完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

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28 マイン

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 冬季休暇が終わり学園に戻った。皆、相変わらず元気いっぱいで、久しぶりの再会を喜ぶ。

 マニーデさんたちから、含みのある笑顔で、ジョアンの家での様子を聞かれたけれど、特に何もなかったと伝えると残念そうに肩を叩かれた。

「え? マニーデさんがウォンと? え? いつの間に??」 

 偶然にも、年末にふたりは出会ったらしい。そしてそのまま一緒に過ごしたという。あれほど、ゴーリン会長一筋だったのに、どうしたことかとびっくりした。
 
「ウォンとはペアだったから、ゴーリン様のことを聞いてもらっていたのよね。そうしているうちに、なんとなく?」
「そうなんだ。ウォンもやるわねぇ」
「ウォンがマニーデに気があるのはバレバレだったし」
「そうかな?」
「そうよ! これで、本当の意味でね。おめでとう!」

 ウォンがマニーデさんを好きだったということに、わたくしはちっとも気づかなかった。皆のはしゃぐ会話を、驚きと嬉しい気持ちで聞いていた。

 ウォンを思い出して、とても優しい笑みを浮かべる彼女がとても幸せそうで可愛らしくて。マニーデさんとウォンのことで盛り上がった。



 わたくしはというと、ジョアンのご両親から紹介された研究所に、週一で通うことになった。学園と研究所、二重の生活は思った以上に辛い。フラフラして、しょっちゅう船を漕ぐわたくしを見て、毎週のように付き合ってくれるジョアンが、もうやめろと何度も言ってきた。けれど、簡単には諦められない。
 それに、あの指輪の認識阻害の魔法を、研究所の魔法使いにかけ直してもらっていたのも大きい理由だった。

 わたくしの目的は、自分のためにも人々のためにも呪いを解呪する方法を見つけること。そして、その方法を発表してオウトレスイリア国の国王陛下に認められること。それによって、この国の永住権を得ること。それが最終目標だ。

 タイムリミットは、卒業までの短い期間。
 それには、来年の夏の学会に間に合わせなければならない。あと一年と少しで成果を出せるのかどうか、自信はないけれど、頑張るしかなかった。

 やはりというか、母国の調査は難航しているようだ。クアドリは、すでに侯爵家の一員のような扱いになっており、やすやすと調査が出来なかった。これが、子爵家の令息という立場だけなら話は早かっただろう。
 どこかにあるはずの工房についても、いくら探しても見つからないのだという。そもそも、貴族である彼や侯爵家に対して、厳正な捜査をしているのかすら怪しい。

「絶対に、自分で解呪しないと……! アイリス、頑張るのよっ!」
 
 パンッと頬を軽く叩いて、自分で自分に激励する。すると、ジョアンが少し赤くなった頬を見て慌てふためくのだった。

 分厚い古い書籍を読み解くのは、難解パズルのようで楽しい。それに、思わぬ嬉しい話を聞くことができた。

「では、お母様をご存じなのですか?」
「ああ。マインはわしの兄の子、つまり姪であり、弟子だったんだよ。だから、アイリス、お前はわしの孫も同然だ。よく顔を見せておくれ」

 研究所の所長は人間で、もとはラストーリナン国にいたのだという。そこで名のある魔法使いとして、研究に明け暮れていた。だが、その座を狙う高位貴族にはめられて国を追い出されたらしい。
 彼は、お母様は侯爵家で幸せに暮らしているとばかり思っていたようで、わたくしことや、お母様の行方がわからないことを知るとびっくりされた。

「なんだと? あの男がマインとどうしても結婚したいからと申し出たというのに。そもそも、白い髪の迷信など、信じそうないあの男が、そんな理由でマインを追い出しただと? しかも、すぐに別の女と子を設けただなど…… おのれ、よくも大事な姪を……」

 母方の祖父母ははやくに鬼籍に入っていた。だから、お母様の保護者は、祖父の弟である彼だったようだ。怒り心頭で、興奮しすぎて倒れそうになり慌てた。

「大丈夫ですか? どうか、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかっ! せめて、離婚して追い出すなら追い出すで、わしに一言でもあったのなら、こんなことにはならなかったのに。小賢しいあの男のことだ。こんなことは秘密にしたかったのだろうが。アイリス、すまん。わしがあの国から出たとはいえ、もっと気にかけてやっていれば……」
「いいえ。あの、わたくし、コーラボ・ラドレス様にお会いできて、とても嬉しいです」
「わしは、兄やマインと違って家庭を持たなかったからな。お前が唯一の血縁というわけか……。それにしてもアイリス、優しくきれいな子に育ったのぉ。マインにそっくりだ」

(わたくしが唯一の血縁……おじい様は、お母様がお亡くなりになっていると思ってらっしゃるのね……)

 わたくしは、ずっと思っていたことをおじい様に打ち明けた。

「おじい様、わたくし、お母様がどこかで生きていらっしゃると信じているんです。なんとなくなんですが、そんな気がして。ですから、この国の永住権を得ることができれば、お母様を探しに行こうと思っているんです」
「アイリス……そうか。そうだな……諦めるにはまだ早いな。年寄りは諦めが早くてこまる。アイリス、じいちゃんは、この研究所からあまり出られなくてな。アイリスがしたいことを応援するからな」
「はいっ!」

 わたくしは、ひとりぼっちじゃない。ジョアンがいて、ジョアンのご家族や学園のみんな。そして、とても頼もしい血縁がいたのだ。

(なんて幸せなことだろう……)

 まだまだ前途多難で、一筋の光も見えそうにないと思っていた。

 皆の、わたくしを応援する気持ちが、前に進む力をくれる。どんなに辛くても、きっとこの指輪を外して、そして、きっとどこかにいるお母様と会うんだと改めて誓ったのである。

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