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 周囲に散々からかわれたあと、省吾が予約していたレストランに行く。今思えば、なんで皆の前でキスしちゃったんだろうと、穴があったら入りたいくらい恥ずかしすぎた。
 省吾は相変わらず平然としていて、通常運転のように見える。でも、時々頬や耳の下あたりがピクピクしていた。これは、嬉しくてニヤつきそうになるのを堪えている時のサイン。
 
(彼と私の気持ちは、一緒なのね)

 そう思うと、本当に足が地面から離れそうなほどウキウキ気分で繋いだ手の指を絡ませた。

 まだ夢の中にいるかのような気分で、美味しいコース料理を頂いた。その時に改めて求婚され、小さな箱を渡される。

 私の憧れの女優さんが、恋人に貰ったという婚約指輪を記者会見で見せていたのを、うっとりと羨ましいと言っていた事を覚えていてくれたのだろう。輝くダイヤモンドが埋め込まれたそれは、彼女が贈られたという有名な宝石店のものだ。安くてもかなりの値段がする。

「仕事中にもつけられるデザインにした。普段からいつも付けていて欲しい」
「でも、こんなにも素敵な指輪、普段使いにはできないわ……」
「傷とか心配しないで欲しい。いつでも買ってあげる事が出来るくらいの収入はあるから。彩音が勤めるのは俺と別の病院だし、彩音はモテるから心配なんだ」

 飲み会は一次会で帰るようにとか、男の隣に座らないようにとか色々真剣な表情でしつこいくらいに念を押された。

「省吾ったら。ふふふ、言う通りにするけれど、心配しなくてもそれほどモテないのに」
「モテないって思っているのは本人だけなんだよな……。いいから、絶対つけてて」
「うん、わかったわ。なるべく傷がつかないように大切につけるね」

 その日は、美しい夜景が一望できるスイートルームに泊った。家に帰らず、ふたりでこうして過ごすのは久しぶりでドキドキする。
 嬉しすぎて、何度もチラチラ指輪を見て指でなぞっていると、省吾が私を抱き寄せた。

「彩音、指輪じゃなくて俺を見て」
「ん……っ!」

 あっという間に唇を奪われ、胸を大きな手で包まれる。思うよりも早く、体が彼に触れられた快楽の記憶を呼び覚ます。一瞬で体に熱がこもり、お腹の中がじんわりとした普段は感じえない感覚が産まれた。

「彩音、綺麗だ」
「ん……、んっ。省吾、愛してる」
「俺の方がもっと愛してるよ」

 逞しい腕に抱かれて、ベッドに体を縺れ合わせるように沈んだ。性急に、彼の手が体をまさぐる。互いに服を脱がせ合い、一糸まとわぬ姿になる頃には、大きな手の平全体で肌を撫でられ、指先が少し敏感な場所を掠るだけで体が小刻みに震えてぴくつく。

「あ、あ……はぁん……」
「彩音も、俺のを触って」

 頭がぼうっとする。彼の手に誘導されて、もう何度も私の中に入ってきた高ぶりを握らされた。お互いに濡れた場所を触れ合い、快感が高みへと連れていかれる。

「はぁ、は……んんっ、省吾、もう……!」
「はぁ、彩音……」

 大きく足が開かれる。いつまで経っても恥ずかしいし慣れない。でも、それ以上に彼がとても気持ち良さそうな表情を見るこの瞬間が好きでたまらない。

「あっ、あっ!」
「彩音、あやね……! 俺の名を呼んで」
「しょうごっ、しょうごぉ! 好き、すきぃ!」
「ああ、彩音、俺も好きだ!」

 体が思い切り上下に揺すられ、その振動で言葉が途切れる。彼の肌にぽつぽつ汗が光っている。色っぽい彼の姿と、低い声が、私の中を強く刺激した。

「しょうご、もう、ダ……メェ!」
「彩音、一緒に……!」

 彼のをぎゅうぎゅう締め付けているのが分かる。何かに耐えながら、苦しそうに眉をしかめている彼の動きが速くなった。ぐいっと腰を押し付けられ、中が押されると、頭の中が真っ白になり、電気がびりびり体の中心から一気に流れる。

「ああ!」
「ぐ……っ!」

 体中に力が入りのけ反る。中にある固くて大きな熱が、さらに膨らんだ。彼が私に覆いかぶさり、数回腰を押し付けた。私の中でいっぱい気持ち良くなってくれたんだと思うととても幸せになれる。その夜も、朝までふたりで愛を確かめ合った。

 入職前の連休には、私の実家に結婚の許可を貰いに行った。流石に、今年中の結婚は反対されたけれど、婚約には反対されはしなかった。省吾は、うちの家族に絶対の信頼を置かれている。
 なぜだろうと思うと、省吾は代々著名な医者を排出している磯上家の出身という事もあるけれども、彼自身が医療業界では割と名の知れた名医だという。患者さんひとりひとりに真摯に付き合う姿勢を貫いているため、彼に感謝している財界人も多いのだとか。
 彼の評判を全く知らなかった私は、びっくりしつつ、彼がそんなにすごい人なんだと、我が事のように誇らしく思えた。

 4月になり、入職した。学生時代にも散々勉強して来たというのに、実践ではほとんど役に立たない。これまで勉強して来た事はなんだったのかと、毎日のように自信がなくなって落ち込む日々を支えてくれたのは省吾と、そして、彼がいない時は、おばあちゃんだ。ふたりが、私の側にいて話を聞いてくれたから、次の日に行きたくなくても職場に顔をあげて出勤する事が出来たんだと感謝した。

 やっと、半人前くらいになれた頃、都内の大きなホテルで結婚式を挙げた。参列者には、省吾があの試合を最後に引退したクラブチームの人に、お互いの職場の関係者。そして、私と一緒に涙を拭き笑い合ってくれた親友にクラスメイトたち。
  天川の家の関係者もだけれど磯上のほうからも著名人も沢山来ていて、昨今では珍しい豪勢な結婚式になった。

  私たちの結婚を心から祝ってくれる人も沢山いて、省吾と出会ってから、何度目かの幸せの絶頂を味わう。私は、最初は嬉しくてニコニコしていたのに、途中から涙が止まらなくなった。省吾は、そんな私を優しく微笑んで見守り、泣きじゃくる私の頬を何度も何度もハンカチで拭いてくれたのである。



 そして、数年後──



 大泣きの私の顔が、リビングに飾られている大きなフォトフレームの中に一枚入っている。

 その横には、省吾が逆転勝利をおさめた引退試合の時のトライの一瞬。

 泣き顔が変で恥ずかしいから取り出しても、いつの間にか入っているのは家族皆と抱き合った結婚式の幸せな時。

 幸せそうに微笑み合い、誓いのキスをするふたりのアップ。

 お揃いのリングをつけて、ブーケの上で重ね合わせた手。

 そして、真ん中の一番大きな枠には、まあるい顔をしたぷっくりほっぺの可愛い赤ちゃんの写真が収められているのであった。



R18 セフレ呼ばわりされた私は、不器用な大柄医師に溺愛される ──完
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