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9 最終決戦に向かう人を見送りながら

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 UMA3体を捕らえたことで、十分データを取ることに成功した。

 今、アリの巣には、数え切れないくらいの卵があり、女王アリと側近一体が守っている状況らしい。
 ノウキたち以外の、今回の侵略でやってきた戦闘専門UMAたちもほぼ殲滅が完了しており、巣にいるのは掃除をしたりリフォームしたり、世話をしたりするアリたちばかりらしい。そのうちの何%かは戦闘用に変わるだろうけど、突入するなら今がチャンスだと判断された。

「ノウキたちが巣にいるまでの地図も完成している。だが、キュービクルだけでは心もとないこともあり、4名のパイロットと軍とともに、全員を追従させることにした」

 もう候補生ではなく、やり直しのきかない仕事だ。だけど、そんな急に学生気分が抜けるわけもなく、わたくしたちは互いに肩を抱き合った。

「皆、わたくしは何が起こってもキュービクルには乗れないでしょう。でも、一生懸命サポートをするわ」
「はい、おねえさまの言葉は励みになりますし、指示は他の誰よりも的確で最大限の効果を生み出してきましたから信じることができます」

「皆の代表として、私達は敵の巣を完膚なきまで破壊してみせますっ!」

 正直なところ、選ばれた4名を羨む気持ちはある。他の子たちもそうだろう。でも、選ばれたら選ばれたで恐ろしい自体に直面することになるのだ。それぞれの思いを込めて、キュービクルを収納している巨大な戦艦に乗り込んだ。

 UMAの本拠地は、地球から月ほどの距離の、古に打ち捨てられた衛生基地のひとつだった。わたくしたちが思っていたよりも早くにそこに巣を作り、虎視眈々と地球の侵略を目論んでいたらしい。

 あっという間にその場所を目前にした戦艦のコクピットから巣を見下ろす。

「コーチ、わたくしではなく、あの子たちの誰かのコーチだったのなら、未来永劫語り継がれる名声と地位が約束されましたのに。最初から外される予定のわたくしで、本当に良かったのですか?」

 コーチの最後の立ち位置で、未来の地位も財産も大きく変わる。人類の存続のためとはいえ、天と地ほどの差になるのがわかっていて、落選確定のわたくしのコーチになる物好きはいなかったから、コーチがハズレくじのような形でわたくしについたのかと思っていた。

「タイム。俺はもともと直属のコーチではなかった。たまたま空席だった場所に放り込まれただけだ。だが、俺はあの偶然に感謝している」
「後悔ではなく、感謝ですか?」
「ああ。個人的な話になるが、俺は女性がこれほどの才能と行動力があるとは思っていなかった。あー、一部の女性が、男よりも有能なのは知っているが、俺の実家は女性は守るべきか弱き存在だという風潮でな。ある意味馬鹿にしていた」
「出産のことを考えると、そういう女性の方が多いかもしれませんし、価値観は多種多様ですので互いに納得していれば問題ないのではないでしょうか。コーチの考えが古臭いとは思いませんが」
「だが、なんとなくで下に見て良いわけはない。お前たちはそこら辺の男よりも素晴らしかった。コーチとして側にいられて、俺は価値観ががらりと変わったのを自覚した。それからは、未成年という未熟さがあるものの、対等の存在だと心がけて接するようにしていたんだ」
「そうだったのですね」

 まさか、コーチが男尊女卑とまではいかないだろうけど、そういう家系で育ったとは思っていなかったのでびっくりした。いつだってコーチは、男性たちと同じように厳しかったし、体調不良はともかくとして、女性だからと指導の手を抜かなかったから。

「それまでは、一緒に過ごさねばならない結婚など、メリットなどないと考えたこともなかった。だが、女性でも支えるだけでなく、支え合える女性がいると、そう思うようになったきっかけは、タイムお前だ」
「わたくし?」
「ああ。お前は男よりも男らしい。あいつらが慕うのもわかる」
「男らしい……」

 これでも、訓練の合間におしゃれやケアを怠らなかった。一応、そこそこきれいな部類にはいってるんじゃないかなーって思っていたから、男らしいと言われてなんだか複雑だ。

 せめて、頼もしいとか言えないのだろうかと、言葉が斜め何度かのコーチをにらんでしまった。そんなだから、いつもいつも説教の時に、皆に責められて詰め寄られるのだと確信した。

 そんな話をしているうちに、すでにキュービクルに乗り込んだカエリズミたちが戦艦から飛び立った。

「カエリズミ、皆……どうか無事で」

 残る4名も、コーチと一緒に彼女たちを見守る。わたくしと違って、カエリズミたちに何かあればすぐさま護衛艦に乗ってキュービクルのもとにいき戦闘しなければならない子たちだ。わたくしよりもその思いは複雑で強いだろう。

 ついに、巣の中に突入する。キュービクルと一緒に追従する護衛戦闘機のカメラの映像がスクリーンに映し出されていた。

「アリたちが、キュービクルの姿を認識したら逃げていったわ!」
「データの通り、あそこに残っているのは、戦闘しないのね」

 目指すは卵を守る女王アリと側近の場所。カエリズミたちは、一寸も迷うこともなくそちらに向かっていく。

 わたくしは、あまりにもスムーズすぎて、逆に不安になった。ドキドキと、心臓の鼓動が嫌な不協和音になる。単なる気の所為で、思い過ごしならいいのだけれど。

「あ!」

 そうだった。前世で、シバタは……

「ダメ! 戻って! これは敵の罠よ!」

 わたくしは、スクリーンに向かって大きな声をあげた。だけど、遅かったようだ。

 カエリズミたちを映していたスクリーンが一瞬で真っ暗になり、通信が途絶えてしまったのだった。

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