完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

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「アイリス、どうした?」
「ジョ、ジョアン……わたくし、わたくしは……ごめんなさい、ごめんなさい。やっぱりわたくしは、人間という以前に、あなたの婚約者に相応しくなかったんだわ」
「いきなり何を言うんだ。相応しいとか相応しくないとか。わけのわかんねぇこと言うなよ。とにかく落ち着け」

 獣人の小童が、取り乱したかわいいアイリスを抱きしめている。なぜアイリスがこんな風になったのか、さっぱりわからなさそうだ。

 種族や習慣、価値観などが違いする獣人よりも、人間のほうがアイリスの今の気持ちが理解しやすいだろう。

「でも、でも……ああ、ジョアン、本当にごめんなさい。は、犯罪者の娘があなたと婚約しただなんて、ジョアンのご両親やコモリくん、フクロくんに、なんてお詫びをすれば……」

 獣人も、家族を大切にする。中には例外もあるが。特に、愛する人ならば尚更だ。たとえ、大虐殺を行った相手であったとしても、一度ペアだと認識すれば、一生離さない。ましてや、子供が産まれれば、命に代えても守ろうとする。監禁してまで手に入れようとする種族もいるほどだ。

 ジョアンたち獣人は、アイリスの父親が妻と安易に離婚し、ふたりの子である娘を追い出したことにも理解できないでいるのも無理はない。絶縁されたというのに、アイリスの心に、父の犯罪が自分のこと以上に重くのしかかっていることも。

 アイリスにとっても、ジョアンのその感覚がわかっていない。このままでは、ふたりの仲はこじれるかもしれない。

 ジョアンに塩を送るのは少々癪だが、かわいいアイリスのためだ。一肌脱いでやろうと思った。

「アイリス、まだあの男が違法なアイテムを作らせていた首謀者だとは決まっていない。まあ、クアドリとかいう子爵家のぼんくらは確実だろうが。ことがはっきりするまで、憶測で悪い方に悪い方に考えていては、真実を見誤るぞ。それに、ジョアンは、例えそれが真実だとしても、お前と離れんと思うぞ。お前が感じる必要のない責任を取ろうと思って離れようとしても、だ。そうだろう、ジョアン」

「ん? ああ、アイリスの親がどんな奴でも、アイリスはアイリスだからな。この国で犯罪者だろうがなんだろうが、俺たちがこれから暮らすオウトレスイリア国では、そういうことはマジ関係ねぇし。そもそも、なんだってアイリスが責任を感じるんだ? 親が子の罪に責任を感じるならともかく。お前は全然悪くねぇよ」

 ジョアンは、わしの言いたいことをわかってくれたようだ。少しばかりアイリスがどういう気持ちなのか察したのか、彼女にとって心強い言葉をかけた。それは、想定以上の効果があったようだ。アイリスの表情が、目に見えて和らいだ。目の前の脳筋小僧を見直した瞬間だった。

「おじい様、ジョアン……」

 アイリスのことをジョアンだけに任せるのは少々心もとない。だが、今のアイリスにとって必要なのはジョアンだけだろう。

「あー、わしはちょっと用事ができたから、アイリスはジョアンと休んでてくれ」

 姪のマインが嫁いだ先の男が、まさか違法なアイテムを作っていたとは、わしも思いたくはない。それに、アイリスの指輪を研究していて、ずっと気にかかっていた。気のせい、勘レベルの、違和感程度のものだったが、先ほどのペアリングで思い当たることがあったのだ。

「まさか、おじい様。おひとりで製作者たちのアジトに乗り込むんじゃ? 相手はどんな人たちかわかりません。危ないです」
「じいさん、抜け駆けはよしてくれ。乗り込むなら俺も行くからな!」

 ふたりが、特にジョアンについてこられたら迷惑だ。邪魔でしかない。これからしようとすることが台無しになるだろう。

 指輪がある以上、深い仲になるのはアイリスが危険だからジョアンも先走りはしないだろうし、ふたりっきりにしてやろうとも思っていた。とにかく、わしの、ついてくるなという思いが一切届かなかったようで肩を落とす。

「いや、わしももう年だからな。そんな無茶はできんよ。クアドリと会う約束の日まで、まだ少し日がある。ただ、もう少し調べたいことができた。どうにもひっかかることがあるんだ。乗り込むのはそれからだな。今のうちに英気を養っておいてくれ」

 なんだかんだと言い含めて、わしは古い知人に連絡を取ることにした。

「久しぶりだな」
「全くだ。お前が国を出て行ってから、大変だったんだぞ」

 互いに年を取ったと笑い合う。悪友から、わしがいなくなってからのことを色々聞くうちに、何点か想定外のことがあった。

「まさか、あいつの工房がつぶれちまったとはな。あの男の作るものは最高級品だったから、金持ちの得意先がいっぱいだったはずだが」
「お前が国を出て行ってから、経済的に困窮した店などがたくさんある。わざとつぶされたところもあるようだ。ま、トップがうまく立ち回っているところは助かってるし、全てがお前のせいだけというわけではないがな。お前がこの国にいれば、つぶれずに済んだところがたくさんあっただろうさ」
「そうか……」

 つぶれた工房のひとつには、凄腕の魔法細工師がいた。そいつの才能は舌を巻くほど抜きんでいて、アイリスの指輪を作れるのもそいつレベルの魔法使いが必要だと思っていた。
 正義感たっぷりの頑固なやつが、違法なアイテムを手掛けるとは考えられず、リストから外していたのだが、悪友の話から、そいつとクアドリのつながりが見えた。

「クアドリとかいう若造がいくつも工房や会社を倒産させ、低賃金で働かせているのは有名な話だ。これは、噂レベルなんだが、酷いところは家族を人質にして、違法なアイテムを作らせているんじゃないかって」
「まさか……たかが子爵家の令息ごときが、そんなことできるはずがないだろう? さすがに荒唐無稽すぎて寝物語にすらならんぞ」
「それが、お前をハメたやつが、そいつみたいな若造たちのバックについているらしい」
「なんだって? お前、それをわかっていて見過ごしていたのか?」
「さっさと国を見捨てたお前には言われたくねぇな。私もだが、仲間たちにも守らなければならないものがある。公の機関の一員でもないのに、なんだって無関係のやつらを助けなきゃいけねぇんだ。私たちは慈善団体じゃねぇぞ」
「……」

 悪友の言葉はもっともだった。わしとて、アイリスのことがなければ、一切手を出さなかったにちがいないのだから。

「なんだよ、やけにくわしく話を聞きたがるじゃねぇか。こういう話には興味なかっただろ?」

 わしは、味方にすれば敵なし、敵にまわせば厄介な男に、アイリスやマイン、そして指輪のことを話した。

「別に、国のために違法組織を根絶やしだなんだするつもりはない。ただ、わしはアイリスが幸せになってくれれば、それでいい」
「……そうか。いや、国家のためとか鳥肌ものの話ならともかく、なんともお前らしい理由だなぁ」

 悪友の顔は、かつて一緒に仕事をしていた時のように、心底面白そうに笑っていた。

「手伝って、くれるのか?」
「まあな、お前には借りがある。それに、今回のターゲットは小物だけだろ?」
「ああ。国の膿を出すなんてめんどくさい。わしは、目の前の火の粉を払うだけだ。そのくらいのことなら、あいつはわしらには手を出さんだろう」
「はは、なら決まった。最近退屈だったんだ。久しぶりに大暴れできるな」

 どうやら、ジョアンのような血気盛んなやつがここにもいたようだ。わしと悪友は、先ほど判明した職人たちの居場所に向かった。

 


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