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上がる黄色い悲鳴 ◇◇後ろに1000文字弱の小話あり
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マリアが、夜中にうつらうつら目が覚め始めると、いつもの部屋ではないことに気づいた。
なんでこんなところにいるんだろうと、いぶかしんだ時に下腹の中にツキンと痛みを覚えた。
身体中がだるくて、股関節が特に辛い。
「あ……、私……」
そうだった。体験授業を受けるため真っ白なドアをくぐって。三人の素敵な人たちと話をして、そして──。
「マリア、目が覚めたんですか?」
声がするほうに顔を移動させると、優しく、そっと頬にキスされた。
「スティーブ?」
「はい。喉が乾いていませんか? 声が嗄れていますね。どこか辛いですか?」
「ん……、少し怠いけれど、大丈夫」
「良かったです。お水を飲みますか?」
マリアはこくんと頷いた。スティーブが、水を準備するためにすっと離れていく。
「マリア、力を抜いていて。筋肉が強張りすぎていて、無理をするとつってしまうよ」
「あ、アダム? 何をしているの?」
「ふくらはぎのマッサージだよ。マッサージ以外はしないから安心していてね。痛くない?」
「ん……。気持ちいい」
全身、今まで使ったことない部分にまで力が入っていたため明日は筋肉痛になりそうだと思ってはいた。アダムの手が柔らかく揉み込んでくれるため、筋肉痛にならずにすみそう。
「マリア、すまなかった。大丈夫か?」
「アーロン、大丈夫よ」
目の前に、きりっとした太い眉が八の字になっている。女性なら誰しも通る道なのに、ひょっとしたら二人に寝ている間に叱られたのかもしれないほどしょんぼりしている。
「アーロン」
「なんだ?」
マリアが、少し近寄ってきた彼のブラウンの髪を撫でる。
「大丈夫だから、ね?」
「マリア……」
「スティーブとアダムもいるから、これからもやり過ぎないようにしてくれる。だから、私は壊れることはないわ? ふふふ、アーロン、好きよ」
「マリア……、好きだ。あいしている」
「うーん、スタートラインが違うのは、なんとなくわかっていたけど……。マリア、いつかでいいから俺の事も好きになってね?」
「ええ、アダム」
「僕の事も、ですよ? ほら口を開けて」
「スティーブ、わかったわ。お水、ありがとう」
マリアは、スティーブが差し出したストローを咥えてこくこく水を飲んだ。
「つめたくて、おいし……」
「おやすみ、マリア」
「いい夢を見てくださいね、マリア」
「おやすみなさい、マリア」
三人の奏でる音を最後に、完全に意識が途絶えたのだった。
翌朝、三人に代わる代わる世話を焼かれて、別れたのはお昼過ぎ。
離れたくないと、駄々をこねる皆にキスを贈ったあと、マリアは、担当者に連れられて校医の所に向かった。
問診と、外から機械を当てられて子宮の中のアーロンの名残を確認された。顔から火が出るほど恥ずかしくて仕方がない。
「マリア・エヴァンス。夫候補の交替を望みますか?」
「いいえ……。アーロンも、スティーブも、アダムも。皆と話をたくさんしました。私、彼らと結婚したいと思います」
体験授業前は、あれほど後ろ向きで怖がっていた彼女が、背筋をピンと伸ばしてしっかり視線を反らすことなく見返した。
担当者と校医は、微笑みを浮かべる。
「上手く行くとは思っていましたが、ここまであなたの気持ちが激変するとは思ってませんでした。きっと、最上の幸せがあなたには待っていますよ? お幸せに」
「はい、彼らといれば私は幸せになれると思います。それに、私も幸せにしたい、です!」
和やかに部屋を出たあと、マリア寮に戻った。すでに、マリアの相手を知った家族からひっきりなしに通信が入り、数時間解放されることがなかった。
「まあ、マリア……。あなたったら最高峰の殿方を捕まえたのね? あ、勿論、パパたちの次に、だけれども」
「マリア、聞いたよ。まさか、何度も見合いを申し込んで来ていたトンプソンのあの子もいるなんてね」
「彼は、マリアに恥をかかせたし僕たちが断っていたんだけど。やっぱり、親が選ぶよりマリア自身が選ぶほうがいい結果だったみたいで良かったよ」
「マリア、あのアダム・スコットがいるなんて、大丈夫かい? もしも無理を強いられたら必ず言うんだよ?」
「スティーブ・マクガードかあ。彼は物腰も柔らかくて美しい青年だから、引く手あまたの子だね。凄い子達を惹き付けるなんて、流石、俺たちの自慢の娘だ」
「もう、お母様にお父様がたったら。アーロンは、少年の頃は緊張していただけで今はとっても素敵なのよ? 昔の失態なんてどうでもいいじゃない。今の彼を見てあげて欲しいわ?」
「アダムだって、怖い噂もあるけれど、誰よりも私の事を考えて、自分が我慢してくれてるのよ? それに、私をずっと前保護してくれていたらしいわ。お父様がたとも面識があるはずよ」
「スティーブは、学園で求婚されたことがあるの。お断りしたんだけれど、ずっと諦めずに想っていてくれたの」
「だから、三人ともお父様がたに負けないくらい素敵なんだから」
「まあまあ……! マリアからそんな言葉が聞けるなんて! お母様、嬉しくて涙がでちゃうわ? 卒業したら盛大にパーティーをしましょうね」
「どの家も申し分ないな」
「早速話し合いだ」
マリアは、通信の向こう側の両親たちの嬉しそうなはしゃぎっぷりに、体験授業を逃げずに受けて良かったと心底思った。
「お母様、お父様がた。長い間、わがまま言って、心配掛けてごめんなさい」
「ふふふ、マリアが心から幸せになれるんだから気にしないの」
うんうんと、お父様がたも頷く。
ようやく落ち着いたのは夕食前。ドアがノックされた。スミレが顔を覗かせたあと、にっこり笑い、ピースサインをするマリアの姿を見て、スミレは跳ねて喜んだ。
「マリア、おめでとう、おめでとう!」
「スミレ、ありがとう。スミレがいなかったら、私どうなってたか……」
二人で涙を流して喜びあったあと食堂に行き、そこでも騒がしくなった。
お相手の名前に、皆がびっくりして、特にスティーブの名前が出た途端、悲鳴があちこちで発せられた。
「な、なに?」
「マリアったら……。彼は在校生独身の男性で一番人気なのよ? そっか、彼もマリアを狙ってたのね。いつまでも妻を決めないと思ったら……」
「スティーブが? そうなの?」
「そりゃそうよー。王子様みたいな綺麗な顔立ちや素敵で理想的な体型。物腰も口調も柔らかくって優しいじゃない。名だたるマクガード病院の跡継ぎでしょう? 手が届きやすいし超人気よ」
「そうだったのね……」
スティーブったらモテないとか言ってたけれど大人気だったのねとマリアはちょっと心がモヤっとする。他の女の子たちに彼を見て欲しくないなと感じて、我に返って自分の思いにびっくりした。早速独占欲の強い妻気取りかと自身にツッコミを入れてしまう。
でも、よくある髪と瞳の色とはいえ、ほどよく鍛えられた体は、すらっとしているけれども安定していた。それに、確かにとことん優しい。ベッドでは少々いじめられた気がするけれども……。
マリアは、頬を染めて手を当てた。潤んだ瞳でテーブルに視線を落としたその様子はとても可憐で美しい。
しかも、男を知った今、むせ返るようなほどの色香に包まれており、周囲に少年がいれば忽ち視線を独り占めにして欲情を煽るだろう。
「で、世界の、あの、アダム・スコットさんでしょう? すごすぎて開いた口が塞がらないわよ。アーロン・トンプソンだって、鍛え上げられた彼は少し怖いながらも、何からも守ってくれそうだしひそかに人気よー」
なんという事だ。彼らがそんなに人気だとは思わなかった。興味がなかったにも程がある。応接室で話した彼ら。ベッドで確かめあった彼らを思い浮かべてさらに、首筋まで赤くなった。
食堂は、ずっと騒然として、先生たちが場をおさめるまでマリアは質問攻めと嫉妬の視線に晒されたのであった。
※※※※ ちょっと緩和休憩を下に。興味のある方はどうぞスクロールしてくださいませ
前回と冒頭の合間の三人です。ほぼ会話。
↓
↓
↓
↓
↓
「全く、何を考えているんですかっ!」
「ほんとに。貫いた時に蹴飛ばされる男も少なくないというのに……」
「僕が蹴飛ばしてやろうかと思いましたよ?」
「……」
「あのまま一度だけと言いながら、最後は思いっきりしていましたよね?」
「しかも、もう一度でなく、何度もする気だったでしょ? 起きたら、マリアに嫌われちゃうかもね」
「そんなっ!」
「本当なら僕だって、参加したいのを我慢していたというのに」
「俺だって、無理に参加してマリアに嫌われたくないからね」
「マリアは、そんな事は……、いや、……しかし……」
「そこで反省していてください! 次は手出し無用ですよ!」
「次があればいいねえ」
そう言うと、二人は左右に別れて、一人はマリアに腕枕をし、もう一人は腹部に腕を絡めて抱きしめた。すぅすぅ穏やかに眠るマリアに左右からキスを落とすと彼らも眠りについたのであった。
「……」
アーロンは、二人の容赦ない言葉でグサグサ心を何度も刺されたあげく、抉られ、倒れた所に背中からさらにとどめをくらった。
眠っている愛しいマリアの顔を見て、愛しさと切なさがこみ上げる。三人仲良く夢の中に旅立っている中、彼らの足元で正座をして落ち込んだ。
『あんなに酷くして……、アーロンなんて嫌いよっ!』
どんどん負の方向に想像が膨らみ、微笑んでいたマリアから言われたその言葉で、妄想にも拘わらず、灰になったのであった。
さらに小一時間経過
「アーロン、邪魔だからどいて」
陰陰鬱鬱していた、鬱陶しいアーロンを押し退け、マリアのマッサージを始めたアダム。
苛めすぎたかな? と苦笑してアーロンをマリアの横に行くよう勧めた。
「アダム……」
優しいアダムの気遣いに対して、ちょっと感激してうるうるしているアーロン。
「俺たちの時は、見ているだけにしてね?」
「そんなっ!」
「前戯の時はいいけど、我慢してね?」
「う……」
アダムの微笑みと有無を言わせぬ雰囲気に呑まれ、アーロンは耳と尻尾を垂れさせて愛しいマリアにすがりついたのであった。
なんでこんなところにいるんだろうと、いぶかしんだ時に下腹の中にツキンと痛みを覚えた。
身体中がだるくて、股関節が特に辛い。
「あ……、私……」
そうだった。体験授業を受けるため真っ白なドアをくぐって。三人の素敵な人たちと話をして、そして──。
「マリア、目が覚めたんですか?」
声がするほうに顔を移動させると、優しく、そっと頬にキスされた。
「スティーブ?」
「はい。喉が乾いていませんか? 声が嗄れていますね。どこか辛いですか?」
「ん……、少し怠いけれど、大丈夫」
「良かったです。お水を飲みますか?」
マリアはこくんと頷いた。スティーブが、水を準備するためにすっと離れていく。
「マリア、力を抜いていて。筋肉が強張りすぎていて、無理をするとつってしまうよ」
「あ、アダム? 何をしているの?」
「ふくらはぎのマッサージだよ。マッサージ以外はしないから安心していてね。痛くない?」
「ん……。気持ちいい」
全身、今まで使ったことない部分にまで力が入っていたため明日は筋肉痛になりそうだと思ってはいた。アダムの手が柔らかく揉み込んでくれるため、筋肉痛にならずにすみそう。
「マリア、すまなかった。大丈夫か?」
「アーロン、大丈夫よ」
目の前に、きりっとした太い眉が八の字になっている。女性なら誰しも通る道なのに、ひょっとしたら二人に寝ている間に叱られたのかもしれないほどしょんぼりしている。
「アーロン」
「なんだ?」
マリアが、少し近寄ってきた彼のブラウンの髪を撫でる。
「大丈夫だから、ね?」
「マリア……」
「スティーブとアダムもいるから、これからもやり過ぎないようにしてくれる。だから、私は壊れることはないわ? ふふふ、アーロン、好きよ」
「マリア……、好きだ。あいしている」
「うーん、スタートラインが違うのは、なんとなくわかっていたけど……。マリア、いつかでいいから俺の事も好きになってね?」
「ええ、アダム」
「僕の事も、ですよ? ほら口を開けて」
「スティーブ、わかったわ。お水、ありがとう」
マリアは、スティーブが差し出したストローを咥えてこくこく水を飲んだ。
「つめたくて、おいし……」
「おやすみ、マリア」
「いい夢を見てくださいね、マリア」
「おやすみなさい、マリア」
三人の奏でる音を最後に、完全に意識が途絶えたのだった。
翌朝、三人に代わる代わる世話を焼かれて、別れたのはお昼過ぎ。
離れたくないと、駄々をこねる皆にキスを贈ったあと、マリアは、担当者に連れられて校医の所に向かった。
問診と、外から機械を当てられて子宮の中のアーロンの名残を確認された。顔から火が出るほど恥ずかしくて仕方がない。
「マリア・エヴァンス。夫候補の交替を望みますか?」
「いいえ……。アーロンも、スティーブも、アダムも。皆と話をたくさんしました。私、彼らと結婚したいと思います」
体験授業前は、あれほど後ろ向きで怖がっていた彼女が、背筋をピンと伸ばしてしっかり視線を反らすことなく見返した。
担当者と校医は、微笑みを浮かべる。
「上手く行くとは思っていましたが、ここまであなたの気持ちが激変するとは思ってませんでした。きっと、最上の幸せがあなたには待っていますよ? お幸せに」
「はい、彼らといれば私は幸せになれると思います。それに、私も幸せにしたい、です!」
和やかに部屋を出たあと、マリア寮に戻った。すでに、マリアの相手を知った家族からひっきりなしに通信が入り、数時間解放されることがなかった。
「まあ、マリア……。あなたったら最高峰の殿方を捕まえたのね? あ、勿論、パパたちの次に、だけれども」
「マリア、聞いたよ。まさか、何度も見合いを申し込んで来ていたトンプソンのあの子もいるなんてね」
「彼は、マリアに恥をかかせたし僕たちが断っていたんだけど。やっぱり、親が選ぶよりマリア自身が選ぶほうがいい結果だったみたいで良かったよ」
「マリア、あのアダム・スコットがいるなんて、大丈夫かい? もしも無理を強いられたら必ず言うんだよ?」
「スティーブ・マクガードかあ。彼は物腰も柔らかくて美しい青年だから、引く手あまたの子だね。凄い子達を惹き付けるなんて、流石、俺たちの自慢の娘だ」
「もう、お母様にお父様がたったら。アーロンは、少年の頃は緊張していただけで今はとっても素敵なのよ? 昔の失態なんてどうでもいいじゃない。今の彼を見てあげて欲しいわ?」
「アダムだって、怖い噂もあるけれど、誰よりも私の事を考えて、自分が我慢してくれてるのよ? それに、私をずっと前保護してくれていたらしいわ。お父様がたとも面識があるはずよ」
「スティーブは、学園で求婚されたことがあるの。お断りしたんだけれど、ずっと諦めずに想っていてくれたの」
「だから、三人ともお父様がたに負けないくらい素敵なんだから」
「まあまあ……! マリアからそんな言葉が聞けるなんて! お母様、嬉しくて涙がでちゃうわ? 卒業したら盛大にパーティーをしましょうね」
「どの家も申し分ないな」
「早速話し合いだ」
マリアは、通信の向こう側の両親たちの嬉しそうなはしゃぎっぷりに、体験授業を逃げずに受けて良かったと心底思った。
「お母様、お父様がた。長い間、わがまま言って、心配掛けてごめんなさい」
「ふふふ、マリアが心から幸せになれるんだから気にしないの」
うんうんと、お父様がたも頷く。
ようやく落ち着いたのは夕食前。ドアがノックされた。スミレが顔を覗かせたあと、にっこり笑い、ピースサインをするマリアの姿を見て、スミレは跳ねて喜んだ。
「マリア、おめでとう、おめでとう!」
「スミレ、ありがとう。スミレがいなかったら、私どうなってたか……」
二人で涙を流して喜びあったあと食堂に行き、そこでも騒がしくなった。
お相手の名前に、皆がびっくりして、特にスティーブの名前が出た途端、悲鳴があちこちで発せられた。
「な、なに?」
「マリアったら……。彼は在校生独身の男性で一番人気なのよ? そっか、彼もマリアを狙ってたのね。いつまでも妻を決めないと思ったら……」
「スティーブが? そうなの?」
「そりゃそうよー。王子様みたいな綺麗な顔立ちや素敵で理想的な体型。物腰も口調も柔らかくって優しいじゃない。名だたるマクガード病院の跡継ぎでしょう? 手が届きやすいし超人気よ」
「そうだったのね……」
スティーブったらモテないとか言ってたけれど大人気だったのねとマリアはちょっと心がモヤっとする。他の女の子たちに彼を見て欲しくないなと感じて、我に返って自分の思いにびっくりした。早速独占欲の強い妻気取りかと自身にツッコミを入れてしまう。
でも、よくある髪と瞳の色とはいえ、ほどよく鍛えられた体は、すらっとしているけれども安定していた。それに、確かにとことん優しい。ベッドでは少々いじめられた気がするけれども……。
マリアは、頬を染めて手を当てた。潤んだ瞳でテーブルに視線を落としたその様子はとても可憐で美しい。
しかも、男を知った今、むせ返るようなほどの色香に包まれており、周囲に少年がいれば忽ち視線を独り占めにして欲情を煽るだろう。
「で、世界の、あの、アダム・スコットさんでしょう? すごすぎて開いた口が塞がらないわよ。アーロン・トンプソンだって、鍛え上げられた彼は少し怖いながらも、何からも守ってくれそうだしひそかに人気よー」
なんという事だ。彼らがそんなに人気だとは思わなかった。興味がなかったにも程がある。応接室で話した彼ら。ベッドで確かめあった彼らを思い浮かべてさらに、首筋まで赤くなった。
食堂は、ずっと騒然として、先生たちが場をおさめるまでマリアは質問攻めと嫉妬の視線に晒されたのであった。
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「全く、何を考えているんですかっ!」
「ほんとに。貫いた時に蹴飛ばされる男も少なくないというのに……」
「僕が蹴飛ばしてやろうかと思いましたよ?」
「……」
「あのまま一度だけと言いながら、最後は思いっきりしていましたよね?」
「しかも、もう一度でなく、何度もする気だったでしょ? 起きたら、マリアに嫌われちゃうかもね」
「そんなっ!」
「本当なら僕だって、参加したいのを我慢していたというのに」
「俺だって、無理に参加してマリアに嫌われたくないからね」
「マリアは、そんな事は……、いや、……しかし……」
「そこで反省していてください! 次は手出し無用ですよ!」
「次があればいいねえ」
そう言うと、二人は左右に別れて、一人はマリアに腕枕をし、もう一人は腹部に腕を絡めて抱きしめた。すぅすぅ穏やかに眠るマリアに左右からキスを落とすと彼らも眠りについたのであった。
「……」
アーロンは、二人の容赦ない言葉でグサグサ心を何度も刺されたあげく、抉られ、倒れた所に背中からさらにとどめをくらった。
眠っている愛しいマリアの顔を見て、愛しさと切なさがこみ上げる。三人仲良く夢の中に旅立っている中、彼らの足元で正座をして落ち込んだ。
『あんなに酷くして……、アーロンなんて嫌いよっ!』
どんどん負の方向に想像が膨らみ、微笑んでいたマリアから言われたその言葉で、妄想にも拘わらず、灰になったのであった。
さらに小一時間経過
「アーロン、邪魔だからどいて」
陰陰鬱鬱していた、鬱陶しいアーロンを押し退け、マリアのマッサージを始めたアダム。
苛めすぎたかな? と苦笑してアーロンをマリアの横に行くよう勧めた。
「アダム……」
優しいアダムの気遣いに対して、ちょっと感激してうるうるしているアーロン。
「俺たちの時は、見ているだけにしてね?」
「そんなっ!」
「前戯の時はいいけど、我慢してね?」
「う……」
アダムの微笑みと有無を言わせぬ雰囲気に呑まれ、アーロンは耳と尻尾を垂れさせて愛しいマリアにすがりついたのであった。
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