完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
69 / 71

プリメーラ ノイチ ※Rの始まり。まだ準備体操程度

しおりを挟む
 卒業式が無事に終わった。

「アイリス、卒業しても、私とこの人があなたを守ってあげるから。いつでも連絡頂戴」
「ありがとう、マニーデさん、ウォン。」

 ふたりは体を寄せ合い、彼らのご両親たちと帰っていった。

 ゴーリン会長は、王宮で騎士団に入るらしい。

「アイリス、また王宮で会おう。まだ下っ端だから、会えるかわからないが」
「ゴーリン会長、在学中は本当にお世話になりました。騎士として働く姿、楽しみにしていますね」

 ゴーリン会長と短い会話を交わす。すると、ジョアンがすっ飛んできてわたくしを抱きしめた。

「ゴーリン、おめぇはさっさと帰れ」
「ジョアン、君との決着は社会に出てからだね」
「職種が全然違うだろうが」
「直接戦うことだけが勝負じゃないさ。結婚は負けたようだけど」
「やっぱり、おめぇ、人畜無害のふりして、アイリスを狙ってやがったな?」
「俺達の種族は、守るべきものを愛するからな。だが、アイリスは強くなった。俺が守るような女性ではない。それに、ずっとジョアンがいたじゃないか。俺の割り込む隙はなかったよ。俺の運命の相手は、これから見つけるさ。アイリス、結婚式には呼んでくれ」

 そう言うと、颯爽と帰っていった。そんな彼に、女子たちが群がる。騎士になれば、さらにモテモテになるんだろうなと思っていると、お母様から声をかけられた。

「じゃあ、しばらくこっちに?」
「ええ。この国に来るは初めてなのよー。食べ物も美味しいらしいし。近々、獣王とお会いするんでしょう? 母親が一緒に行かなきゃね。実はね、カガル王子が小さな頃、国に来られたことがあったのよ。その時、一度だけ遊びのお相手になったことがあってね。当時は小さくても美形だったわ。今は、ものすごくイケメンで優秀だって。その子供たちを、あわよくば見せて貰うつもりよ」
「私は、マインが王子に失礼をしないかお目付けで。王子や妃殿下、お子様がたに、祝福の魔法を授ける仕事もあるんだ。アイリスちゃんも、会えると思うぞ」

 アルカヌム様とお母様は、もともと知り合いだったしとても仲が良い。つくづく、どうしてあの人と結婚したのか不思議だった。
 お母様は、興味本位で無茶をするようだ。カガル王子は、数年前にご結婚されていて、小さな子供たちがいっぱいいるらしい。

(チビカンガルーたちかぁ。わたくしも、会いたい)

 無事に、お義父様とお義母様とも仲良くなったみたい。ふたりと挨拶を交わしたあと、数日はジョアンの家に泊まることになった。

 コモリ君とフクロ君は、ジョアンと一緒に遊んでいる。というよりも、いつの間にか、ジョアンふくめて乱闘騒ぎに巻き込まれてしまった。小規模の戦いのような中で、いろんな学生たちに、お遊びで放り投げられたりしてはしゃいでいる。

 楽しくて幸せで、このままでいたいなんて思っていると、そろそろお開きのようだ。わたくしも、お母様たちとジョアンの家に向かおうとしたところ、ジョアンに引き止められた。

「アイリス、俺達はこっち」
「おれたちじゃなくて、にいちゃんだけいっていーよ」
「おねぇちゃんは、ぼくたちといっしょだもんねー」
「え? ジョアン、帰らないの?」
「俺達は、ホテルに泊まる。予約しているんだ。お前らはさっさと帰れ」

 別行動したがるジョアンに、ちびっコアラたちが足元にまとわりついてきた。嬉しくて、しゃがんで彼らを抱っこすると、とても嬉しそうにぐいぐい体ごと押されてしまう。

(これは、たしかに小さい子たちだけど、凄いパワー。ジョアンが注意するはずだわ)

 今のわたくしは、ジョアンの魔法を借りている。以前の、無力な状態だったら、彼らに押し倒されて、もしかすると骨も折ったかもしれない。

「こらこら。コモリ、フクロ。ジョアンたちの邪魔をしちゃダメだ。数日後には会えるから行くぞ」
「えー、とうちゃん、なんでだよー。おねぃちゃん、おねぃちゃんは、ぼくたちといたいでしょ?」
「とうちゃんは、にいちゃんのみかただったか。ぼくたちにねがえって、おねーちゃんだけつれていこー!」
「ふふふ、あのね。ふたりとも赤ちゃん見たくない?」
「え、どこどこー? あかちゃんどこー?」
「かあちゃん、あかちゃんをどこにかくしてんだー」

 ふたりの興味が、赤ちゃんに移った。わたくしも、ベビーコアラを見たくて、そわそわしながら会話を聞く。

「赤ちゃんは、ジョアンとアイリスがこれから作るのよ。はやく会いたかったら、邪魔しちゃダメ。わかった?」

(赤ちゃんって、わたくしたちの子ってことー?)

 お義母様の言葉に、恥ずかしくなった。顔が熱い。全身から、湯気がでそうなほどのことを、獣人たちは平気で言う。それこそが、本能であり習性であり、誇るべき姿だから、彼らは、人間が恥じらう理由がわからないそうだ。

「どういうことだー」
「いみわかんねー」

 お義父様が、笑いながらふたりを抱っこした。

「そのうちわかるさ。大人になったらな。ほら、家に帰ろう」
「いっつもそれ。おしえてくれたっていいのにー。けーち。はやくおとなになりたーい」
「くそ、こどもだからってはぐらかしよって。きょうのところはしかたあるまい」

 賑やかな一団が家路を急ぐ。それを見て、ジョアンがやれやれといった様子で、わたくしの左手を握った。

「アイリス、俺達も行こう」
「ええ」

 これからのことを考えると、足が地についていないかのようにふわふわする。ドキドキしすぎて、心も頭もぐちゃぐちゃだ。

 気がつけば、高級なホテルの最上階にいた。完全に記憶が飛んでいる。

「アイリス、もう待てない」
「あ、ジョアン……」

 ジョアンは、わたくしが魔法を使えるようになって、物凄く喜んだらしい。魔法を使えないわたくしと、一瞬でも肌を合わせれば、理性が効かないのがわかっていた。自分がわたくしに保護の魔法をかけ続ける自信がなかったようだ。

「指輪に込めてある守護の魔法も、タガが外れた俺の力からお前を守ってくれるかどうか怪しいし」

 そう言いながら、左手にある指輪を優しくさすりながら、何度も何度もキスをしてきた。

「アイリス。俺の、色だな」

 魔力や指輪だけでなく、髪の色まで彼に染まっている。今のわたくしの全てがジョアンのものになっていることが、殊の外嬉しそうだ。

「あ、ジョアン、シャワーを……」

 朝からずっと卒業式だった。しかも、至近距離で乱闘騒ぎがあって、ふたりとも埃や壊れた床材や壁材が被っている。
 わたくしが、一旦待てを宣告すると、ジョアンはぴたっと止まった。返事がない。

「あのね、わたくしたちの初めての時だから、きれいでいたい」

 それに、わたくしも早くあなたとシタイの

 恥ずかしすぎるけど、ささやき声くらいの小声で伝えた。

 マニーデさんたちから、男はこう言うと喜んで言うことを聞くと教えられていた。逆効果で、抵抗する間もなく襲いかかられるかもしれないけどって、彼女たちは笑っていた。

(ジョアンはどっちだろ?)

 ちらっと彼を見ると、天井を向いていた。表情はわからないけど、首筋まで真っ赤になっている。効果は抜群のようだ。

「…………わかった」

 長い沈黙のあと、ジョアンがひとことそう言った。わかってくれたと喜んだもの束の間で、そのまま抱きかかえられシャワー室まで連れ去られたのである。 



 

primeira noite─プリメーラ ノイチ:初夜
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...