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人間のペアに抜擢されたコアラ
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夜中に起きていたせいか、いつもより遅く目が覚めた。今日は家に帰ろうかと思っていたのだが、それどころではない。アイリスのことが気にかかり、実家には帰省が遅れる手紙を、配達人のカササギフエガラスに託した。
こいつは、白と黒のツートンカラーでいかつい見た目なのに、鳴き声はとてもかわいい。そのギャップが萌えるからと、宅配業者の中ではカササギフエガラス便が群を抜いて人気なのである。カササギフエガラス男子とかいう画集も販売されており、それは三年前のモソトセレクションベストセラー金賞に輝いていた。
「今日の夕方までに頼む」
「はっ、承知!」
人間の国の、ニンジャとかいう装束に似た彼らは、バズればなんでもいいとばかりに、人化した際はその国の民族衣装のニンジャ装束を着て、彼らの言葉のカッコいいと称される言葉を言う。その姿に憧れて、カササギフエガラス特急便に入職を希望する男子も多いらしい。
手紙を渡すと、煙玉とかいうものを弾けさせて目くらましをしたあと獣化して空を飛んでいく。油断すると煙が目と肺に入ってえらいめにあうのだが、それをご褒美だと喜ぶ女子もいる。
(あの頭巾の下は、いい年したおっさんだぞ? 仕事は超一流だが、あんなののどこがいいんだ?)
あれがモテる理由がさっぱりわからない。ますます、女子の謎思考がわからず嫌になる。
「疲れる……。さて、もうひとねむり…………じゃないっ!」
カササギフエガラス男子との短いやり取りだけでどっと疲れた。そのまま瞼を閉じようとしたが、アイリスのことを思い出して飛び起きる。
木の上から降り立ち、数時間前までいた医務室に向かった。
「お、ジョアン、いいところに。今からお前に会いに行くところだったんだ」
「……んだよ。ミストかよ」
「アイリスのことなら、リーモラ夫人が一緒だから大丈夫だ」
「な、そんな俺は! アイリスのことなんて、これっぽっちも、だな」
自分でも、なんであんな人間のことが気にかかるのかわからない。ただ、あのまま神のもとに向かいそうな存在を前にして、平静でいられないだけだと思う。途中で見つかったミストと一緒に向かったのは、Aクラスの教室だった。
(なんだよ、医務室じゃねーのかよ。って、俺はなんだって医務室なんかに……。アイリスはハリーの奥さんにまかせときゃいいだろが)
どうもおかしい。頭を振って、変になりそうな考えを追い払った。
「来年度の交流遠足の事なんだが……」
ミストの相談というよりも、ほぼ決定事項の内容が伝えられびっくりする。
「あいつとは、ゴーリンがペアを組むって決まってなかったか?」
昨年度の内に、ゴーリンがアイリスを次回の交流遠足に誘ったと聞いた。ペア組は、その時にもすでに決まっていたはずだ。
「それが……リーモラ夫人が聞いたところによると、アイリスは婚約を解消されたらしいんだ」
「な? 婚約解消?」
昨日、婚約していたことを聞いたばかりだというのに、それが解消されたとは。人間とは、一度決めたことをすぐに手のひらを反す嘘つき種だという噂は本当だったのかと開いた口がふさがらなかった。
「今までは、婚約者という我々にとっての番がいるアイリスだから、ゴーリンとペアを組んでも、女子生徒たちからはねたまれるがセーブが効いた面もあった。考えてもみろ、ゴーリンのファンがフリーのか弱くてかわいいアイリスが、あいつに世話を焼かれると、ほとんどの女子生徒や一部の男子生徒から、彼女が本気で睨まれかねないだろ? ないとは思うが、我々獣人は人間を番にする場合がある。万が一にも、ゴーリンがフリーになった彼女を番と決めたら、学園に血の雨が降るぞ」
(確かに、アイリスは、ひ弱で放っておいたら死んでしまいそうな人間の、しかも女の子だ。ゴーリンは清廉潔白で弱い者をとことん守ろうとするだろう。そんなゴーリンが、フリーのかわいい女子生徒にかいがいしく世話を焼きながら、一緒に険しい登山をするなど……)
そんな想像を始めると、胸が焼け付くようなもぞりとした感覚が襲う。イライラして仕方がない。
ゴーリンがさわやかに微笑んで、乗り越えられない彼女の腕をグイっとひく。思いのほか近づくふたりの距離。恥ずかしがって顔を真っ赤にしたアイリスに思わず見惚れるゴーリン。見つめ合ったふたりの距離が更に近づき……
「ダメだっ! ゴーリンとアイリスなんてペア、そんなの最悪でしかないだろっ!」
俺は、馬鹿馬鹿しい想像を振り払うかのように声を荒げてそう叫んだ。
「わかってくれるか? そうなんだよ、最強のゴーリンと最弱のアイリスのペアは、条件としては悪くない。なのに最悪なペアなんだ……。ふたりには他意はないだろうが、困ったものでな……。学園長も、アイリスのたぐいまれな学力を認めて、特例として奨学生の間は在籍を許された。ただ……去年のように交流遠足に出ないと、単位が足らず奨学生の条件から外れて退学をしなければならない」
「なっ……、なんでだ? 婚約を解消したって、アイリスは人間のえらい侯爵家の令嬢だろう? 身分も金もくさるほどあるはずだ」
「詳しくは話せない。今回、あんなことがあって初めて知ったのだが、アイリスは、もともと奨学生じゃなかったら学園に通えなかったらしい……。とにかく、こんな状況だ。交流遠足には彼女に出て貰って、半ばくらいでいいから成績を残して貰わないといけない。ゴーリンは、ひ弱で可憐な彼女を守るために、恐らく抱っこして進むだろう。コースは去年より楽にはしたが、人間には無理だからな。そうなったら、熱狂的ファンたちが彼女にマジで何をするかわからない」
ミストの話に首をかしげる部分はあるけれども、後半部分は納得だ。彼女が交流遠足に無事に耐えられるとは思えない。ただ……、
(ゴーリンがアイリスを抱っこする?)
なぜか、胸に業火が一瞬で燃え盛る。ゴーリンのさわやかなあの顔に、俺の自慢のクローをぶち込みたくなった。
そんな風に思ってしまって愕然となる。おかしい。
(いや、今後色んな男が触れるなど、相手がゴーリンだとしても、アイリスも嫌に違いない。彼女が転倒しそうになった時に一度は触れたのは俺ひとりだ。俺なら触れても大丈夫だろうがな、うん)
自分でもよくわからない持論で、あれこれ考えてしまう。なんだって、あいつが絡むとこんな風になるのだろうか。
「それが、俺と何の関係があるんだよ」
「そこで、実力No2の(ほとんどの女子生徒たちと半分くらいの男子生徒に嫌われている)お前とアイリス、ゴーリンとマッキーペアになる事が提案された。マッキーのほうが、アイリスよりはるかに強いのだが……。性別も♂だから、ファンたちも渋々納得するだろうし。獣人の中で最弱で逃走を得意とする彼だから、万が一ファンたちに追いかけられても大丈夫だろう。ジョアンだって、アイリスを抱っこして余裕で登山ができるだろう? マッキーのように、小さな獣化状態の獣人じゃないと無理なら、エクセルシスに頼むが」
(ジャンガリアンハムスター獣人のあいつは、獣化すればアイリスよりもはるかに小さくて、事故でもあれば、真っ先にぷきゅっと一瞬でつぶれちまう。そんなやつがアイリスとぺアになるなど、逆に彼女が守らなきゃならんだろうが)
「……ちっ。相談っつーか決定事項なんだろ。俺はマッキーだろうがアイリ……人間のあいつだろうがなんだっていい」
「うん。君ならそう言ってくれると思ったよ。あとでやっぱりいやだとか変更は受け付けないからね。交流遠足はまだ先の話だが、これからアイリスの事を頼んだよ?」
「……しょうがねぇな」
なぜか、胸がぞわぞわする。でも、それは気持ちが悪いようでいて、とても心地がよく、ミストが去って行ってからルンルン気分でユーカリの枝に戻り目を閉じた。
こいつは、白と黒のツートンカラーでいかつい見た目なのに、鳴き声はとてもかわいい。そのギャップが萌えるからと、宅配業者の中ではカササギフエガラス便が群を抜いて人気なのである。カササギフエガラス男子とかいう画集も販売されており、それは三年前のモソトセレクションベストセラー金賞に輝いていた。
「今日の夕方までに頼む」
「はっ、承知!」
人間の国の、ニンジャとかいう装束に似た彼らは、バズればなんでもいいとばかりに、人化した際はその国の民族衣装のニンジャ装束を着て、彼らの言葉のカッコいいと称される言葉を言う。その姿に憧れて、カササギフエガラス特急便に入職を希望する男子も多いらしい。
手紙を渡すと、煙玉とかいうものを弾けさせて目くらましをしたあと獣化して空を飛んでいく。油断すると煙が目と肺に入ってえらいめにあうのだが、それをご褒美だと喜ぶ女子もいる。
(あの頭巾の下は、いい年したおっさんだぞ? 仕事は超一流だが、あんなののどこがいいんだ?)
あれがモテる理由がさっぱりわからない。ますます、女子の謎思考がわからず嫌になる。
「疲れる……。さて、もうひとねむり…………じゃないっ!」
カササギフエガラス男子との短いやり取りだけでどっと疲れた。そのまま瞼を閉じようとしたが、アイリスのことを思い出して飛び起きる。
木の上から降り立ち、数時間前までいた医務室に向かった。
「お、ジョアン、いいところに。今からお前に会いに行くところだったんだ」
「……んだよ。ミストかよ」
「アイリスのことなら、リーモラ夫人が一緒だから大丈夫だ」
「な、そんな俺は! アイリスのことなんて、これっぽっちも、だな」
自分でも、なんであんな人間のことが気にかかるのかわからない。ただ、あのまま神のもとに向かいそうな存在を前にして、平静でいられないだけだと思う。途中で見つかったミストと一緒に向かったのは、Aクラスの教室だった。
(なんだよ、医務室じゃねーのかよ。って、俺はなんだって医務室なんかに……。アイリスはハリーの奥さんにまかせときゃいいだろが)
どうもおかしい。頭を振って、変になりそうな考えを追い払った。
「来年度の交流遠足の事なんだが……」
ミストの相談というよりも、ほぼ決定事項の内容が伝えられびっくりする。
「あいつとは、ゴーリンがペアを組むって決まってなかったか?」
昨年度の内に、ゴーリンがアイリスを次回の交流遠足に誘ったと聞いた。ペア組は、その時にもすでに決まっていたはずだ。
「それが……リーモラ夫人が聞いたところによると、アイリスは婚約を解消されたらしいんだ」
「な? 婚約解消?」
昨日、婚約していたことを聞いたばかりだというのに、それが解消されたとは。人間とは、一度決めたことをすぐに手のひらを反す嘘つき種だという噂は本当だったのかと開いた口がふさがらなかった。
「今までは、婚約者という我々にとっての番がいるアイリスだから、ゴーリンとペアを組んでも、女子生徒たちからはねたまれるがセーブが効いた面もあった。考えてもみろ、ゴーリンのファンがフリーのか弱くてかわいいアイリスが、あいつに世話を焼かれると、ほとんどの女子生徒や一部の男子生徒から、彼女が本気で睨まれかねないだろ? ないとは思うが、我々獣人は人間を番にする場合がある。万が一にも、ゴーリンがフリーになった彼女を番と決めたら、学園に血の雨が降るぞ」
(確かに、アイリスは、ひ弱で放っておいたら死んでしまいそうな人間の、しかも女の子だ。ゴーリンは清廉潔白で弱い者をとことん守ろうとするだろう。そんなゴーリンが、フリーのかわいい女子生徒にかいがいしく世話を焼きながら、一緒に険しい登山をするなど……)
そんな想像を始めると、胸が焼け付くようなもぞりとした感覚が襲う。イライラして仕方がない。
ゴーリンがさわやかに微笑んで、乗り越えられない彼女の腕をグイっとひく。思いのほか近づくふたりの距離。恥ずかしがって顔を真っ赤にしたアイリスに思わず見惚れるゴーリン。見つめ合ったふたりの距離が更に近づき……
「ダメだっ! ゴーリンとアイリスなんてペア、そんなの最悪でしかないだろっ!」
俺は、馬鹿馬鹿しい想像を振り払うかのように声を荒げてそう叫んだ。
「わかってくれるか? そうなんだよ、最強のゴーリンと最弱のアイリスのペアは、条件としては悪くない。なのに最悪なペアなんだ……。ふたりには他意はないだろうが、困ったものでな……。学園長も、アイリスのたぐいまれな学力を認めて、特例として奨学生の間は在籍を許された。ただ……去年のように交流遠足に出ないと、単位が足らず奨学生の条件から外れて退学をしなければならない」
「なっ……、なんでだ? 婚約を解消したって、アイリスは人間のえらい侯爵家の令嬢だろう? 身分も金もくさるほどあるはずだ」
「詳しくは話せない。今回、あんなことがあって初めて知ったのだが、アイリスは、もともと奨学生じゃなかったら学園に通えなかったらしい……。とにかく、こんな状況だ。交流遠足には彼女に出て貰って、半ばくらいでいいから成績を残して貰わないといけない。ゴーリンは、ひ弱で可憐な彼女を守るために、恐らく抱っこして進むだろう。コースは去年より楽にはしたが、人間には無理だからな。そうなったら、熱狂的ファンたちが彼女にマジで何をするかわからない」
ミストの話に首をかしげる部分はあるけれども、後半部分は納得だ。彼女が交流遠足に無事に耐えられるとは思えない。ただ……、
(ゴーリンがアイリスを抱っこする?)
なぜか、胸に業火が一瞬で燃え盛る。ゴーリンのさわやかなあの顔に、俺の自慢のクローをぶち込みたくなった。
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自分でもよくわからない持論で、あれこれ考えてしまう。なんだって、あいつが絡むとこんな風になるのだろうか。
「それが、俺と何の関係があるんだよ」
「そこで、実力No2の(ほとんどの女子生徒たちと半分くらいの男子生徒に嫌われている)お前とアイリス、ゴーリンとマッキーペアになる事が提案された。マッキーのほうが、アイリスよりはるかに強いのだが……。性別も♂だから、ファンたちも渋々納得するだろうし。獣人の中で最弱で逃走を得意とする彼だから、万が一ファンたちに追いかけられても大丈夫だろう。ジョアンだって、アイリスを抱っこして余裕で登山ができるだろう? マッキーのように、小さな獣化状態の獣人じゃないと無理なら、エクセルシスに頼むが」
(ジャンガリアンハムスター獣人のあいつは、獣化すればアイリスよりもはるかに小さくて、事故でもあれば、真っ先にぷきゅっと一瞬でつぶれちまう。そんなやつがアイリスとぺアになるなど、逆に彼女が守らなきゃならんだろうが)
「……ちっ。相談っつーか決定事項なんだろ。俺はマッキーだろうがアイリ……人間のあいつだろうがなんだっていい」
「うん。君ならそう言ってくれると思ったよ。あとでやっぱりいやだとか変更は受け付けないからね。交流遠足はまだ先の話だが、これからアイリスの事を頼んだよ?」
「……しょうがねぇな」
なぜか、胸がぞわぞわする。でも、それは気持ちが悪いようでいて、とても心地がよく、ミストが去って行ってからルンルン気分でユーカリの枝に戻り目を閉じた。
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