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39 外れガチャの花嫁
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「全く、何しに、ここに戻ってきたんだか。皆の迷惑だってわからないの? しかも客室のベッドで眠っているなんて、図々しい。ほんっと、何様ですかぁ? ほら、さっさと来なさいよ。戻ってくるなり、あんたを呼びに行けとか。旦那様も、私を何だと思ってるのよ。ほんと、疫病神もいいところね。まさか、火事を起こしたのはあんたなの? ふん、しっかり罰を受けて貰わないとねぇ?」
溜息とともに、心底嫌そうにぐちぐち文句を言われた。相変わらずの対応に、失笑しそうになる。
執務室から、ひそひそ声が聞こえた。
(中にいるのは、ジョアンたちや、侯爵とクアドリ様と、あとはお義母様にラドロウまで?)
彼女の話だと、侯爵とクアドリ様以外の人間は、別の場所に一時避難をしていたようだ。
(道理で、人がひとりもいなかったはずよ。恐らく、ふたりでことを成したあと、邪魔なわたくしたちの死体をどこかに隠してもらうつもりだったのね……)
どこまでも卑劣で卑怯な人たちなのだろう。バックの人物がいれば、いとも簡単に人間などこの世から消すことができると思える彼らにぞっとする。
「それにしても、奥様ったらどうして慌てていたのかしら? いつもより、ご不安そうだったわ。ああ、お前がいるからね。不幸しか呼ばない穢れた子が」
今のところ、目の前の侍女長は現状を全く知らないようだ。
(きっと、おじい様やお母様たちが、しらみつぶしに余罪も洗い出しているのね)
「あんた、まさかクアドリ様をラドロウお嬢様から奪おうとしているんじゃないでしょうね。ブスで根暗なあんたが、おふたりの仲をさけるとでも?」
(クアドリ様。そういえば、そんな人いたわね)
今、わたくしの左手にはアクアマリンの指輪はない。
あの時、職人さんが言っていたように、魔法を使ったことで砕け散ったのだろう。
(ジョアンが、指輪のかけらを足で踏んづけて、さらに粉々にしちゃってたわね)
ふふふ、と、ジョアンのあの時の様子を思い出して笑みがこみ上げた。それを見て、とうとう気が触れたかと彼女が嫌悪感丸出しで後退りをした。
執務室の中から、侯爵の声もする。彼は、ジョアン達によって拘束されているから、わたくしに危害は加えないだろう。けれど、長年にわたって染み付いた、彼への嫌悪感や恐怖がどうしても体をこわばらせた。
(この場所が、あの人が怖い。また、睨まれて怒鳴られるのかしら……ううん、そんなことないはずよ。だって、ジョアンがいるもの)
肝心の彼が何かを話しているようだ。会話をよく聞こうと耳をすませた。すると、とんでもない言葉が耳に入ってきたではないか。
「外れガチャもいいところだな。俺の花嫁は、こちらがどんな思いを抱えているのか、少しもわかっていないんだ……。わかっていれば、こんなところに来るなんてふざけた事を言うわけがない。こちらとしても、来たくなかった。だが……」
その瞬間、お母様との再会や、魔法を使えたことの喜びが一瞬で消える。やはりというか、やっぱりというか。
(魔法を使えたのは、お母様の力を借りだけだもの。お母様がいなければ、わたくしは無能のまま。ジョアンだって、もっと強い女の子が良いに決まっている)
あの魔法を、おじい様は兵器だと言った。たしかに、お母様は体力も魔力も消耗させることなく、わたくしにそれを貸してくれただけ。そして、その借り物を。自分の魔力を使って発動した。
つまり、条件さえあえば、わたくしという兵器を使えば、どんな魔法でもやりたい放題。白い髪の人間の数が多ければ多いほど、魔法を貸す側はノーダメージで戦争だってなんだってできる。
(ああ、そうか。無能じゃないんだったわ。わたくしは、有能とか無能とか以前に、単なる道具なのよ。なのに、人間と同じように幸せになりたいだなんて)
ジョアンの優しさに甘えきったバチがあたったのだろう。
彼の本心は、わたくしは外れガチャだったんだと、心が軋む。そこから先はあまり良く覚えていない。侍女長が止めるのを振り切ってその場所から逃げた。
プロローグと同じ場面なのでかなり簡略化しております。
溜息とともに、心底嫌そうにぐちぐち文句を言われた。相変わらずの対応に、失笑しそうになる。
執務室から、ひそひそ声が聞こえた。
(中にいるのは、ジョアンたちや、侯爵とクアドリ様と、あとはお義母様にラドロウまで?)
彼女の話だと、侯爵とクアドリ様以外の人間は、別の場所に一時避難をしていたようだ。
(道理で、人がひとりもいなかったはずよ。恐らく、ふたりでことを成したあと、邪魔なわたくしたちの死体をどこかに隠してもらうつもりだったのね……)
どこまでも卑劣で卑怯な人たちなのだろう。バックの人物がいれば、いとも簡単に人間などこの世から消すことができると思える彼らにぞっとする。
「それにしても、奥様ったらどうして慌てていたのかしら? いつもより、ご不安そうだったわ。ああ、お前がいるからね。不幸しか呼ばない穢れた子が」
今のところ、目の前の侍女長は現状を全く知らないようだ。
(きっと、おじい様やお母様たちが、しらみつぶしに余罪も洗い出しているのね)
「あんた、まさかクアドリ様をラドロウお嬢様から奪おうとしているんじゃないでしょうね。ブスで根暗なあんたが、おふたりの仲をさけるとでも?」
(クアドリ様。そういえば、そんな人いたわね)
今、わたくしの左手にはアクアマリンの指輪はない。
あの時、職人さんが言っていたように、魔法を使ったことで砕け散ったのだろう。
(ジョアンが、指輪のかけらを足で踏んづけて、さらに粉々にしちゃってたわね)
ふふふ、と、ジョアンのあの時の様子を思い出して笑みがこみ上げた。それを見て、とうとう気が触れたかと彼女が嫌悪感丸出しで後退りをした。
執務室の中から、侯爵の声もする。彼は、ジョアン達によって拘束されているから、わたくしに危害は加えないだろう。けれど、長年にわたって染み付いた、彼への嫌悪感や恐怖がどうしても体をこわばらせた。
(この場所が、あの人が怖い。また、睨まれて怒鳴られるのかしら……ううん、そんなことないはずよ。だって、ジョアンがいるもの)
肝心の彼が何かを話しているようだ。会話をよく聞こうと耳をすませた。すると、とんでもない言葉が耳に入ってきたではないか。
「外れガチャもいいところだな。俺の花嫁は、こちらがどんな思いを抱えているのか、少しもわかっていないんだ……。わかっていれば、こんなところに来るなんてふざけた事を言うわけがない。こちらとしても、来たくなかった。だが……」
その瞬間、お母様との再会や、魔法を使えたことの喜びが一瞬で消える。やはりというか、やっぱりというか。
(魔法を使えたのは、お母様の力を借りだけだもの。お母様がいなければ、わたくしは無能のまま。ジョアンだって、もっと強い女の子が良いに決まっている)
あの魔法を、おじい様は兵器だと言った。たしかに、お母様は体力も魔力も消耗させることなく、わたくしにそれを貸してくれただけ。そして、その借り物を。自分の魔力を使って発動した。
つまり、条件さえあえば、わたくしという兵器を使えば、どんな魔法でもやりたい放題。白い髪の人間の数が多ければ多いほど、魔法を貸す側はノーダメージで戦争だってなんだってできる。
(ああ、そうか。無能じゃないんだったわ。わたくしは、有能とか無能とか以前に、単なる道具なのよ。なのに、人間と同じように幸せになりたいだなんて)
ジョアンの優しさに甘えきったバチがあたったのだろう。
彼の本心は、わたくしは外れガチャだったんだと、心が軋む。そこから先はあまり良く覚えていない。侍女長が止めるのを振り切ってその場所から逃げた。
プロローグと同じ場面なのでかなり簡略化しております。
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