完結 R18 わたくし単なる悪女でございましたが、なぜだか巨大ロボットを操縦しています。

にじくす まさしよ

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8 カワッタモノ、カワラナイモノ

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 今、わたくしたちの前には、大きな部屋に捕らえられたUMAが三体並んでいる。

 といってもスクリーンごしに、だけど。彼らの周囲には、様々な機械がある。データ用、尋問用、治療用など、用途は様々だ。もちろん、危険だと判断されれば、一瞬で眠らせることのできる薬を刺すことができるように配置されている。

「パイロットの皆、お疲れ様。では、我々が得たデータを御覧ください。また、個体判別として、UMAにはネームをつけました。左にいるのが、No1,ノウキ。脳まで筋肉でできているような猪突猛進で、威勢がいいのは自分より弱いと判断した者だけだという姑息な性格を持ちます」

 ドクターグラスの説明を、皆真剣に聞いている。メモを取っている子もいた。

「真ん中にいるのが、No2,インテリン。目の周囲にメガネのような模様があるのが特徴です。No,2は、一見頭の良さそうな会話をすることができますが、それは大きな網の目のように大きな穴だらけですので、嘘つきな一面も。ただ、小さな子供のかわいらしい嘘のように、すぐにバレますので、これの言葉は適当に促すのが一番かと推測されます」

 ドクターグラスは、個人的恨みがあるノウキに引き続き、インテリンについても容赦なくディスっている。といっても真実だけれども。

「そしてNo,3。このUMAは他の二体よりも未成熟です。3体のやりとりから、生まれた年も3年は遅いことがわかりました。たった3年なのに、体全体がかなり成長が遅く、ほかの二体よりも優位にたとうとマウントしようとする言動が見受けられました。あげく、仲間をこちらに売り飛ばす代わりに自分だけは助けろという小賢しい性質かと。ですので、No,3はハラグロウと名付けました」

 ドクターグラスが名付けたといっても、前世での彼らの名前のままだった。それぞれ、毒のある言葉で説明しているものの、大体彼らの性格そのままで、まだマイナス部分をいい足りないくらい。
 少し吹き出しそうになり、こほんとごまかすように咳をした。

 この部屋には、わたくしたちパイロットとそれぞれのコーチ、ドクター率いる研究員たちしかいないが、別室で上層部も共有している。

「ドクター、解剖の許可をだそう。女王アリの弱点を解析せよ」

 司令官直属の参謀の言葉に、わたくしたちは息を飲んだ。

 捕らえたのは人類の敵。憎むべき存在なのだが、顔が人間と同じで人語を話すから、小さな昆虫のようには思えない気持ちはわかる。

 ドクターやわたくしにとっては、前世では同じ人間だった人たちだし、わたくしにはなんともいえなかった。

「……閣下、解剖しなくとも、データでそれはすでに判明しております。もちろん、解剖することで新たな弱点を知ることもできましょうが、あまり良策とは思えません」
「ふむ。ならば、なぜ無意味な性質をだらだらと述べていたのだ。時間は有限。こうしている間にも、敵がやってくるやもしれん」

「長く時間をいただき、申し訳ございませんでした。ただ、UMAにも自我があり、個性があるということをお伝えしたかったのです。有象無象の先発隊にはそれほどの知能はありませんが、この3体については、我々とどうようの知能や知識があります。単純な動きをするだけではなく、ヘタをすれば裏をかかれてしまいます」
「ふむ。個体ごとに、戦い方を変えなければならないということか。たしかに、これまでは防戦一方だった。キュービクルを先頭に、アリの巣の殲滅に入るからには、解剖などせず、知能を持つUMAの情報を引き出したほうがよいということだな」
「その通りでございます」

 ドクターグラスの言葉に、解剖をするようきっぱりいった参謀は顔を歪めた。けれど、万が一キュービクルを失えば自分の未来が終わる。参謀は、さもドクターグラスの説明に感銘をうけたかのように前言を撤回した。

 安全な場所に逃亡できるのなら、もしかしたら解剖をゴリ押ししたかもしれないなと思った。

 その日から暫くの間、UMAからの攻撃がなかった。つかの間の休息を、皆で訓練したり、遊んだりして過ごす。

「ヒューズコーチ、こんなのんびり過ごしていいのでしょうか」
「一般人だけでなく、司令官も遊ぶ時には遊んでいる。一番危険なお前たちだけ、ずっと訓練しておくなど、馬鹿な法はないからな。ほら、あっちでカエリズミたちが呼んでいる。行ってきたらどうだ」

 今いるのは、わたくしたちの訓練をするための巨大プール。人工的に津波や大渦まで起こせる装置もついており、あらゆる水難事故を想定した訓練ができる。

 今日はプライベートだから、皆、バニースーツではなくて、かわいい水着を着ている。わたくしは、ビキニタイプのもので、上からパーカーを着込み、腰から下は大きなスカーフでかくしていた。

「戦いが終われば、ここは娯楽施設になる。今の貸切状態のうちに、巨大滑り台などを楽しんでこい」
「はいっ!」

 わたくしは、パーカーとスカーフを外して、大波が発生しているプールに向かう。

「おねえさま、また技を見せていただけますか?」
「大した技じゃないけれど……」

 カエリズミにサーフボードを手渡される。サーフボードには、直系5センチの長いホースがつけられていて、ジェット水流が発射される。

 比較的穏やかな波に、サーフボードを浮かべで体を預ける。そのままぐんぐん大きくなる波に乗っていった。

「おねえさま、ビッグウェーブが来ますよー」

 6メートルもの波がわたくしをめがけて走ってくる。高いビルのようにせまりくる壁をサーフボードで昇った。

 だけど、自然の力だけではこの波を乗りこなせない。サーフボードのフットスイッチで、ホースから出る水流を操り、波の壁に入った。皆からは、波に飲み込まれたみたいに見えるだろう。

「先輩、素敵ー」
「タイム様、華麗ですわー」

 だけど、訓練を一緒にこなしてきた皆は、わたくしがこの程度の波で失敗することはないと確信している。声援が羽のように、わたくしのサーフボードを空高く押し上げてくれる。

 波の頂上に乗ると、地上がはるか下。皆やコーチがやけに小さい。落ちたらひとたまりもないにちがいない。でも、怖いという気持ちはなかった。

「さあ、次にここに立つのは誰?」

 皆を挑発するように叫ぶと、全員がやってこようとする。大混戦が始まり、ひとり、またひとりと脱落していく。

 そして、見事に大波を制してわたくしの横に来たのは、カエリズミだった。

 きらきらかがやく水の乱反射が眩しい。ずぶぬれの子たちが、水面に浮かんでわたくしたちを見上げていた。

「おねえさま、私、キュービクルにおねえさまと乗りたいです。そして、私たちの力で、シロアリたちに引導を渡したい」
「カエリズミ……」

 それは不可能なことだ。わたくしは、皆の手を引き立たせる役目であり、キュービクルの中にはいることはない。その軍部の命令は知っているはずなのに、カエリズミは不敵な笑みを浮かべて、絶対にわたくしと一緒にアリの巣に向かうといい切ったのだった。
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