完結 R18 わたくし単なる悪女でございましたが、なぜだか巨大ロボットを操縦しています。

にじくす まさしよ

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夢は、夢 一部、本物の鞭、断頭台など残虐表現あります

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 ゆらゆら、とても心地の良い眠りについたはずなのに、肌に触れていた温もりが離れて体が冷えていく。もう一度だけ触れてほしくて、せめて手を握っていてほしくて手を伸ばしたいのに指先が1ミリも動いてくれなかった。

 どんどん沈みゆく意識は、ぐるぐると回り出し、幾度となく現れてはわたくしを不快にさせる夢の間に放り込まれる。

「タイム、お前とは長い付き合いだったな。その醜悪な性格に、いい加減うんざりしていたんだ。いつもいつも俺をバカにして小言ばかり。せいぜい、神の裾すら見えないほど地の底で、未来永劫悔い改めているといい!」
「……殿下、お願いですから最後にお姉様とふたりでお話をさせてください」
「おお、メガー。愛しい人よ。あの悪女と違って、なんと優しい。しかし、近づくのは危険だ。この期に及んでまで、何をしでかすか」
「いいえ。本当のお姉様はそんな人じゃないんです。何か誤解が重なってしまったに違いありません。今は悔い改めていらっしゃると思います。昔の優しかったお姉様を信じたいんです」

「何も、しておりません……」

 なんの茶番劇を見せられているのだろうか。世界ワースト10に入った、東の島国の一円よりも安いふたりの世界を、断頭台に首を嵌めたまま見上げていた。首と手首が固定されており、目線をあげ身の潔白を訴えただけだ。それが気に障ったのか元婚約者である王子が、わたくしを指さして大きな声をあげた。

「なんだ、その目は。本来ならば、妹であるメガーを暗殺しようとした罪で即刻処刑だったところを、今まで助けてもらった恩を忘れてにらみつけてくるなど。しかも、牢から再び私の愛しいメガーを再び暗殺させようと計画していたのはわかっているんだ。だというのに、何もしていないなど片腹痛い。目障りだ、処刑人、その大罪人に鞭を振り下ろせっ!」

 王子の命令に、断頭台の上部にある刃を固定している、わたくしの命の綱を握っていた処刑人が、腰につけていた鞭をしならせた。
 鞭の先が、ものすごい勢いで、わたくしの顔を撃つ。その最高速度はマッハに近いだろう。
 ものすごいうねりと風圧、そして衝撃が、わたくしの口元をかすめた。

「ぐはっ!」

 顔が裂け、口の中が切れ、抜けた歯とともに血を吐く。

 王子は、こういう罪人に処刑人たちが振るう本物の鞭を知らなかったようだ。それもそうだろう。王族だから、せいぜい、彼が悪さをしたり勉強不十分であっても、家庭教師はペチッと当てるふりをするくらいしかされたことなどないのだから。
 あのしつけのための鞭ですら、本気でやられたら肌が腫れあがる。それを教育の一環で一度はされたことのある貴族の大部分がしっているのだが、彼にとって鞭とは恐怖ではあるものの脅威とはならないくらいの感覚だったに違いない。

 わたくしが、今、ものすごい音とともに血まみれになったことを見て、王子はこれ以上見ていられなくなったのか、メガーを連れてここから去ろうとした。

 あまりのことに、命令したのは自分だというのに直視できないのだ。いずれこの自分の言葉の結果からすぐに逃げる男が王になる。王妃になるべく生きてきたわたくしは?この国の行く末が少し心配にもなるが、もうどうでもよかった。

 夢の中だから、痛みは感じない。だけど、わたくしは牢に入れられてからの苦痛を覚えている。実際は痛くないのに、身も心も引きちぎられるような痛みが全身を囲んでいるような気がした。

「やって、ない……」

 果たして、今発した声は声になっていたのかどうか。その声を聞いて、遠くに連れて行こうとする王子の手を振りほどいて、メガーが泣きながらわたくしの側にやってきた。

「お姉様……どうか、もうそれ以上は嘘を重ねないでください……証拠も証言もいっぱいあるんです……」

 妹に対して、暗殺を企てたことなどない。生まれた時から決まっていた、王子の婚約者として恥じないように、日々研鑽を積んできた。

 勉強や公務が嫌いな王子のために、彼の分まで頑張ってきたというのに、わたくしが多忙な中、甘やかされて育った妹と彼は愛を育んでいたようだ。
 それならそれで、早く相談してくれれば、妹と彼が結ばれるように配慮をしただろう。だが、彼らが選んだのは、わたくしを貶めてから結ばれるという、安い恋愛劇だった。

 わたくしは、常日頃から周囲に人がいたため、ない罪を作り出すことが不可能だったのだろう。だから、妹を虐待して暗殺しようとしていたという、軽くつつけばボロがでるような嘘の証言や稚拙な証拠だけで、わたくしは大罪人として投獄されることになった。

 その時になってようやく、王子自身の目の上のこぶになった、国家の機密事項も知りつくし、横領などをしていた大貴族の罪を暴いていったわたくしが、国王陛下がたや両親にとっても目障りになっていたのだと気づく。

 何をどうあがいても、この国にいるかぎり遠かれ早かれ、わたくしには生きる場所などなかったのだ。

 そう悟ったわたくしに、誰一人として手を差し伸べてはくれなかった。わたくしは、自身の基盤を作ったと思っていたのだが、それはすべて借り物だった。だから、周囲に味方がいるものだと勘違いしてやり方を間違えたのだ。

「ふ……ふふふ……ごふっ 誰も信じずに、目を閉じて口を閉ざし、耳を塞いでいればよかったというの……?」

「お姉様? 何を仰っているの? もう黙って」

 いや、そんなことはできない。たとえ生まれ変わったとしても、国を食いつぶそうとするシロアリのような彼らを許すわけにはいかないと奔走するだろう。

「お姉様、いい加減口をチャックなさって? しつこいですし、このごに及んでみっともないですわ。ふふふ、国一番の美女と謳われたお顔が、グッチャグチャ。よくお似合いですわぁ」

「メガー……?」

「ま、最後まで否定されていても、だーれもお姉様のことなんて信じませんけど。かがんでいるのも腰が痛くなっちゃった。あーあ、せっかくのドレスアップがお姉様の血でドロドロになっちゃたじゃない。ふふふ、でもいいわ。もっと豪華で素敵なドレスを殿下に贈ってもらっちゃお。あ、お姉様はそんな贈り物なんてなかったんでしたっけ」

 妹の、わたくしだけに聞こえる小さな声に、あからさまなトゲが生まれた。しかし、次の瞬間、そのトゲが一切なくなり、優しく、そしてわざとらしく大きな声を出した。

「お姉様! ああ、やっと認めてくださったのですね! ええ、ええ。やむを得ない事情があり暗殺者を雇ったのはわかっていますわ。でも罪は罪。どうか償ってください……うう……」

 わたくしの声が周囲に聞こえないのをいいことに、メガーはわたくしが罪を認めたと、泣きながら大声で叫んだ。その瞬間、この様子を見ていた観衆たちがひときわ大きな声でわたくしを責め立て、妹たちを哀れみ彼らの純愛を応援する。

 ふたりが安全で遠い場所に行くと、王子が手を上げ処刑人に合図する。いよいよ、最後の時が来たようだ。

 メガー、今は勝ち誇っていればいい。でも、次にここにいるのは、きっとあなたたち……

 そう、国民も馬鹿ではない。王侯貴族が好き勝手にして革命が起こった隣国のように、連日この場所に誰かが来ることになるだろう。



 もしも、生まれ変わるのなら……

 人々が平和で裏切りのない世界がいい……

 そう思ったのが、あの世界での最後だった。

    
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