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10 ミューズのために
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敵の本拠地に入った。これで、もう終わり。でも、どちらの何が終わるのか。胸を高ぶらせている期待値は、勿論相手の終わりだ。
最終決戦ともいえるべき今、キュービクルで共にいたい人はいない。どれほど切望しても、そして、コーチに頼んでもNoときっぱり断られるだけだった。
今まで出会った男の子たちは、甘えてしがみついたら、簡単に私の言うことを聞いてくれるチョロかった。そして、この男も同じだと高をくくっていたのに、私のような子供は相手にされなかった。候補生たちにいびられて腐っていた時に出会った頃は、ものすごく嫌な大人だと思っていた。だから、ちょっとしたトラブルを起こしてやめさせてやるとまで考えていたんだけど、私の浅知恵はことごとくかわされたのである。
教科書のように決まりきったきれいごとを言ってきて、自分たちは安全な場所で、私を戦いにおいやるくせに。
こうなったら、絶対に私の言う通りに動く犬のようにしてやる。そう思っていた時、私の人生をがらっとかえた女神に出会った。
稚拙ないじめをしてくる子たちから、いとも簡単に助けて和解させてくれたおねえさまは、私を泥の底から救い上げてくれた、たったひとりの人。
本当は、もっと素直に生きていたい、そしておねえさまのようにまっすぐ前を見ていたい、そして、利用していた底の浅い下心しかない男たちなんて本当は大っ嫌いで、女の子のお友達が欲しかったのだという自分の気持ちを受け止めさせてくれた。
私と同じような立場なのに、ううん、本当なら戦いになんかこなくても一生安泰に過ごせるお嬢さんなのに、誰よりもぴんっと背筋を伸ばして心の底から頑張っている私だけのミューズ。
そんな彼女が、キュービクルに乗れないだなんて、そんな馬鹿な話なんてない。誰よりも、コクピットにいるべきなのに。
いっそ、他のパイロットの子たちを3人残して戦闘不能にしてやろうかしら? 大勢を一撃でキュービクルに乗れない状態にできそうなのは、ちょっとした下剤を仕込むことだ。うん、それが一番手っ取り早いだろう。
おねえさまと一緒にいたいという、私のどろりとした欲望が、超えてはいけないボーダーラインを簡単に乗り越えられそうなほど大きくなり、明るい部分を覆い隠そうとした。
「こら、何を考えている」
「シンコーチ」
最初はやけくそというか、悔しいというか、別に好きでもなんでもないけど、ちょっとした好奇心で気のあるふりをしていた。のだが、今では私のほうが彼に堕ちてしまったのが誤算で、でも嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「お前のことだから、大好きなおねえさまと一緒に戦うために仲間をどうにかしようとしているだろ」
「そ、そんなことはないけど?」
「バレバレなんだよ。軽い下剤でも朝食に仕込むつもりか」
「なにが? 意味わかんない。下剤とか、考えたこともないんですけど?」
一応反論してみたけど、やっぱり見抜かれていた。この状態では、到底計画は実行できなさそうだし、もしかしたら私が更迭されておねえさまに二度と会えなくなる。
それは絶対に嫌だ。
私の身分だと、大富豪のおねえさまと一生会えない。だからこそ、最終決戦に行きたかったし、絶対に勝利してほぼ互角の立場を手に入れたかったのだから。
「それならいい」
コーチは、私の邪な心にあきれつつも、頭を撫でて頬をくすぐった。
そんな、少し前のことを思い出しつつも、しっかり前に進んでいく。アリの巣は、もっと土や木の根がむき出しの原始的な場所だと思っていたのに、案外金属でできた道は地球の整備された都会のビルのようだった。
「カエリズミさん、そろそろ卵のある場所よ」
「そうね……。皆、注意して」
4人の中で、私がトップの成績だ。私は、おねえさまの足元にも及ばないけど。
私もだけど、他の3人はすごく怖がっている。必死に気持ちを奮い立たせているだけなのがわかった。おねえさまがここにいたら、きっと皆こんなに不安がっていない。
「行くわよ! 絶対に生きて戻るんだから!」
「ええ!」
「当然よ!」
「負けるもんですか!」
部屋に入ると同時に、女王アリや側近に即死級の大ダメージを与えてやる。そう覚悟して、巣の中の大きな部屋に突入した。
「な……!」
「これは……」
「どういうこと?」
「なんてひどい……」
そこには、たくさんの卵があった。いや、卵だった残骸の割れた殻と、中にあっただろう液体が。UMA3体から得られたデータでは、この卵を女王と最強の側近が守っているはずだったのに。
「しまった……! 皆、逃げてー!」
卵をおとりにして、女王アリと側近はここから逃げていたのだ。つまり、二体が今いるのは、おねえさまがいる場所にちがいない。
そう判断すると同時に、破壊された卵の部屋の天井が崩れ落ちてきたのであった。
最終決戦ともいえるべき今、キュービクルで共にいたい人はいない。どれほど切望しても、そして、コーチに頼んでもNoときっぱり断られるだけだった。
今まで出会った男の子たちは、甘えてしがみついたら、簡単に私の言うことを聞いてくれるチョロかった。そして、この男も同じだと高をくくっていたのに、私のような子供は相手にされなかった。候補生たちにいびられて腐っていた時に出会った頃は、ものすごく嫌な大人だと思っていた。だから、ちょっとしたトラブルを起こしてやめさせてやるとまで考えていたんだけど、私の浅知恵はことごとくかわされたのである。
教科書のように決まりきったきれいごとを言ってきて、自分たちは安全な場所で、私を戦いにおいやるくせに。
こうなったら、絶対に私の言う通りに動く犬のようにしてやる。そう思っていた時、私の人生をがらっとかえた女神に出会った。
稚拙ないじめをしてくる子たちから、いとも簡単に助けて和解させてくれたおねえさまは、私を泥の底から救い上げてくれた、たったひとりの人。
本当は、もっと素直に生きていたい、そしておねえさまのようにまっすぐ前を見ていたい、そして、利用していた底の浅い下心しかない男たちなんて本当は大っ嫌いで、女の子のお友達が欲しかったのだという自分の気持ちを受け止めさせてくれた。
私と同じような立場なのに、ううん、本当なら戦いになんかこなくても一生安泰に過ごせるお嬢さんなのに、誰よりもぴんっと背筋を伸ばして心の底から頑張っている私だけのミューズ。
そんな彼女が、キュービクルに乗れないだなんて、そんな馬鹿な話なんてない。誰よりも、コクピットにいるべきなのに。
いっそ、他のパイロットの子たちを3人残して戦闘不能にしてやろうかしら? 大勢を一撃でキュービクルに乗れない状態にできそうなのは、ちょっとした下剤を仕込むことだ。うん、それが一番手っ取り早いだろう。
おねえさまと一緒にいたいという、私のどろりとした欲望が、超えてはいけないボーダーラインを簡単に乗り越えられそうなほど大きくなり、明るい部分を覆い隠そうとした。
「こら、何を考えている」
「シンコーチ」
最初はやけくそというか、悔しいというか、別に好きでもなんでもないけど、ちょっとした好奇心で気のあるふりをしていた。のだが、今では私のほうが彼に堕ちてしまったのが誤算で、でも嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「お前のことだから、大好きなおねえさまと一緒に戦うために仲間をどうにかしようとしているだろ」
「そ、そんなことはないけど?」
「バレバレなんだよ。軽い下剤でも朝食に仕込むつもりか」
「なにが? 意味わかんない。下剤とか、考えたこともないんですけど?」
一応反論してみたけど、やっぱり見抜かれていた。この状態では、到底計画は実行できなさそうだし、もしかしたら私が更迭されておねえさまに二度と会えなくなる。
それは絶対に嫌だ。
私の身分だと、大富豪のおねえさまと一生会えない。だからこそ、最終決戦に行きたかったし、絶対に勝利してほぼ互角の立場を手に入れたかったのだから。
「それならいい」
コーチは、私の邪な心にあきれつつも、頭を撫でて頬をくすぐった。
そんな、少し前のことを思い出しつつも、しっかり前に進んでいく。アリの巣は、もっと土や木の根がむき出しの原始的な場所だと思っていたのに、案外金属でできた道は地球の整備された都会のビルのようだった。
「カエリズミさん、そろそろ卵のある場所よ」
「そうね……。皆、注意して」
4人の中で、私がトップの成績だ。私は、おねえさまの足元にも及ばないけど。
私もだけど、他の3人はすごく怖がっている。必死に気持ちを奮い立たせているだけなのがわかった。おねえさまがここにいたら、きっと皆こんなに不安がっていない。
「行くわよ! 絶対に生きて戻るんだから!」
「ええ!」
「当然よ!」
「負けるもんですか!」
部屋に入ると同時に、女王アリや側近に即死級の大ダメージを与えてやる。そう覚悟して、巣の中の大きな部屋に突入した。
「な……!」
「これは……」
「どういうこと?」
「なんてひどい……」
そこには、たくさんの卵があった。いや、卵だった残骸の割れた殻と、中にあっただろう液体が。UMA3体から得られたデータでは、この卵を女王と最強の側近が守っているはずだったのに。
「しまった……! 皆、逃げてー!」
卵をおとりにして、女王アリと側近はここから逃げていたのだ。つまり、二体が今いるのは、おねえさまがいる場所にちがいない。
そう判断すると同時に、破壊された卵の部屋の天井が崩れ落ちてきたのであった。
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