完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

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※前回、「一緒の墓に入ってくれ」「俺のパンツを洗ってくれ」「給料3ヶ月分」などなど、ポンコツコアラのセリフが多数抜けておりましたことをお詫び申し上げます。





 寝たふりをしていると、人化して薬を飲ませてくれたジョアンが顔を覗き込んできた。ドキドキ、胸が爆発しそうなほど鼓動がうるさくなる。

「俺も好きだ」

(え?)

 一瞬、何を言われているのかわからなかった。でも、聞き直すことも出来ず、別の意味で頭がクラクラする。

(好きって、好きって……え? 聞き間違い、じゃないわよね? うそ、ほんとに?)

 嬉しくて、どうにかなりそうだ。今すぐ、彼の言葉を確かめて、自分の想いを伝えたいのに、体中が熱くてどうにもできなかった。

 ガサゴソ、もふっ

 肌に、ジョアンの柔らかい塊がくっつく。ぽんぽんされると、いつもはとても安心して眠れるのに、さっきの言葉が気になって、頭が冴えていった。

 一瞬のことだったし、わたくしの願望が聞かせた勘違いだったかもしれない。1分、5分、10分と経過するごとに、記憶があやふやになっていき、自信がなくなる。

「まだ熱いみたいだな……薬がはやく効けばいいんだが」

 ジョアンが、わたくしの体調を、純粋に気遣ってくれているのがわかる。そんな彼が、眠っているわたくしに、「好きだ」なんて告白するだろうか。

「くそっ、アイリスのなのに、なんて情けないんだ。俺が、もっとはやく気づいてやれば……」

(あ、ペア……。そうだった。ペアだから、そういうだったってことよね。そうよ、ジョアンは獣人で、わたくしは人間。それに、ジョアンにしてみれば、面倒を見なきゃいけない厄介者……それなのに、わたくしたっら……わたくしが、彼を思うような感情好きなワケがないじゃない)

 歓喜で浮いた心が、すとんと奥底に落ちた。

(そうよ、友達として好きでいてくれる、それだけでいいじゃない……)

 瞼の奥が、じわじわと熱くなる。優しいジョアンが心配するから、泣くわけにはいかない。

(勝手に勘違いして喜んで、勝手に落ち込んで泣きそうになるだなんて……ジョアンが聞いたら呆れちゃうわね……)

 目の奥に、ぎゅうっと力を入れて、涙が出るのをこらえた。

ぽん、ぽん

 コアラの爪は、木にしっかり引っかかるように、鋭い鈎になっている。その鈎で、わたくしの肌を一ミリも傷つけないように、苦手な保護魔法を習得してくれた。

 手間のかかる無能な人間のペアなのに、そこまでしてくれる彼の優しさが、切なくて、かなしくて、いとしい。
 ジョアンへの想いを、消そうとすればするほど、そんな気持ちがどんどん膨らんでいった。

「アイリス、絶対に俺がなんとかしてやるからな。だから、今はゆっくり休め」

 ジョアンは、わたくしの夢を応援してくれる。卒業まであと少し。そうなれば、彼と離れ離れになるのかと思うと、体の半分が消えてしまうような感覚に襲われた。

(卒業しても、ジョアンと一緒にいたいなんて……無理に決まってるのに)

 学園にいる学生だから、ペアになれた。ただ、それだけの関係なのが悔しくて悲しい。
 侯爵家を出て、と離れ離れになる時は、悲しさを覚えるどころか、喜びでいっぱいだったのに。

(卒業してからも、せめて、友達でいてくれるかしら? 優しい彼なら、きっと、友達でいてくれるわよね?)

 そんな、馬鹿でどうしようもないことを考えていると、いつの間にか寝てしまっていたようだ。目が覚めると、眼の前にランチのプレートを持ったジョアンが立っていた。

「アイリス、起きたか? リゾットを作ったんだ。食えそうか?」
「ジョアン……」

 ジョアンが消化に良いチーズリゾットを作ってくれた。彼の手料理は初めてだ。わたくしのためだけに作ってくれた彼の気持ちが嬉しくて、それだけで胸がいっぱいになる。

「見よう見まねだけど、味はそこまで悪くなく出来たと思う。勿論、お前が作ったほうが美味いんだけどよ」
「ジョアン、ありがとう。美味しそうなにおい……」
「ばかっ、ベッドで寝てろって!」

 ベッドから起き上がろうとすると、ジョアンが体を起こして、背中にクッションを入れてくれた。まるで重病人のような扱いだ。ふぅふぅ、スプーンの中の熱々リゾットを冷ましてくれるという徹底ぶり。

「ジョアンったら、いくらなんでも、起きて自分で食べれるわよ」
「いいや、ダメだ。お前の大丈夫ほど当てにならねぇもんはないからな。ほら、口を開けろ」
「ん……」

 スプーンが口元に運ばれる。程よく冷めたそれを一口食べた。

「美味しい……ジョアン、本当に初めて作ったの?」
「ん? ああ、味付けはマジで適当だけど。コンソメと塩コショウくらいだぞ。リゾットくらい、誰だって作れるんだろ」
「ううん、簡単に思える料理ほど、その時々で加減が変わるし、ちょっとした火加減や混ぜ方で、舌触りが悪くなったりするから、案外難しいのよ」
「そうか? まあ、どんどん食え」

 ぶっきらぼうで、言葉も悪くて、サボり魔で……でも、とても優しい彼が好き。料理を褒められて照れる彼も、かわいいと思う。

(どうしよう……失恋確定なのに、どんどん好きになっちゃう……)

 彼がつくったリゾットを全部食べ終わると、また寝かされた。なんだかんだで疲れていたのか、翌朝までベッドの上の住人になっていたおかげで、翌朝には身も心も頭もすっきりした。

 ご両親が帰ってくるまで、ジョアンはわたくしの側を離れようとはしなかった。お風呂なんかは、流石に離れていてくれたけれど、四六時中べったり。

「ジョアン、本当にもう大丈夫だから」
「いいや、そんなことを言ったって、5分前になんもないところで蹴躓いたじゃねぇか」
「あれは、ちょっとした油断よ」

 ほとんどわたくしがコアラのジョアンを抱っこしていたけれど、人化した時は、お膝の上に乗せられるし、移動はお姫様抱っこ。歩こうとすれば、必ずエスコートをしてくれるという徹底ぶり。

 ある日、朝食を食べたあと、ジョアンから小さな箱を渡された。

「ジョアン、これは?」
「あー、なんだ。その、俺達、だろ?」
「ええ、ね」
「その証っつーか。前に注文していたやつが、さっき届いたばかりなんだ。ほら、右手を出せ」

 箱の中には、ジョアンと同じ目の色の指輪が入っていた。

「ブラックオニキス?」
「ほら、学園を卒業しても、俺達はずっと一緒っつーか。それとも、こんなもん嫌か? だったら、別のものを用意する」

(卒業しても、ずっととして一緒にいてくれるの?)

 わたくしは、嬉しくて彼にその指輪をはめてもらった。右手の薬指にぴったりおさまって光るそれを見ると、心がほんわかして、とても嬉しくて。恋人とかじゃなくても、ジョアンと一緒にいられるのだという幸せを実感した。

「嬉しい。ありがとう、ジョアン。わたくし、一生大切にするわ」
「大したもんじゃねぇよ。働き出したら、もっといいものを買ってやる」
「そんな。わたくし、これでじゅうぶん……」
「あのな、一応、俺だって成績上位だし、高官候補生だからな。俺がそんなケチで貧乏だとでも?」
「そんなこと」
「なら、大人しく貰っとけ」

 わたくしは、友情の証であるそれを、うっとり見つめた。そんなわたくしを、ジョアンも満足そうに見てくれている。

(このまま、時が止まればいいのに)

 わたくしは、今この時が一秒でも長く続くようにと、獣化してくれたジョアンを抱っこしてもふもふしながら願ったのである。
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