完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
46 / 71

27

しおりを挟む
 過保護すぎるジョアンと共に、平穏な毎日を過ごしていると、ジョアンが言っていた通り、翌週にご両親が帰ってきた。せっかくのふたりきりの時間が終わったことに、残念に思う。

「おねーちゃああああああんっ! ねてるあいだにはなればなれにされちまって、さぞかしさみしかっただろー?」
「おねぃちゃーーーーーーーん! やっとかえってきたぜー! もう、にどとはなさないからなー!」
「フクロくん、コモリくん、おかえりなさいっ!」

 ちびっコアラたちが、ぴょーんと飛んでくる。反射的に、両手を広げてみたものの、ものすごい勢いで、このまま受け止めたいけれど、その瞬間吹き飛ばされると覚悟した。

「お前ら、待てっ! ハウスっ!」
「ぎゃっ! にーちゃん、いきなりくびのうしろをつかむとか、ひどいぞー」
「ぎゅっ! にーちゃん、くるしいから、ギブギブ、ギブだってー。かわがのびるー!」

 ちびっコアラたちは、ジョアンに邪魔されてわたくしに触れることはなかった。ご両親からも注意されて、しょんぼりした彼らもたまらなくかわいい。

「アイリス、無事だったようだな」
「あれから熱を出したんですって? もう大丈夫なの?」

 ご両親も、ジョアン以上に過保護のようだ。ほんの少しの体調不良だったのに、生死の境をさまよって生還したかのように心配された。

「ご心配おかけしました。この通り、元気です!」
「なんてことだ。そんなにやせ細って……」
「お土産をたくさん買ってきたから、たくさん食べなさいね」

 力こぶを作ったけれど、獣人の彼らにくらべたら赤ちゃんの腕の筋肉もないのだろう。ますます心配された。

 ちびっコアラたちが、ユーカリの木でお昼寝を始めると、ご両親から大事な話があるとリビングに座るように促された。

 遅くなったが、互いに新年の挨拶を済ませると、左手を見せるように言われた。

「うん、出かける前に施した魔法がまだかかってるな。ジョアン、お前が用意した指輪も効果があったようでなによりだ」
「そうね。でも、やっぱり効果が半減しているようね。かけなおしましょう」

 何の話をしているのかさっぱりわからない。でも、ジョアンを見ると力強く頷いている。そのまま、ご両親が左手の薬指付近に、何らかの魔法をかけるのを見守った。

(そういえば、年始の時以来、アクアマリンの指輪のことを忘れていたわ。左手だって何度も見ていたのに、どうしてかしら?)

 わたくしは、ご両親がかける魔法の光を見つめる。そこには指輪があったはずなのに、視界はモヤがかかっているし、不思議と認識そのものがしづらい。そもそも、あれほど見ていたはずの指輪の色すら、はっきり思い出せなかった。どういうことだと首をかしげる。

「アイリス、その左手にあるのは、元婚約者から贈られたもので間違いないか?」
「え、ええ……そうですけれど」

 わたくしは、アクアマリンの指輪にかけられた、魅了効果のある精神を強制的に操る呪いのことを聞き驚愕した。王都には、わたくしがかけられた呪いに関する魔法や、その解呪の方法について調べに行ってくれていたらしい。

(まさか、指輪を見ただけで、あの人を恋しいと思う呪いだなんて。だから、わたくしはあんなにもクアドリ様のことを想っていたのね)

 どうりでおかしいと思っていたのだ。たった数回しか会ったことがない、しかもわたくしをまともに見もしなかった彼を愛しく思うなんて。

「あ、アイリス。その指輪や元婚約者を考えるのはなるべくやめてくれ。深く考えれば考えるほど、俺がかけた認識疎外の魔法の効力が弱まるから」
「あのね、アイリス。その指輪を簡単に外したり、解呪したりはできないらしいの。そういった類のアイテムは、製作者かつけた人物にしか外せないようよ」
「聞いたことがあります。かつて、戦時中に人々を完全にコントロールするために研究されたものですよね。たしか、無理に外そうとすれば人格破壊をもたらすトラップが発動するから、昨今では作ることは禁止されているはずですけれども」

 以前読んだ古い文献には、一度つければ永久的に人を操る強力な呪いのアイテムがあったと書かれていた。そんなものが自分に着けられていたなんてと、ぞっとして体が震える。

 隣に座っていたジョアンが、わたくしを左手のそれから守るように、ぎゅっと手を握った。そっと体を寄せて、大丈夫だと力強くはげましてくれた。

「今は俺がかけた魔法のおかげで、それらを認識することはできないだろう? その魔法が働いている間は大丈夫だと思う」
「ただ、その魔法は長く続かないの。定期的にかけなおす必要があるわ。ペアのジョアンが使えればいいのだけれど、知っての通りジョアンは魔法が苦手だから……。それに、そんなものを、うちの大事なアイリスの指につけさせておくわけにはいかないわ」

 ご両親は、魔法使いの知人を通して、ラストーリナン国に違法のアイテムが作られていることを報告したという。

「あの国も、まさかオウトレスイリア国に留学したアイリスに、いわば国の恥部ともいえる非道な違法アイテムがつけられているとは思っていなかったようでな。早急に調査をすると約束してくれたようだ」
「出所ははっきりしているから、程なく製作者も見つかるわ。そうすれば、そんなもの簡単に外せる。それまで、それを身に着けておかなきゃいけないのは、とても嫌だろうけど……」

「……本音を言うと、とても恐ろしいし気持ち悪いので今すぐ取りたいです。でも、無理に外そうとすれば、下手をすれば、わたくしの精神が破壊されてしまう……でも、どうして今頃トラップが発動したのでしょう? 何度も指輪を見ていました。けれど、体調が悪くなるなんてことはなかったんです」

「それなんだが。アイリスの心に何らかの変化があり指輪の支配から脱却しようとした、つまり元婚約者のことを拒絶しようとしたか、もしくは、指輪に不具合が起きたかだろう」

(クアドリ様を、心から追い出そうとする変化……)

 そんなの、ひとつしかない。そもそも、クアドリ様を愛しいと思っていた感情すら、指輪に作られたものだったのだから。心から望んだのは、たったひとりだけ。

(わたくしの初恋は、ジョアン、あなただったのね……)

 初恋は実らないなんて、誰が言ったのだろうか。全くその通りだと、ツキンと胸が痛む。

 自分のことなのに、ジョアンやご両親にまかせっきりでいいわけがない。それに、一体いつまで、指輪に怯えて生きていかなければならないのだろう。

「調査が長引いたり、首謀者が逃亡すれば、ずっとこのままなのですよね? わたくし、自分でも解呪できないか調べてみようと思います」
「だが……」
「古代から研究されていたものですから、何か、手がかりがあるはずです。過去に苦しんだ大勢の人たちがいるように、こうしたアイテムに苦しんでいる人が、今この時にもわたくしの他にもいるかもしれません。こういうアイテムをつけた人物が、簡単に外すとは思えません。万が一、同じような被害者がいるのなら、自力で解呪できるようになればと思うんです。それには、学園の図書館では資料が足りません。どうか、わたくしをご友人に紹介していただけませんか?」

 わたくしの決意がかたいことを知ると、ご両親は知人に紹介してくれることになった。すると、王都の魔法使いたちがいる研究所に、この指輪の研究をする実験体としての名目で出入りを許されたのである。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...