナちゃんなのか?」

「……えへへ、お久しぶりです。えーと、そういうわけなので、どうぞ!」

「久しぶり、とういうか、これは間違いじゃないのか? サンタは恋人がいるカップルの元に来るんだろう?」

「は? 間違いじゃないですよ! ライナさんがこうして選ばれたって事は、結婚を視野に入れた女性がいるんですよね? あ、まだ恋人未満くらいだったりします? それでも、ふたりの仲をよりよいものにする、最適なグッズが出てきますから、どうぞ回してください!」

「あー……折角だけど、俺には回せないよ」

「え? だって」

「俺が今ひとりなの、わかる?」

「そういえば、相手の方はどちらに? 戻るまで待ちましょうか?」

「いや、いないからね。実はさっきまで、お見合い相手と一緒だったんだけど、相手には意中の人がいるらしくフラれたところだったんだ」

「あー……と。その……なんと言っていいのか……」

 ガチャの選定は、1か月ほど前に決められる。ごくまれに、その間や、今日のようにガチャを渡す直前に別れるカップルがいるというのは聞いていた。

「いや、ティーナちゃんが落ち込まないで。はは、俺としても相手の女性には、そのうちお断るする予定だったから。相変わらず元気そうで良かったよ。番の彼との事は残念だったね」

「いえ……」

 それにしても、よりにもよってラストワン賞がこうなった場合、どうしたらいいのだろうか?

 普通のガチャなら、回すのも回さないのも、相手の気持ち次第でどちらを選んでもいいとなっている。ラストワン賞の場合はマニュアルには書いていなかったし、たぶん、知っている人も少ないだろう。

「うーん、とりあえず、ガチャ回してみます? 恋人未満の方の場合、片想いを叶えるいいグッズも入っているらしいですよ」

「へぇ……。こういう事は一生に一度だけだろうし、お言葉に甘えて回してみようかな」

「はい、是非どうぞ!」

 ライナさんが、ガチャをゆっくり回すと、がこんと大きなカプセルが落ちた。ライナさんが物珍しそうに、カプセルをくるくる回してじっと見ている。

「えーと、上下を握ってくるっと回せば開くんです」

「へぇ、面白いね。こうかな」

 くるりと回ったガチャからは、シャボン玉セットが出てきた。子供用の普通のシャボン玉のセットだ。いくらなんでも、こんなものがガチャから出るのはおかしい。

 そもそも、お見合いしたばかりで今は独り身のライナさんがラストワン賞に選ばれるなんて、あまりにもリスクが大きすぎる。これは何かのシステムエラーかなにかかもしれない。

 エラーでもなんでも、とにかくこういう普通グッズが出てかなりホッとした。変なアイテムが出たのなら、残り2回のガチャをライナさんに回して貰わずに、さっさと退散していただろう。

「シャボン玉かあ、懐かしいね。覚えているかな? 初めて会った時に、これを使って寒いからこそできるシャボン玉の現象を見せた事があったね」

「はい。シャボンの虹色の膜に、白い小さな星がつぎつぎ現れて。とても幻想的で美しい光景は忘れられません」

「はは、そう言って貰えて俺も嬉しいよ。折角頂いたから、また見せてあげる。今は閑散期だから時間があるんだ。休みの日にいつでもおいで」

「はい。是非、遊びに行かせてください。じゃあ、あと2回どうぞ」

 ふたつ目のカプセルは、足湯で一緒に並んで飲んでいたお酒だった。あの時は、ヤンネさんと初めて会った直後にフラれたって勘違いしていたのもあって、醜態をさらしていたなぁって恥ずかしい気持が蘇る。

「あー、これはティーナちゃんは飲めないね」

「はい。あ、でも。あれから少しだけ飲めるようになったんですよ?」

「そう? じゃあ、少しだけ一緒に飲もうか。いや、やっぱりやめておこう」

「もう~。あの時の事は忘れてくださいってば」

「ははは。じゃあ最後だね」

 ライナさんが最期のガチャを回す。すると今度は、手の平で隠れるほどの小さめのカプセルがでたのであった。



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