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第一章

リア・ファール

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朝の予約投稿のはずが、来年の設定になっているのを出勤してからお昼すぎて気づきました。休憩中に念のために見直したら、所長さんが初潮さんになっている誤字を発見しまして(照汗)。帰宅後にもう一度見直してから投稿させていただきました。不手際申し訳ありませんでした。





 扉を開けたら、何もないがらーんとした広間だけがあった。外から見た限りだと、何十階もあるような大きな建物だったのに、まるで一つの箱みたい。階段もドアも何にもなかった。

 中央に、大きな粗削りの鉱石や宝石の原石というよりも、鉱山からそのままここに持ち運んで適当に置いたかのような、傷だらけの濁った石の結晶があった。

 一体どういうことなのか不思議に思い首を傾げて、中央に足を進める。

「お……っきい……」

 扉から見えた時には、精々腰くらいまでの高さしかないように思えた。けれど、こうして近くに来ると、入って来た扉よりもはるかに大きい。見上げてもてっぺんが見えない。

「ひょっとして、この館は働く場所ではなくて、この石を保管するためだけに作ったのかしら?」

 私が歩いたのは、30歩ほど。なのに、これほど大きいだなんて。魔法で目くらましのような何かの力が働いているのだろうけれど。これが実物大だったのなら、外からみた大きな館はちょうどこれがすっぽり収められるくらいの大きさでしかない。

「ご名答! サンタ希望のお嬢さん。ようこそ、サンタクロース協会に。我々は君を歓迎するよ」

 石の中から、高いような、低いような、男の人のような、女の人のような声がしたと思ったと同時に、目の前にはお茶とお菓子がセットされたテーブルがあった。その向こうには、お父様と同じくらいの壮年期の男の人が、白の縁取りが施された赤い服を着てにこやかに座っていたのである。

「あ、あの……」

  さっきまでの圧倒的な石の前にいたのが、急に普通の人間や応接室に変わったことで少しくらくらした。

  初対面のサンタクロースは、私のそんな状況を知っているようで、にこやかな笑みのまま落ち着くのを待ってくれた。


「すみません、お待たせしました。私、ティーナと言います。よろしくお願いいたします」

「いやはや。もう大丈夫なのか?  俺の時は30分ほど吐き気と眩暈で苦しんだんだが。それにしても物凄い魔力量だな。これ程の膨大な魔力を持つ者はヨークトール様や君の母君以来かもしれん。皆も頼もしい新人が来て喜ぶだろう。これから仲間としてよろしく」

「え……っと、母をご存知なのですか?」

「ああ。俺はエミリアの元同僚なんだ。実はさっき『娘をよろしく』とだけ連絡がきてね。君を待ってた」

「そうですか」

  突然来たにも関わらず対応がにこやかだし、お母様の知り合いの男の人だからか変に緊張せず返事が出来た。いつもは、初対面の男の人には緊張しすぎて挨拶すら震えるというのに。
 

「入職の条件は知ってるかな?」

「はい。魔力を持つ者で、人格などに問題ないか精査されるんですよね」

 
   さっきは、採用みたいに言ってたけれど、私は入社試験を受けていない。今から本試験や面接があるのかと身が引き締まる。緊張で胸がドキドキした。


「ああ。まず、あの扉は一定以上の魔力を持つ者にしか反応しない。弱ければびくともしないか、開いてもゆっくりなんだ。君は手を触れただけで扉が自然と開いた。これは魔力が多いという証拠だよ」

「そうなんですか」

「次に、中にある石。あれはリア・ファールなんだ。ここが創設された時には、顧客にをするサンタクロースがいてね。かといって協会を潰すのは、恩恵を受けた各国の要人達が反対したんだ。そこで、伝説の四種の神器のひとつを、これを所有する国の国王が貸し出してくれたんだよ。リア・ファールが設置されてからは、罪を犯すサンタクロースがいなくなった」

「そ、そうなんですか……」

  それって、私なんかに暴露していいのかな?  リア・ファールは、とある国の国宝のはずだ。今も、その国の神殿の奥にあるとかなんとか聞いた事があるんだけれど。サンタの選定に気軽に貸し出しとかしていいのかなあ?

「ああ、貸し出しと言っても機密が漏れないようにきちんとしているからね。サンタクロース協会を退職した人たちには、この事は記憶から消去させてもらっているから漏洩などはないよ。なんせ、サンタクロースは要人の側や聖域にも入り込めるから職務を真面目に全うする人格が求められる。だから、あの部屋には定期的にサンタクロース協会の職員全てが入り適正検査をしているというわけだ。それこそ、事務員や研究員、出入りする業者やバイトに至るまで。勿論、君もこれは守ってもらう。破れば考えている以上の罰を受けるからそのつもりで。といっても、漏洩しようとすれば体が硬直するようにすでに契約印が体に施されているから、その印をどうにかしようとしない限り大丈夫だが」

 にこやかにとんでもない事を言い出す所長さんが、私の考えを読んだかように説明を付け加えてくれて納得してしまった。でも、そんな重要な秘密事項は、出来れば聞きたくなかった。

「も、もちろん、言いません!」

 がくがく首が音がなりそうなほど縦に何度も振った。

「で、早速なんだが。ティーナは今年のクリスマスに営業に行けるかな?」

「はい」

「知り合いのいなさそうな国のほうがいいだろう。どこか希望の国はあるか? 最初は先輩のサンタと一緒に行動するし、トナカイも慣れているコだから安心していい」

「希望の国……」

 世界中、どこでも行きたい放題なのだから、どこと言われても戸惑う。行きたいところはたくさんあったから、お任せしますと答えた。

 そのあと、早速場所を変えてサンタの先輩たちに紹介された。皆忙しそうに働きつつ、和気あいあいとしている。私を見ると、皆さんが大歓迎してくれた。

「ティーナちゃん、よろしく。仕事は忙しいけれど、昔に比べたら人も多くなって随分マシになったんだよ。なんと四週六休制になったんだ。閑散期はここに来なくても満額給料もでるから、余暇も楽しめるからねー」

「ティーナちゃんはどこから来たのー? え? ハムチュターン国なの? こんな寒い所に来て大丈夫? 何かあったらいつでも言ってね」

「はい、ありがとうございます。頑張ります!」

「ふふふ、頑張りすぎないで一緒にやっていこうねー」

「はい!」

 優しそうな先輩たちからも、膨大な魔力を感じる。といっても、私ほどではないから姿変えの魔法を破るだけの魔力の持ち主はいなさそうで安心した。

 世界中を一晩で巡り何人にもプレゼントを贈るのだ。生半可な魔力や体力では務まらないだろう。仕事なんて、したことがない私に務まるかどうかわからないし怖い。だけど、この人たちとなら、楽しく仕事ができそうだと思いわくわくもした。


「トナカイくん、この子がさっき話したエミリアの子だよ。ティーナ、このコはトナカイくんといって、これから仕事のパートナーになるベテランさんだ。エミリアのパートナーだったトナカイの子供なんだ」

「よろしく。ふぅん、エミリアさんの子だけあって、なかなか魔力が多いじゃない。ま、僕の足元にも及ばなさそうだけどね」

「不束者ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 相棒になるというトナカイくんは、なんというか美しい。毛並みも顔立ちも雰囲気も。美の化身のトナカイといった感じだ。奥さん一筋で、彼女は今出産を控えているから産休中らしい。今度紹介してくれるというので、楽しみがもうひとつ増えた。

 広い敷地のあちこちを案内されて、研究所でガチャの中身を詳しく聞いた。私はサンタクロースになりたいと言った数時間前の自分の口をふさいで、絶対にやめなさいと説得するために過去に戻りたくなったのであった。






リア・ファル:エリンの四秘宝のひとつ。フォールの聖石から名前をお借りしました。



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